美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ90

(おかしい……)


 私はペルの攻撃を受け続けるその存在に違和感を覚える。ペルの攻撃は岩だけじゃなく、今や大地さえも穿つ力をもってる。その速度も獣人に劣らないし寧ろ大抵の獣人よりかは早いはずだ。てかそもそも敵の方は避けようともしてないけど……なんなのあの防御力? 一体どんな種族ならあんな事が出来るっていうのか……あんなことが出来るのは私が知る限り、一人しかいない。攻撃をしてこない所もなんとなく被るけど……あいつがここにいるわけない。


 だって確かあいつはツアーしてる筈。最近始めた遊びに夢中だし……私の他にいっぱい女の子囲ってるし……まあ、私はそんな有象無象とは違うし。ラーゼの矛であり盾であれるのは私だけ。ラーゼの力を最も操れるのは私だけなのだ。それをラーゼの奴もわかってる筈なのに……あいつはほんと私の大切さをわかってない。今度会ったらもっともっと……


(いやいや、今はそんな事どうでもいいのよ。いまは目の前の敵に集中。どうやらそれなりの種族みたいだしね)


 こうなれば一発デカいのを放ってみる……いや、それしたら寮自体がなくなっちゃうか。ここには私の部屋もあるし……それはまずい。


(ペル、あいつ動かせない?)
(それがビクともしねえ。こんな敵は初めてだ!)


 確かにあの魔王の力の一端を使ってた奴でもペルの攻撃は通ってた。それなのにこいつは本当に意に介していない感じた。それはつまりはあの時の相手よりも上? でもなんでかな……やけに心には余裕がある。多分相手が殺気を放ってないからだろう。色々とおかしいんだよね。これだけの力があるのに、女の子を襲うだけとか……反撃の兆しなんか一向にないし。それに私に一切向けられない殺気もそう。


 こんな敵は今まではいなかった。私はあれから色んな魔物とかも相手に戦ってきた。時には軍について戦場に出たこともある。私がついてくとその戦場での生存率が極端に高まるから、反対する奴なんていない。まあ私の事を心配する子達は反対するけどね。あとは私に心酔してる貴族とか。いつの間にか、私は私が思う以上の存在になってるらしい。私を持ち上げたい誰かが居るようなんだよね。でも多分、その黒幕は私に直接接触してきてる貴族じゃない。


 もっと深い所に潜んでる気がする。そういう黒い感情の動きみたいなのは私は敏感なのだ。けど、私じゃこの人種の国の深淵までは見通せないみたい。色々と調べてるけど、尻尾が見えないしね。私は女神教がラーゼの後ろ盾になれればなって思ってたんだけど……なんか対立してるしね。私かラーゼ……どっちが女神か聖女かとか……女神教の信徒たちにとってはそれは大切なことらしい。あの人たち、私だけをそんな存在にしたいみたいなんだよね。


 それで一番邪魔になるのがラーゼなのだ。まあちやほやされるのは嫌じゃないし、今まで強く出れなかった私も悪いけど……私自身はこの力が自分の物じゃないと一番よくわかってる。だからこそ怖いってのもある。だってこの力があるから皆は私についてきてるんじゃない? もしもそれかラーゼのおこぼれだと知ったら? ってね。


(なんでこんなラーゼの事はばかリ考えるのかな私……今は戦闘中なのに)


 不思議だ。戦場なのに、それを意に介してないといわんばかりの相手のあの様子がやっばりあいつに重なって見えるから? 緊張感もそれほどないし……とかおもってるとペルが捕まった。攻撃して当たった所で掴んだみたいだ。確かに全然効かないのならそれも出来るよね。そしてこっちにペルを放り投げる。私たちは一緒くたになって地面を転がった。まずい……そう思って敵を確認するとこちらに歩いてきてた。


 自然に……いつものように……それはとても見覚えのある歩き方……私は思わず呟く。


「ラーゼ?」


 呟いてカタカタと体が震えてくる。得体のしれないと思ってた敵じゃなく、もしかして目の前の敵はラーゼなのかもしれない。知り合いなのに、なぜかどんな敵を前にした時よりも体か震える。だってそうしたらだよ……わたし……ラーゼをぼっこぼこに殴ってたことに……


「えっと……これはペルがやったことで私はまだ魔法は一度も――」
「ちょ!? マスター!!」


 使い魔に全ての責任を押し付けようとするクズがここに……もちろん私です。まだその何かは返事も何もしてない……けど、ラーゼだと思えば行動に納得できる。異常なまでの防御力も攻撃手段のなさも、そして女の子を襲う所も……ラーゼなら納得出来てしまうんだ。


「ふふ、面白い事言うじゃない。ペットの責任は主人の責任。そうじゃないキララ?」
「ふぁい……」


 輪郭しか見えなかったその姿が晴れていく。それと同時に私の力が抜けていく感覚がした。そしてそのせいか、ペルもまともに動けなくなってる。今まで何やってもこんな事しなかったのに……それだけ怒ってるってこと? 姿を現したラーゼは相変わらずの美しさだ。出てきた瞬間、目が潰れるかと思った。しかもほぼ裸同然……なぜなら、ペルの攻撃で服がボロボロになったからだ。肌に傷一つないけど……これは怒ってる?
 顔はニコニコだけど……


「あの……ごめん……な……」
「そうね。わかってる。あんたたちの事も少しは見れたし、けどこれは今までの分だから」


 そう言って片腕を伸ばしてくるラーゼ。その指は親指で中指を抑制して力をためてるかのよう……びくびくしてる私の額の近くに来ると同時に解放された中指が私の額にあたる。その瞬間グインと首が持ってかれた。


「あがあ!?」


 信者たちの前じゃ絶対にあげないような声を挙げて私は後ろにバタンと倒れる。そんな様子をみて、ラーゼの奴が笑ってる。


「まあ、それでチャラにしてあげるわよ」


 私は戻ってきた力で急いで痛みを消し去った。



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