美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ155

――示せ――


 周囲の武器達の声が一斉にそんな言葉に変わった。このアスタナ達も、それを求めてるって事なのかな? けど……その術はなんなんのか。なにを示せばいいのか。私が誰かに、いいや、ラーゼ様に 何か返せる物があるの? 私は何も持ってなんてないのに……


「足が、止まってる……ぞ」


 気持ち悪い黒鎧着てるくせに、こいつの動きは速い。それにガシャガシャとうるさい音もしないし、思考に落ちてた私は反応が遅れる。目の前に迫る黒鎧はその二対の剣を振り上げてる。体が動かない。けど私は思考してそして難を逃れた。私は奴の斜め背後に移動した。


「はあはあ……」


 噴出した汗を腕で拭う。今のはマジで危なかった。常にショートポイントを使ってなかったら、今頃私は四枚に卸されてた筈だ。


「その力……も貴様の物では……ない」


 流石に黒鎧は気づいてるみたいだ。そりゃあそうか。他種族ならマナを見分けられるって聞いたことがある。それが出来るなら、私の魔力で魔法を使ってないのは簡単にわかるだろう。けどだからってこれを使わないなんて選択肢は存在しない。そんな事したら私は秒速であの世いきだ。まだ私は死ぬ気なんてない。流石に今のでちょっと心折れかけてるけどね。


「示せ……貴様を……」


 私自身で何かを行わないと、こいつは……いいや、この場所のアスタナ達は満足しそうにない。けどそんなの不可能だって理解してほしい。私はこの世界で最底辺の人種で、更にはその中でも戦う事なんか知らない存在だ。こんな武器そのものみたいなアスタナ達が満足し得る答えなんて……そもそも私には示せない。そもそも示すってなによ。訳わからない。その時コツンと靴に当たったのは細い剣だった。多分何回かしたショートポイントでここに落ちてたんだろう。


 これなら私も持てる……そうおもってその剣をとる。けどその剣は細見だけど、案外ずっしりと来た。これが武器の重みって奴なのだろうか? 刺さってるのは抜けないけど、既に抜けてる奴ならどうにかなる。けど……こんなのかまえた所で黒鎧に勝てるなんて思えない。


「一太刀……だ。豚ではないのなら……来てみるがいい」


 そう言って黒鎧ゆっくりとその巨体を広げる。大の字になって微動だにしない。まああいつの鎧の隙間から出てる触手みたいなのはにょろにょろしてるけど……えっと、これは一太刀だけなら反撃しないってことかな? つまりはこの一太刀で決めればどうにかなる? でもそれでこの黒鎧を倒せる?


――示せ――
――示せ――
――示せ――


 頭にそんな声が沢山響く。だからか示さないとって気になる。与えられたチャンスが最後の希望の様に思える。私は両手に力を籠める。震える腕を抑え込むようにだ。


(どこを狙う? 頭? 胸? それとも首を斬る?)


 いや、私に首を落とすなんてことは無理だ。頭も伸ばしたって届かない。それなら後は胸……心臓だけ。狙いが定まると、私は一度腰を落として足に力をためる。これが最後のチャンス。頭に響く声に、示してやるわよ! と言い返して走り――だそうとした瞬間、私の腰が掴まれた。


「シシちゃん! そんなの違う!!」
「コラン……」


 私の腰にはコランがしがみついてた。気配消しで全然気づかなかった。けどだからこそ、そのままじっとしててほしかった。そうでないと、コランまで殺される。それに違うって千載一遇のチャンスだったのに。


「やらぬか……何も示せぬなのなら……死……あるのみ」


 大の字を解く黒鎧。それを見て、私は剣を落とす。むなしい音が響いて消えていった。



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