美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ118

「はあはあ……」

 私は激しく肩で息をする。上を見ると、沢山の人達が争ってる。その中でも一番私に近づいてるのはラーゼの奴だ。あいつだけじゃなくその取り巻きの奴らもいる。私の状態が終わったことで皆さんの戦力は低下してしまった。

 けど元々人種に後れを取る様な彼らではない筈だ。訓練をし、戦闘に特化した筈。軍隊とはそういう物だ。でも、流石に万全の態勢ではないと、不利になる。確かにアレは存在を一段階高みへと上げてくれる。私の存在を代償に進化の門を開けているのだ。
 どうやら私にはその資質があった。一度生死の境をさまよった時……わたしは……いや今はここからどうするかだ。

 アレは魂を摩耗する。自身だけじゃなく、対象となった者達までも。だから皆疲弊してる。大丈夫そうなのはそれこそセーファさんくらいだろう。あの人は元から存在が上位だから、私のアレの対象にはなり得ない。
 けど彼女はヘタってしまった皆の為のフォローでいっぱいだ。

「うさぎっ子」

 耳障りなそんな声が聞こえた。あいつは一人で浮いてる機械に乗ってこっちに来てた。さっきまで一緒にいた四人は何やら別の場所に行ってるようだ。

(あいつ、一人なら……私だけでも……)

 そう思ってスカートをめくって太股に忍ばせてる武器に手を伸ばす。こいつを殺せば、色々とこちらに有利……かもしれない。少なくともこいつの手勢は混乱するだろう。でもラーゼはアホだが慎重な奴だ。私が敵意を向けてるのだってわかってるだろう。

 分かってて、それでも私を欲してる。訳わからない。私はこんなにもあんたを嫌ってるのに……こいつは私に殺されない自信がある。事実、こいつは身を守る術があるんだ。大抵の事では傷つかない。こいつが傷つくときは大抵自身の巨大な力ゆえだ。

「ふうー」

 私は武器を取るのをやめた。そしてちらりと上空の木に居る姫を見る。彼女は私の視線に気づいて頷いた。私も……とおもったがもうラーゼは目の前だ。やめておく。ただ視線で頷き返しておいた。伝わったのかはわからない。

 けど……ここで私がやる事は決まってる。私は……何故かはわからないが、ラーゼに執着されてる。大変不本意だが……ひとつの行動を誘導出来るというのは大切な事なのだという。そしてそれが敵の大将ならなおさらだ。

 行動をこちらが誘導できれば、嵌めることだって出来るのだから。私は太股から胸元に手を持ってく。

「うさぎっ子、よかった。消えちゃったときはどうしようかと思ったよ?」

 花の様に開いた機械にのって私が乗ってる部分から数センチの上をすべるようにラーゼはやって来た。私は何も返さない。そんな私の事なんかお構いなく、ラーゼはそれからも気遣ったような言葉を投げかけてくる。
 けど私が何も返さないから間があいた。その時、耳に感触があった。きっとラーゼが触ってるんだろう。抗議の目を向けると、ラーゼはニマニマしてた。私と視線があって表情を引き締めたラーゼは腕を広げて私を抱きしめてきた。

(気持ち悪い)

 私はそう思いつつもこちらからもラーゼの背中に手を回す。その手の裏には一つのアイテムをもって。私はそれをラーゼの背中……心の蔵に近い場所に押し付ける。

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