美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ160

 僕は剣を振ってついた血を振り払う。同じ獣人を殺すというのは忍びない物があるが、ラーゼに侵された同胞たちは同じ獣人の手で開放してやるのも使命だろう。あんな奴の美しさに惑わされた同胞たちは、ただの獣も同然だ。
 
「結局、こちらに来る者たちはいなかったか」

 何人かいた獣人には声かけてみたが、誰もが首を縦に振ることはなかった。他の種の奴らも同様だ。ラーゼの美しさがどれだけなのか……

「いや、ただそれだけではないんだろう」

 ラーゼは美しい。それはもう種族の壁さえも超越するほどに……だ。だが、それだけで信頼や忠誠を得れるかというと、そうではないと思う。確かに美しければついてくる奴は多くなるだろう。だが本当のピンチの時に、どれだけの物が残るかは期待できないだろう。

 でもここの奴らはピンチになってもラーゼを選んだ。それは奴に王としての器がある証明。

「ラジエル、他の奴らもやるか?」

 そういってくるセーファ。僕は結界の中にいる者たちをみる。非戦闘員もかなりいるように見える。捕虜とするのが、正しいんだろうがこちらにもそれほど余裕があるわけではない。結界など、今の王の剣の前では意味なんてなさない代物だが、あれを破壊するのは色々と決めてからの方がいいだろう。

 自暴自棄になってか細い反撃を食らっても面倒だ。

「非戦闘員はあまり殺したくはないが……」
「船まで連行するとしても大変だぞ。重要な奴だけでいいだろう」

 確かにセーファの言う通りではある。片手で数える程度いれば……それなりにラーゼの周辺の事は調査してる。重要人物は選別できるだろう。とりあえずあいつを揺さぶれるプリムローズは捕虜としとくのがいいだろう。別にあいつを怒らせるのが怖いわけではない。ないったらない。

 あとはあの人種の研究者達の中にも重要人物がいるかもしれない。だからとりあえず炎をちらつかせるセーファを落ち着かせる。

「負けない! ラーゼ様は……あんた達なんかに負けないもん!」

 そういってくるのはこの中で一番小さな女の子だ。プリムローズの一員だったはず。そんな子を少し大きな少女が抱き留めてる。けどその目はこちらに怒りの瞳を向けてる。

「あれは……まずい代物ね」
「姫?」
「あなたも感じるんじゃない?」

 姫が言うアレが何なのか、僕にもわかる。あの小さな子ともう一人が持ってるマイク。あれは嫌な感じがする。とても大きな力を秘めてる。今の僕にはそれがわかる。

「あれは、生かしておくべきではないな。魂と結びついた武器……まさかアレは……」

 セーファが何やら考察してる。だが色々とその考えは言わずに簡潔にこういった。

「焼くぞ」
「まっ――」

 止めようとしたが、セーファの表情がそれをさせなかった。どうやら僕が思ってるよりももっとヤバイものらしい。今なら、確かに簡単に殺せる。あんな小さな子を……とおもうが、僕たちは敵だ。彼女たちはラーゼに心酔してる。こちらの言葉に耳を傾けることはないだろうことも想像できる。

「一応あれをここのデータベースで検索をかけてみよう。何か有用な手段があるかもしれない」
「あれは操れるような代物ではないとおもうがな」

 そういうもセーファも一応待ってくれるようだ。僕は心の中でアンティカの中の奴に頼む。その時だ。アンティカが妙な動きをしだす。

 そして心の中から聞こえる「やめろ! そんな馬鹿な!」の声。僕は「どうした?」と声をかけるが、返事が来る前にそれは起き始める。

 激しく揺れ始めたこの場所。そしてキューブが何やら光を発し始めた。激しい光がこの場の全員を包み込む。そして次に視界が戻ったら、本当の空が見えた。

「外?」

 転移した? なんの為に? 周りは白い石が敷き詰められてて、それなりに広い場所だ。何かの儀式にでも使ってたのかのような場所。それなりに高い場所でもあるみたいだ。

「ラジエル!」

 そういって僕の服を握ってくるティル。僕は彼女視線を追った。するとそこには高い壁に囲まれた建物が見えた。それが左右に一つずつ。そして頭上に落ちる影。見上げると、そこには壁があった。機械的で魔術的な壁。僕は心の中で、アンティカの中の奴にいうよ。

(なにが起きてる?)
(真の姿になる。三つのパレスが顕現し、エデンが出来上がる。我は……我は……なににも成れない存在だった……)

 絶望の気持ちが伝わってくる。エデン……それがなにを意味するのかは僕にはわからない。けど確実にわかることが一つだけある。それはそのエデンに君臨してるのがあいつだってことだ。

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