美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

R1

「平和だ……」
「はは、なにそれ亜子ちゃん?」

 私の呟きにそういうのは友達のスミレちゃんだ。晴天が広がる空の下、私達は校庭の隅に置かれてるベンチで二人、お弁当を広げてる。校庭には早々にお弁当を食べ終わった男子達がサッカーとかやってる。元気な事で……空では鳥さんが追いかけっこしてて、その更に遙か上空を飛行機が雲の軌跡を作って飛んでいた。
 私も女子高生の証の制服に身を包んで、勉学に励んでる。

「ううん、別になんでもないんだけどね。平和が一番だし」

 私はスミレちゃんにごまかす様にそういうよ。けど彼女は私の瞳をのぞき込んできてこういった。

「うそー、亜子ちゃんまた向こうの事を考えてたでしょ?」
「それは……けどもう一ヶ月も経ったし、そこまで考えてはないよ。今では夢の様だと思うし」

 事実、少しずつ向こうの世界の出来事は私の中から薄く成って行ってる。こっちのマナが私の中での割合として大きくなってくると、次第に向こうの出来事は薄れていく。それは向こうでも経験した事だ。向こうではこっちでの記憶がどんどんと薄くなっていった。
 それの逆バージョン。きっと、世界に馴染む為のシステムみたいな物なんだろう。いつまでも別の世界の事なんかを抱えてても良い事なんかない。目の前の事に目を向けて生きて行けっていう世界の優しさであり、そして残酷さ。

 でもどうやらスミレちゃんは私のその説明に納得してないみたいだ。

「本当に? 戻りたいとか思ってない?」
「思ってないよ。そんな手段なんてないし」

 私は今や有名人である。向こうの世界に行く前は、知り合いなんてクラスメイトだけみたいな感じだったのに、今では日本中、いや、世界中での有名人。それが嬉しいかって言うと……別に全然嬉しくはない。ただ厄介なだけだ。

「手段があれば……どうするの?」

 スミレちゃんはなんかウルウルした瞳でそう言ってくる。この子のは定期的に泣きを入れてくるんだよね。良い子なんだけど……実際、向こうに行く前はあんまり知らなかった。本当なら、私はごく自然に、今の時間軸に溶け込む予定だったから、私の環境が変わるなんて想定してなかった。
 けど、帰った時の騒ぎのせいで、私の周囲は否応でも変わる事になってしまった。なにせ空を割って人型ロボットが現れて、その中から現れたのが私である。世界中そのニュースで溢れたのは言うまでもない。今や、誰もが撮影機材を持ってる時代だ。
 
 そうスマホである。そのせいで証拠はバッチリ。ゼロの画像と共に、私の顔だって世界中で拡散された。肖像権の侵害を訴えたい。まあだから、今……私はただの女子高生のようで実際はそうじゃない。私は卵焼きを口に入れて咀嚼して飲み込んで、スミレちゃんにいうよ。

「向こうに戻りたいとか思わないよ。だって殺伐としてたし。こっちの方が全然良い」
「危ない!!」

 私の言葉にかぶせる様にそんな声が聞こえた。視線を向けるとボールがこっちに向かってきてる。それが私にはゆっくりと見えた。そして選択肢が見える。避ける? それとも止める? 女の子としてはここは可愛らしく避けたいところだ。
 けどその必要性がないのもわかってる。

「ふん!」

 後ろから壁の様な男の人が現れて私を守ってくれた。彼は私とボールの間に入ってその大きな体でボールを跳ね返す。

「ひええええええ」
「おい……やべえええぞってあれ」

 何故か大男の方じゃなく私の方を見てそういう男子たち。

「大丈夫ですか?」
「ええ、私はなんとも」
「それは良かった」

 そう言ってのっしのっしとボールを掴んで、男子達の方へといく彼。そして何やら話したら男子達はガチガチになって校庭からさっていった。

(はあ~、普通って何だったっけ?)

 私はそう思いつつ、弁当を頬張る。

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