美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√64

「私の事はいいから!」

 そういう女性騎士。けど、それがぬいぐるみ達に理解できるのか……なにがいいのかわからないといったようにぬいぐるみ達はその首のない頭をコテンと傾けた。

「やっぱりわからないわよね」

 女性騎士はそう吐いた。そもそもわかるとも思ってない。けど、もしかしたらとおもって一応いっただけだ。わかってくれればそれでよかった。一縷の望みを持ってた。でもそれは絶たれた。それはそうだよね。この子達は戦うか守るかしかできない存在。そしてきっと作られた時には世界の守りがどうとかなんて微塵も情報なんてなかっただろう。だかららわよわな人種の事はとりあえず守ろうとするのは当然だ。

(私はいいんだけどな……)

 でもそれを伝えることは出来ない。どうしたらこのぬいぐるみ達にそれが伝わるのか。このままでは騎士たちが皆クリスタルウッドの不気味な飾りへとなってしまう。

「いくわよ」

 再び魔族の女がそう宣言する。不味い、このままじゃ三人目だ――と女性騎士は思う。

(こうなったら私が斬るしか!)

 そういう脳筋な事しか女性騎士は考えつかない。自分が奴を斬れさえすれは皆が無事でいられる筈だ――と。

「こ――」
「皆、彼女の傍に集まれ!!」

 女性騎士が短い声を発する前に、騎士の体長格の人がそう言って女性騎士の傍へと走ってくる。それに他の騎士達も続く。

「考えたわね」

 そういうのは魔族の女だ。女性騎士はわかってない。体長格の騎士は、このぬいぐるみ達は近くの存在を守ろうとするんではないかと考えた。それにさっきまでは皆、バラバラだっだ。一か所に集まると、一気に殲滅されるというのが通説だから二人一組になって行動するのが基本だが、それ以上では固まらない様にするのが人種の戦いの常識だ。ちゃんと距離を取れるのなら制圧射撃をする為にも部隊単位で固まるが、こういう狭い所では狙いを分散させた方がいい。

 だが、体長格の騎士の騎士はその考えを今捨てた。このままでは個別に倒されていくとわかり切ってるからだ。あの魔族の女が何をやってるのかがわからない。そして自分たちにはそれを防ぐのが困難。ぬいぐるみ達は近くの女性騎士を守ろうとして、周囲に手が回らない。ならこちらが近づくしかない。だからこその指示。周囲の騎士たちがガチャガチャと音を立てて集まってくる。数十人の騎士のその外側に、自然とぬいぐるみ達は出ていく。これで騎士たちは全員ぬいぐるみ達の手が届く範囲に来たはずだ。

「そんな小さな存在に私が止められる?」

 そう笑う魔族の女。そして消えた。女性騎士は自分の方へと来る――と剣に力を籠める。

「きゃ!?」

 けど次に聞こえたのは魔族の女のそんな声。そして一体のクマのぬいぐるみがズサーと地面を後ろに滑ってる。その目がとても速くチカチカとしてた。するとその明滅が他のぬいぐるみ達へと伝わっていくように広がっていく。

「やるじゃない」

 少し恥ずかし気に頬を赤らめる魔族の女。女性騎士はそっちよりも格好を恥ずかしがれよ――とおもった。魔族はやはり力至上主義なのかもしれない。

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