美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

閑話 ある日のユングの苦悩

 まず、自分が生きてるのが不可思議だった。なにせ死を覚悟したのだ。そして実際、死んだはずだった。命が抜け落ちて行く感覚、そういうのは確かに感じた。それを救ったのは強大な存在。だがそれを自分は拒否した。何故なら、自分はもう十分だったからだ。
 そしてあの時、あの場でラーゼ様の為に自分が消える事がもっもと良いタイミングだったんだ。キララ様が子供を授かって養子の自分は邪魔なだけ。だからって恨むなんてことはなくて、ただ感謝してるから。感謝してるから困らせたく無かった。
 あの場での死なら、名誉とか評価とか諸々得れて、恩を返せて皆が幸せになれる筈だったんだ。だからこそ、僕はあの存在。アラガタの手を取ることはなかった。でもそんな自分の小さな抵抗は、あの存在にとってはなんの意味も無かったんだ。
 それはそうだ。アラガタという強大すぎる存在に取っては人種をいじるなんて簡単な事。それこそ、命を弄ぶことも。

 皆、気付いて無い。実はまだアラガタという存在が僕の中に居ることに。それはただのアラガタの残滓なのかもしれない。でも……奴は僕の中に確かにいる。僕を利用するだけ利用したアラガタ。それなのに、今やただ存在を悟られないように小さく小さくなっている。
 でも奴の熱さの様な物は胸の奥でヒリヒリと感じる。言ってもよかった。いや、本当なら報告すべきだろう。戦場から帰ったあと、もちろん僕は隅々まで検査された。なにせ僕は確かに一度死んだし、それを自覚もしてた。まあ瀕死の時に命を繋げられたんだろうが、アラガタに乗っ取られてた事は確かだし、色々とどんな影響があるかわからない。だから検査は当たり前。

 でもそれでこいつのが見つかる事はなかった。まあ実際、アラガタの声が聞こえるようになったのは最近だ。どうやら僕の中のアラガタはその小さな存在を僕のマナをちょっとずつ自分のマナとすることで回復を図ってるようだ。
 そんな事をべらべらと話していいのかと思った。アラガタが実はバカなのかはわからないが、それを聞いて僕は問題ないって思った。なにせ人種のマナの総量は他種族にくらべて圧倒的に少ない。そしてさらにその少ないマナのさらに少量をなんとか得てるアラガタ。
 もしも僕の一生に付き添ったとしても、こいつがかつての力を取り戻す事は出来ないだろう。それだけ人種一人のマナは少ない。だから問題なんてない。
 
 ただ頭の中がちょっと五月蠅くなったくらいだ。しかも今のアラガタはこんな事になってる。

『おい、朝だぞ。さっさと起きやがれ。飯だ飯!』
『ガキの癖に予定ありすぎだろ。次は十時から――』
『明日の予定はわかってるのか? 復習しとくか? 明日は何時に起こしてやろうか?』

 ――と、なんか頭に便利機能がついたみたい。

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