美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√63

「それが……服だと……」

 女性騎士が服を着たと言い張る魔族の女に厳しい声を向ける。女性騎士はその名の通りフルプレートの鎧を着てる。いやらしさなんてない。弱い人種を守るための最後の防御が鎧なんだ。遊びなんてあるわけない。けど目の前の魔族の女には遊びか……それともおふざけか……と思うような格好だ。いや、元々裸だった。女性騎士からしたら、異性の前で肌を晒すなんてありえない。最近ファイラルでは女性が肌を出すのが少しは和らいでる。

 それはアイドルの存在だ。彼女たちは過激な衣装をまとって歌って踊る。それはとても刺激的で、勿論初めは色々と反対意見はあった。だが、やり始めたのはここの領主のラーゼ様だ。領主様がやり始めた事に誰が異を唱える事ができるだろうか。それに実際その姿を一度でも見たら、その神々しさに彼女たちは許されてるのだと思う。やはり美しいからだ。そしてそんな彼女たちに憧れて下の者達もちょっと勇気を出して真似してる。

 だから女性騎士にも少しは耐性はある。それが流行りだからと実家から送られてくる服とかにはそういうのがあるからだ。けど目の前の魔族は許容できない。だってもうそれは服ではない。種族が違うといっても、目の前の魔族の女は限りなく人に近い。
 違いは腰にある翼とお尻からでた尻尾、そして額の角くらい。それに目をつむれば彼女は褐色の美女だ。男どもがイマイチ集中しきれてないのはそこら辺にあるだろう。呆れるが、しょうがないとも思ってる。力を解放した魔族の女は妖艶な輝きを放ち、同性の女性騎士さえも落ち着かなくなる雰囲気を持ってる。これが異性となれば……大変なのはわかってる。

 けどどうしても……女性として戦闘中にそんな事を考えられると嫌悪感が出てしまう。だから男たちにはなるべく意識をむけない様にする。幸いな事に、今一番矢面に立って戦ってるは女性騎士自身だ。世界の守りのおかげで魔族と対等……

(いや対等ではないか)

 それは女性騎士自身が一番よくわかってる。剣を合わせても奴は本気ではないと感じてた。それはさっきクリスタルウッドへと取り込まれかけてて証明された。奴は簡単に女性騎士を組み伏せる事が出来る。

 確かに女性騎士は死なない。世界の守りがそれを防ぐからだ。だが、魔族の女を倒すことは叶わないんだ。

「ふふ、そうよ。羨ましい?」

 一歩を踏み出す魔族の女。その髪が、そして胸が揺れて加わった紐が肉に埋もれる。なんという駄肉……そう女性騎士は思った。

「ふざけるな! そんなもの服ではない! 大体全部出てるじゃないか!」
「だって隠す必要のない体だし。貴方ももっと開いていった方がいいわよ。折角いい体してるんだから」

 そういわれて思わず女性騎士は体をかかえこむ。何やら鎧の下を見透かされたような気持ち悪さがあったからだ。そしてその言葉の後に集まる視線を感じる。それは男性騎士たちの視線だ。とりあえず睨んでおく。

「ふふ、本当はたっぷりと遊んであげたいんだけど……こっちにも予定があるから。ここからは本気。魔王様の為に種を植えさせもらうわ」
「種? ――つっ!?」

 目の前にいつの間にか魔族の女がいる。普通なら崩御を考える場面。だが彼女は前に出て剣を振るう。けどその剣は空を切った。

「なに?」
「まずは一人」

 その声に目を向ければ、いつの間にか男性騎士の一人の頭がクリスタルウッドに埋まって宙吊りになってる。

「今のは幻影?」
「ふふ、どうかしら?」

 再び魔族の女が突進してくる。その威圧が幻影だとは思えない。再び怯まずに剣を振るうがやはり空を切る。そしてクリスタルウッドには不格好な飾り物がふえる。

(私を囮にしてる?)

 周りのぬいぐるみ達も反応出来てない。それはこの子たちがいっしゅんでも女性騎士を庇おうとするからだ。あらかじめ組まれた行動しかこの子たちは出来ない。だから女性騎士に攻撃が効かないのだとしても庇おうとしてしまう。

「ふふ、次は誰にしようかなぁ?」

 楽しそうに、魔族の女はそう告げる。

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