美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

閑話19

 私の……いや、僕の名前は「ユング」、ただの子供だ。いや、割と不幸な子供だったはずなんだけど、いつの間にか勝ち組になってた。僕の親はもういない。でもそんなのこの世界では珍しくない。弱い人種は簡単に死ぬ……らしい。らしいが、僕には実感がある。

 男親は最初からいなかった。ずっと母さんと共に生きていた。母さんは夜のお仕事をしてた。なかなか美人で、とても人気だと言っていた。息子の自分から見ても母さんは美人だったと思う。けどここで見た人たちと比べると……本当に美人だったのか自信がなくなってくる。

 やはり偉い人というのは美しいんだなって思った。大好きだった母さんはある日病気になった。薬が必要だったが、その時母さんが付き合ってた男が家のお金を持ち逃げして薬は買えなかった。僕は必死に周囲の人達にお願いした。だが、誰も助けてはくれなかった。

 母さんはだんだんとやせ細っていき、そして……それからは地獄だった。誰も頼る人がいなくなっから、いつもお腹が鳴っていた。家はなくなって外で寝るのが当たり前になった。最初はどうにか生きようと思ったが、子供では限界があった。どんどんと自分の体も動かなくなっていき、もう気力もなくなった時、ふとあの老人たちが来た。

 なにやら僕は高貴な血を継いでるらしい。そういえばそんな事を母さんも言ってた。「貴方のお父さんはとても高貴な人なのよ」って。それはただ単に一度も顔を見た事ない父親を僕が悪く思わないようにということだと思ってたんだけど、どうやら母さんの話は本当だったようだ。

 その時から僕の環境は劇的に変わった。僕を助けた老人たちはへりくだるようにして僕に色々としてくれた。食事をくれて住むところを与えてくれた。それにお付きの人とか……だれかに世話をされるなんて初めてでとても恥ずかしかった。

 だが、王族はこれが普通らしい。なれてくださいとのことだった。そして僕を御旗に老人たちは兵士を集めていった。この国は今、偽りの王に支配されてるらしい。そこら辺はよく知らない。だがよくしてくれるこの人たちがそういうのなら、そうなのだろうと思った。でも母さんが言ってた事が引っかかってもいた。

『いい事だけを言う人には気をつけなさい』

 そういってた。けど僕には一人で生きていく力はないし、ここは居心地が良かった。皆がチヤホヤしてくれる。でもただ椅子に座ってるのは暇だった。だから周囲の大人に色んな事を聞いた。教わることもした。老人たちはそんな事しなくていいといったが、やる事がないのは暇だったんだ。

 それからあれよあれよと人は集まり、戦争に行くことになった。集まった人たちを鼓舞する為に僕は豪華な椅子に座ってる。そんな僕を見せて老人たちは兵士の士気を向上させてる。沢山の人達の沢山の叫びが響く。不謹慎だけど、この時の僕はわくわくしてた。

 王様になったら何をしよう? とかも考えてた。でもそれは数時間で瓦解することになった。なぜなら僕達のいる場所に綺麗で大きな機械の人形がやってきたからだ。

「えーと、この人は……その、自分のつ、つつ、妻……だ。キララこの子は――おい? おーいキララ」

 僕はあの金色の機体に乗ってた人に更に豪華な場所に連れていかれた。そして彼の奥さん……という人に紹介された。その人はとても綺麗だった。けど……どうやら僕は歓迎されてないみたいだ。いや、当たり前だよね。でもあの老人たちはいなくなった。

 後から聞いたが、あの老人たちは僕を王にする気はなかったみたいだ。ようがすんだらぽいっと捨てる気だったらしい。この人も……そうなのかもしれない。でも今は他に頼れる人はいない。あんな地獄はもう嫌だ。なら、媚を売るしかないし、幸いな事に僕はちゃんと王家の血を引いてたらしい。なら利用価値があると示さないといけない。

 だから僕は意欲的に学んで、そして子供らしく親し気に溶け込もうとした。でもキララ……さんはずっと僕を警戒してる。どうやら彼女は僕の下心に気づいてるようだ。

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