美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ80

 俺の拳が白銀に届き、その体を後方にわずかに押した。でも、それだけだ。装甲もない、フレームだけの僕の拳など、そもそもそんな威力がある訳でもなかった。流石に人サイズなら潰せる質量があるだろうが、同サイズの相手には足りない。


 でも……ここで止まれるわけもなし!! 僕はラッシュをかける。顔を両の拳で連続して殴って殴って殴りまくる。けどそれでも……それだけやってようやく一歩。たった一歩を後退させた。けどまだだ! 僕は更に顎に肘鉄をかまして大きく上半身を傾かせる。


 そして白銀の頭を腕で包んで、足払いと共に床に押し倒す。


(今だ!)


 僕は倒れた白銀の手を渾身の力で蹴った。その手にあるのは剣。切れ味がヤバい、なかなかにかっこいい剣だ。この状態で、倒せるなんて思ってないさ。けど、奴らの武器ならどうか。僕は手から離れた剣を取った。


 その瞬間、何やらソフトウェアアップデートなる物が入った。そして剣の概要が表示される。


(次元振動剣『スロア二型』、それがこの剣の名か)


 その性能ははっきり言って王の剣より……いや、まだ僕は王の剣の全てを引き出せてる訳ではない。だから一概には比べられるものじゃないが……これはなかなかにヤバそうな代物だった。


『アップデート完了、使用可能です』


 の文字。僕は追撃してきてたもう一機の白銀の剣を同じ剣で受ける。不思議な感覚だった。普通は固いものがぶつかりあう感覚がするだろう。武器での応酬とはそういう物だ。僕だって獣人、武器とこの体で幾度となく戦ってきた。だから知ってる。


 けど、スロアでの戦いはこれまでのぶつかり合いとは根本的に違った。


(ぶつかった筈だけど……)


 スロア同士がぶつかった瞬間、なにやら弾力性のある何かに弾かれたというか、逸らされた感覚があった。当然硬い金属製の物がぶつかった時の様な音は出なかった。けど、周囲は激しく震えて弾けた。でもそれもおかしなことがある。


 普通は衝撃が伝わって壊れるのなら、その中心である僕達から円周上に衝撃は広がるはずだ。その間にあるものはもれなく壊れたりするもの。でも壊れたのもあるが、ビクともしてないのもある。壊れた物はそれはもう内部崩壊でもしたのか? 
 という酷い有様なのに、壊れてないのに本当にビクともしてないのだ。不思議すぎる。けど今はそれに思考を裂いてる場合じゃない。なんの疑問も……というか、きっとこの答えを知ってる白銀は普通に攻撃を続けてくる。


 それをいなしてく間にも、不思議な感覚は続く。これはきっと傍からみたら異様な光景に映るのではないだろうか? だってぶつかり合ってなくて、直前で剣線がそれてる様に見えるだろう。でもこっちは真剣そのものだ。


(どうしたら当たるんだ? いや、直接叩き込むしかないって事か?)


 よくよく考えたら、二メートルの所で止まらずに行けてる。知らず知らずにこのスロアが奴の謎防御をやぶってるのかもしれない。


『相手の次元振動の数値を計測完了しました。合わせますか?』


 そんなメッセージが見えた。もしかしたらこれで普通にぶつかりあえる? それなら何か奴らの事を感じれるかもしれない。僕は知性派なのを売ってるが、それでも所詮は獣人。獣人は戦いの中で通じ合えると信じる種だ。


 僕は頼む……と返した。そして次の一合でそれは起きた。今までは直前に軟体生物でも滑り込んできたのかと思う程にすれ違ってた互いのスロアがぶつかった。ただし、互いの剣の数センチ手前まで。突如剣は止まり、幾ら押してもビクともしない。


 素早く一旦スロアを引いてもう一度……


(あれ?)


 引けもしなかった。その時、警告が出る。


『臨界突破の次元振動のぶつかり合いで空間崩壊が始まります。規模は三キロ。退避推奨』
(は?)


 よくわからない……よくわからないが、とにかく滅茶苦茶ヤバそうなのはよくわかった。その証拠に白銀と漆黒、それにセーファと戦ってた奴が引いて行く。


「まあ、いい。ここの全ては我の中にある。この島に未練などない」


 そんな事を言い残して風景に溶けるように消えていく。不思議な事に白銀の手放したスロアは空中でそのままだった。そして僕が握ってるスロアとの間に何やら真っ黒なにかが生まれつつある。


(やばい!?)


 それを見た時、直感で絶対にダメな奴だとわかった。獣人の本能がこれに飲まれてはいけないと訴えてる。


(逃げろ!!)


 聞こえるか、分からないが僕は魂を振るわせてそう叫ぶ。それと同時に、スロアを手放して飛べない兵士達を抱えるだけ抱える。そして抱えきれない奴らは、どうにかこうにか、体にへばりつかせる。案外僕の意図したことを直ぐに察してくれたのは声が届いてたからか? 飛べる兵士は飛べない兵士を担ぎ、セーファもその炎で大多数の兵士を運んでくれてる。


 幸いな事にアンティカ達も逃げるのに必死で妨害はない。多分あいつらにも危険察知の機能があってそれが働いてるんだろう。僕たちはとにかくスロアの場所から離れる。チラリと後ろを振り返ると、空間がはがれる様にして全てを飲み込んで行ってた。


(間に合えええええええ!!)


 僕はアンティカの性能の限界を超えて走り続けた。この後に脚が焼き切れてもいい。実際、関節部分からは白い煙が上がって体全体が熱くなってるのを感じてた。

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