美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ100

 色々な光が走り、そしてリズミカルに明滅を繰り返す。激しい音楽が、鳴り響き、それに合わせて私達は連結した籠の上で踊ってる。勿論、何事かと思って少しだけ戦場は混乱した。まあこっち側の連中はそんな事はない。けどオウラム勢とかは何がおっぱじまったのかわからないだろう。


 それはスナフスキンの奴も同じだと思う。そして勿論、現実では戦場で突然歌いだす様な奴を放っておくようなお約束はないのである。色んな頭を持ってる八岐大蛇が首を向けて来てた。けどそれはこっちの兵士達が体を張って防いでくれる。


 その頑張りに応える様に私達は歌いだす。私達の声が戦場に響く。


(うーん、これってどういう気持ちで歌えばいいんだろうか?)


 今更ながらに私はそんな事を考えてた。普段のライブは客に届け! って思いで歌ってる。私達のこの熱い気持ちがね。今も熱くはあるが、それはスナフスキンをどうにかしたい。もっと言えば倒したいという気持ちだ。


 でもそれって歌に乗せるとどうなの? と思わなくもない訳だよ。だって歌ってもっとこう、あったまったりする筈の物じゃん。熱くもなるけど、物騒な気持ちでそうそう歌わないよね? そういえば以前の世界のアニメでは戦場で歌うものもあった。


(そういうアニメではヒロインは主人公の為に歌うんだよね)


 けど私は私が主人公だと思ってる。ヒロインの気持ちになれそうではない。まあ戦ってる皆を鼓舞する気持ちで歌うのが普通なんだろうけど、この歌はどっちかというと、スナフスキンの奴に直接聞かせたい訳で……それなのに戦場の仲間たちを思って歌うのは違くない? と思うわけだ。


(シンプルに届け! とかでいいのかな?)


 けどその届かせる思いに悩んでる訳だよね。この曲に乗せて届かせる思い。実際スナフスキンの奴には私達が何をやってるのか、何を歌ってるのかわかってるのかも疑問だ。歌って言う文化はどんな種にもある見たいだけど、こんな複雑に音を出したりはしないからね。


 もしかしたら、ただの雑音とかに聞こえてたりするかもしれない。それはそれでショックだけど……スナフスキンの奴は八岐大蛇を生み出した当たりから動いてないんだよね。多分術式に集中してるんだと思われる。そして今の所、歌には反応してない。


 ちらりと私はステージ上でいっしょに歌ってるシシとコランに目を向けた。二人のマイクにも何ら変わった事は今の所起きてない。あのマイクは私達が普段使ってるマイクとかとは構造とか全然違うはずなのに、私達の使ってるマイクとかにボリュームを勝手に合わせてくれてたりする。


 そもそもが……だ。どこからあのマイクを通した声が出てるのかってのも謎だからね。こっちが用意してるスピーカーからでは実はない。それはそうだ。だってあれ、謎物体だからね。あのマイクが変換してるであろうシシとコランの声を、こっちのスピーカーが受信できる装置なんてないんだ。


 多分シシと、コランはこの戦場で戦ってくれてる人たちに向かって元気を込めて歌ってるだろうが、それでは反応はしない。最初、あのマイクが反応したのはこの世界を変化させた時。まあ実際、何が起こるだろうって気持ちしかなくて世界に変化を与えたいなんて気持ちで歌ったわけではないが……あのマイクはどこか世界のシステムの様な物に影響を与える事が出来るのではないかって見たてはある。


 もっと漠然とスナフスキンの奴に意識を向けた方がいいのかも。やっぱりこの歌が奴に届くように歌うか。私はシシとコランに目くばせしてダンスをちょっと弄ってスナフスキンの奴を指さす。歌ってる最中に無駄な言葉なんて挟めないからね。


 上手く伝わったかわからないが、私達は最高のアイドルグループである。歌ってる最中は裸で繋がってるも同然。そう思ってるのは私だけかもしれないが、そう信じてる。コランとシシは強い光を宿してスナフスキンの奴を見てる。


 歌ってない最中は怯えてたのに歌いだすとその震えが止まって強くなれる。まさにアイドルだ。そして二人だけじゃなくフィリーとミラもスナフスキンの奴に歌を届ける気だ。知らないだろうあいつに教えてやろうじゃん。私達アイドルって奴を!

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