美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Δ74

(やめろおおおおお!!)


 僕の気持ちを受けてか、アンティカは想像以上の機動力をみせてくれた。地面にひびをいれ、一気に跳躍した僕は一瞬で二人の間に飛び込んでその攻撃を受け止める。一方は炎、そしてもう一方は剣での攻撃だった。旅の途中に手に入れたとても貴重な剣はマナを開放する力を宿す伝説の剣だ。有名な鍛冶の種の宝剣らしい。それを運よく僕は手に入れていた。アレがあれば、上位種とも渡り合える。それだけの剣だ。だからその気になれば、このアンティカの体さえも切れる筈。


 でも今、その宝剣を使ってる奴はただ振り回してるだけ。使い方をわかってない。だから防げた。セーファの方は一応僕の体の手前、加減してくれてたのだろう。


「アンティカか……」


 まずい、この状態では僕は喋ることなど出来ない。そしてアンティカは敵という事実がある。セーファは新手が現れたと考えるだろう。そう思ってたんだが……


「いや、貴様ラジエルだな?」


 びっくりである。何故に分かった? 思わず驚きのジェスチャー取ったよ。


「忘れたか、私は特別だ」


 確かにこいつは特別だ。だがこうなってもわかるとは思ってなかった。やっぱり不死鳥族のあの『死眼』は特別なようだ。死眼という名前だが、別に見ただけで殺すとかは出来ないよう。だがあの目は色々な物を見通す。それには未来や過去までもあるようだ。よく見るとセーファの瞳の中には小さな炎が滾ってる。本気になると、あの炎は目からあふれ出し目全体を覆うそうだ。見たことはないが……けどあの死眼で僕の事を看破してくれたようだ。ありがたい。


「かなり逞しい姿になったではないか。そっちのほうが便利ではないか?」


 確かに戦っていく中ではもしかしたらこっちの方が便利なのかもしれない。でもこれでは獣人とはいえない。僕は獣人に誇りを持ってる。そしてライザップを取り戻すことが目標だ。この姿のままではだめなんだ。それをセーファの奴もしってる。だから今のは冗談だ。僕はとりあえず落ちる前に一度拳を自分に向けてみる。どのくらい力加減をすればいいかわからないから不安だったが、あっさりと剣で防がれた。一度僕は地面に落ちる。その衝撃で微振動する。


 そんな僕に兵士の一人がとりついてた。どうやら跳んだ時に建物から落ちてきた奴がいたようだ。運良く彼の攻撃は装甲に当たって弾かれてたみたいだから気づかなかった。そもそも痛みがないから気づきようがないが……そういう敵を感じ取る器官とかないのだろうか? そう思ってると、彼はまだあきらめていない。装甲が薄い部分に武器を構えてる。流石にそれは不味い。だが振り落として怪我させるのも忍びない。


「やめろ。それがラジエルだ。敵の策略でその人形に魂を移されている」


 そういってセーファが兵士を止めてくれる。流石に戸惑った顔をしてる。だってセーファは僕……に攻撃をしてる。かれらにとっては大将は僕なのだ。彼らには今の僕が僕ではないとわからない。だからどっちが正気を失ってるのか、分からないんだ。声を出せたら……


「迷うな! 実際そのアンティカは貴様らを攻撃していないだろう! 今、目の前に居るラジエルはラジエルではない。私を前にして、王の剣を輝かせないのがその証拠だ」


 そんなセーファの言葉にどうやら兵士たちは納得したようだ。目の前の兵士は「すみませんでした!!」と誤ってくれる。とりあえず兵士が取る敬礼をやってみた。これで兵士達に襲われる心配はない。これなら安全に完全回復できるのでは? 周りには数体のアンティカが落ちてる。けどその時、別のアンティカからの攻撃で形を保ってた堕ちてたアンティカが木端微塵になる。そして戦場に聞き覚えのある声が響く。


「ははっ、はははははははははは! よいぞ。これが生きてるという事か。だが生き続ける為には貴様らは邪魔でしかない。あの魂もあんなに早く適応出来るとは思わなかった。体を貰った礼に生かしておくつもりだったが……邪魔をするなら殺してやろう」


 自分に殺される宣言をされる日が来るとは、夢にも思わなかった。

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