美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

√12

「はあ……」

 王妃様は大きなため息を吐く。ここはアナハイムの一角の建物の中。家と言っていい。けど一部屋づつに住居人がいるという王妃様にとっては信じられない様な場所だ。けどだからそれでため息を吐いてる訳じゃない。

「そんなに悲観しなくてもいいじゃない? あの女を追い出したいんでしょう?」

 王妃様に敬語も使わずに話しかける女は窓際に立ち、外の光景を見てる。街には人がごった返し、今まさに王妃様御一行を乗せたダンプが通ってる。

「用心深い事ね。わざわざ私の記憶をいじって……流石悪魔って所かしら?」

 王妃様の声には緊張が含まれてる。それはそうだろう。だって王妃様は今はたった一人だ。普段彼女が一人になる事なんかない。あり得ないんだ。彼女は王妃。王に次ぐ身分の人なのだからその周りには常に護衛が、侍女がいるのが当たり前。

 けど彼女は今は一人だ。一人で町娘……よりは中なかに大胆な格好な女の前にいる。悪魔と呼んだ女は正真正銘の悪魔なのだから王妃様の声が固くなるのも無理はない。褐色の肌をした人に化けている悪魔。

「確かに私はあの女を追い出したい。だって危険だもの。けどあの女は中枢まで入り込んでるわよ。私がここに来た意味だって……」
「ふふ、大丈夫。あいつが敵だと、皆にちゃんと認識させてあげるのよ。あなた自身が危機に陥る事によってね」
「私の評判が悪くなりそうじゃないかしら?」
「存在感がないのに、評判なんて気にするの?」

 口角を大きく上げてそういってくる女。そんな女にイラっと来るが、そこで激高なんてしない。なんせ彼女は王妃なのだ。

「大丈夫、アレがいなくなれば、またこの国で一番美しいのは貴女。羨望がきっと戻ってくる」
「ええ……そうね」

 王妃様はラーゼが現れてたからの日々を苦虫を嚙み潰したような顔で思い出す。パーティーに出れば持て囃され、この国の全ての女性に羨望されてたのに……あの女の出現でそれは百八十度変わった。パーティーには呼ばれなくなり、呼ばれたとしてもその羨望が集まる事はなくなった。
 皆が見るのはラーゼばかり。シミも皺も……それどころか黒子さえないその肌。艶やかで煌めくストロベリーブロンドの髪。全てが完璧で出来上がったその容姿。

(うらやましい)

 そう思った。王妃である彼女が。全てを手にした筈の彼女自身が羨ましいと思ったんだ。それが許せなかった。だからこの悪魔にそそのかされたんだろう。

「あれをあんただと思ってる周りの奴らは死んじゃうかもだけど、もういい? そろそろ混沌を見たいんだよね」

 悪魔は恍惚の表情で体を自身で抱きしめながらそういう。それに対して王妃様は応えるよ。護衛も侍従たちも全てを捨てる様に――

「どうせアナタは止まらないでしょう。私は……魂を売ったのです。必ずラーゼを殺すか追い出すかしなさい」
「もっちろん」

 そういって彼女はその服を脱ぎ捨てる。そして窓の外に向かってその体を晒しだした。

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