美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

H162

 優雅に私はお菓子を食べる。なにせ私は偉いのである。なので、こうやって食べ切られない程のお菓子がテーブルいっぱいにあっても何もおかしくなんかない。私の護衛も兼ねてるぬいぐるみたちがつぶらな瞳でこっちを見てる。心無しか羨むような瞳である。そんな訳ないんだけどね。

「食べないの?」
「何が入ってるかわかったものじゃない」
「毒なんてないよ? それに、まだ自分にそんな価値があるとでも?」
「私は唯一のスナフスキンの生き残り。貴様には屈っしません」

 私は長い机にどっさりとお菓子を積み上げてる。そこから好きなだけ取ってね――というスタイルだ。今までのお貴族様のマナー的にはありえないことだろう。でも私は一度やってみたかった。たくさんあるお菓子から、あれもこれも……って好き勝手に取っていくの。お貴族様ってのは、いつだって上品に、そして気品を見せてるからお皿に取り分けられたやつしか口にしないのだ。まあ問題はそれだけじゃなかったけどね。
 そもそもがお菓子の種類が片手てで数えるくらいしかなかったからね。クッキーとか、それに木の実を混ぜたやつとか、パンを甘くしたりとか、あとスコーンとか? そもそもがこれまで人種は狭い範囲で多種族や魔獣とかに怯えて暮らしてきたからね。そしていつだって食料は逼迫してた。貴族たちは比較的優雅にやってたかもしれないが、それでも贅沢品であるお菓子とかデザートとかは優先度的に高くないから、発展なんてしてないのだ。そもそも庶民の甘いものって本当にそこらになってる実だったらしいからね。

 だから私が持ってる知識とエデンのデータを開放して、お菓子の大量開発に乗り出してたのだ。だって私という美少女にはお菓子が似合うじゃん。普段何を食べてるのかってインタビューされた時、私は肉ばっかり食べてますなんて言えないよ。かわいいショートケーキ食べてますって言いたいじゃん。なので勿論ケーキもある。なにせ今は領土も広がったからね。色々と今まで発見できなかった食材なんかもある。

 種族が増えた事で、今までは食べられなかった食材だって、調理法がわかったものもある。食はとてもバリエーションが広がっただろう。誰もが凝った料理を作り出してるらしいからね。一回に一台魔導式コンロを導入したのが良かったのかもしれない。それになによりも、今は食料が溢れてるからね。ちょっと前までは明日生きることが出来るのかさえ不安がってた人たちが、食材に溢れてると、今までなんの味付けもなく食べてた物に不満を持っていったくさい。
 まあいいことだよね。第一次食革命が今起きてるね。そしてこれはそんな食革命が生み出した産物もたくさんある。なのでせっかくだからいつもショタとしか話してないショタコンを連れ出してやったというのに……この言い草である。

「別に屈する必要はないけど。敵対しないのなら、殺すことはしないんだし。もっと楽しんだらって言ってるの」
「楽しむ……なんて……」

 まあ色々と辛いのはわかる。実はわかんないし、興味もないが、こいつの存在自体はこっち側にいてほしいんだらね。だから色々と高待遇にしてるん訳で……しょうがない伝家の宝刀を抜くか。私は立ち上がり、お菓子を色々と物色するなか、ちょっと不格好なクッキーを見つけた。一つの更に集まってるそれはお世辞にもこの中では手をのばす事はなさそうな出来だ。ではなぜそんなものが混ざってるのか……

「ほら、これなんてどう?」
「一番まずそうなのを選ぶのか……それが本心ですね」
「私そんな嫌な女じゃないよ。これは誰かが、誰かさんの為に作ったんやつなんだけどな〰」

 それだけで多分こいつは察した。馬鹿じゃないし。するとその細い指を伸ばしてクッキーつまみ、一口でいけそうなものをちょっとだけ齧る。そんな乙女な様子に私にニタニタしてた。

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