美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

閑話 ある日のユングの苦悩6

(なんか……天井高くない?)

 外から見たときは、そこまで縦に長いなんて印象はなかった。けど、扉を開けてまずに思ったのが其れだった。違和感があったからだろう。だって外から見たら本当に、なんか絵本で見るような小さな小屋の家みたいなそんな感じだったんだ。それこそ一部屋だけをくりぬいて家にしたの? って家が子供向けの本とかには載ってたそれだ。実際、この部屋はワンルームしかない。いやマジで……トイレも風呂場もない。別にここが城の中なら、そこまで問題では無いと思う。けど、どっかに転送されて来たのなら……大分問題あると思う。目の前の湖畔で? いやいや、VIPだよね? 
 でも生活文化は種で全然違う。ここに来るまで文明というのに触れた事がない種は一杯いた。それこそある程度大きなコミュニティを形成できる種じゃないと、文明というものは生まれない……という定説があった気がする。獣人種はそれこそ大きなコミュニティを築いてたが、そっちが珍しいんだよね。寄り集まるしか出来ない人種と違って獣人種は単体でもそれなりには強い。勿論、上位に入る種とは比べるべくもないんだけど……人種に比べれば全然単体で強い。一体どんな種がいるのか……

「失礼します……」

 そんな事を言って一歩脚を踏み入れる。その時だった。

「――っ!?」

 汗が噴き出して来た。これは殺気だ。ヤバい位の殺気が僕に向けられてる。こんな物なのか? こんな中、彼女はここにいる何かをお世話してたのか? メイドってめっちゃ大変な仕事だったんだな……とか現実逃避してた。

(落ち着け、どうやらあれの殺気が向いてるのは貴様ではない)
(アラガタ……アナタに気付いてる?)
(完璧ではないがな。お前の中の我の気配に微力ながら感づいてるのは確かだ)
「アナタの関係者と言うことですか?)
(面白い奴だ。我に星事食われた巫女だな)
「それって…………全然面白くないですよ」

 寧ろ重い……重すぎる。でも今のアラガタの発言でここに居る種の事がわかった。星なんてキーワードはそうそう出てこない。それを使うのはアラガタと同じように星を与えられていた種にだけ。そして巫女という言葉も大事だろう。星と巫女……それを聞いて思い出す事がある。それはアラガタの星でみた光景。世界樹の根に取り込まれてたスナフスキンの巫女だ。確かクリエイトさんが彼女を連れ帰ったという報告はあった筈だ。

「はーふー」

 僕は頑張って体に空気を取り込む。空気は大事だ。なにせ空気がないと生きていけないし、他の星に行った自分ならその大切さも身にしみてる。僕はなんとか殺気の中で声を出す。

「貴女様はスナフスキン種の巫女とお見受けします。私はこの度アナタ様をもてなす様に言われたユングです。どうか……お見知りおきを」

 なんとかそこまでいって反応を見る。この家には一人分の家具があって、テレビもある。けど、そのどれにも触れた様子はない。どれもこれもピカピカだし、ベッドにも皺一つ無い。まあこれはメイドさんがベッドメイクをしたのかも知れないが……でも今は中途半端な時間だ。

「貴様は……何者だ?」

 空間に細長い三つの指が這い出てくる。ギョッとするが僕はいたって普通に返す。

「私はユング、一応王の養子となっております」
「なるほど……だが、私が聞きたいのはそういうことではない」
「うぎっ!?」

 次の瞬間、骨張った腕が僕の首を包んで締め上げてくる。更にその爪も食い込んでるようだ……殺される? いや、その気なら、人種の首なんてもっと簡単に折れる。この人は僕の言葉を待ってる。会話をしてるんだ。

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