美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ126

「なんと哀れな……変わらぬな……サイオス」


 そういったのはサイオスの父という事らしい奴。やっぱり可哀そうな奴と思われてるんだね。でも実の息子? をそういうってのも相当だなって思うけどね。普通もっと甘くなるでしょ。まあこいつが甘くなるって事がまず想像できないけどね。てかそろそろ顔を拝もうか? だってあいつずっとフードで顔隠してるし、なんか顔を見るとモザイク……ではないけど、電波が悪いみたいな感じに映るんだよね。


「メル」
「特殊な魔法ですね。認識疎外に近いですが、もっと高度な魔法です」


 そういって自身で掴んだ奴を見下げるメルの目から魔法陣か何十か展開される。


「ぬっ!? 見るな! ぬぐうう」


 初めて奴が動じた。そんなに姿を見られるのが嫌なのか? てか既に顔以外は結構見えてるけど。まあ見えてるというか、消えてるけど。なんか結構黒い肌をしてる。サイオスの奴は人種とあまり変わらない肌なのにだ。


「これは……」
「メル?」


 何かを看破したのかな? メルが声を震わせるなんて滅多にない。そのメルが少しでも動じたとなると、何かがあるんだろう。私はサイオスに視線をむけた。けどサイオスはそんな私の視線と合った瞬間、顔を逸らした。さっきからこればっかりなんですけど。私が見てないときにチラチラ見てきて、私が向くとそっぽ向くというね。純情か! と言いたい。こいつの頭の中では一体どんな妄想が繰り広げられてるのか……まあそれよりもメルのほうだ。だってこいつ使い物にならないし。


「見た……のか?」


 声が一段と低くなった。そして雰囲気が不穏になる。見たっていったい何が? どうやらそれはこいつが見られたくなかった事だったようだ。よしよし、弱味握れたね。


「ラーゼ、この者は――」
「いうな!!」


 その瞬間、メルの腕から、一本の剣が出てきた。それは奴の武器である黒い刃だ。更に奴は刃を振り回してメルの腕を切り刻む……がそれをメルは微動打にしてない。


「そんな物では私の存在は傷つきませんよ」


 静かにそういうメルには焦りも恐れもない。だからこそ、自身の攻撃が無駄だと奴もわかったのだろう。その動きを止めた。


「そのようだな。マナ生命体……その命の一片までもマナであるならば……無駄なのだろう」
「ようやく観念したようね」


 こいつはメルに捕まった時点で負けてたのだ。それをようやく理解したみたい。実際メルの腕から刃が出てきた時はヒヤッとしたけど、問題はなかったね。そもそもマナ生命体はゾンビアタック基本戦術だもんね。問題あるわけない。けど、メルは一度も消されたことないし、そもそもこいつだけやたら特別感あるから、ちょっとだけ心配になった。けどやっぱりマナ生命体という根本は変わらないみたい。


「まだだ……」
「何を今更。あんたはもう詰んでるのよ」


 こいつはもう後は消滅を待つ身だ。実際本当にこいつとサイオスが親子なら、父親を私が殺したとかになるわけだけど……こいつらには別に親子の別れを悲しむなんて雰囲気は毛頭ない。だってどっちも眼中に入ってないんだから。サイオスは私しかみてないし、奴だって私かメルくらいしか見てない。サイオスには視線を送ろうともしない。喧嘩でもしてるのか……それできえちゃっていいの? とおもわなくもないけど、私的には変な罪悪感とかなくて済むのはありがたい。


 けど、こいつはり「まだ」といった。もうこいつのマナも残り少ないし、やれることなんかなさそうだけど……


「貴様は、アイドル……なんて物をやってるらしいな?」
「いきなりなによ?」


 こいつ何を言い出すの? それって関係なくない? 時間稼ぎか? どうせ消滅するのなら、情報なんて渡さないという事? けど何か、嫌な予感が頭の奥をチクチクするような?


「メンバーは貴様を除いて残り四人……無事にしてるといいな」
「それって!? ――――つっ、どういうことよ?」


 まさか、シシ達に何かあった? けど何の連絡もない。私たちにはちゃんとバックアップしてくれる人たちもいる。常に飛空艇で上空から監視してるようなさ。異変があれば、通信が入るはずだ。けど何故だろう、こいつの言ってる事が張ったりだと思えない。私の女の勘がそういってる。けど態度に出すわけにはいかない。あんまり焦ってる様子を見せると、こいつの思うつぼだ。だから私は一度息を吐き、奴を睨む。


「娘たちは我らの手中に落ちた……と言ったら?」
「あんたら全員地獄逝き」


 私はニヤッと笑って間髪入れずにそう告げてやった。



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