美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ76

 突如として出てきた彼女達……そのパフォーマンスは凄くて私たちは行動を起こせないでいた。ただその動きを追うだけしかできない。何故かラーゼ様だけはうんうん唸ってるけど……私たちを見るために集まってた筈の視線が向こうに行ってしまってる。


『あの、どどどどどどうしましょうラーゼ様?』


 通信機越しにそんな情けない声が聞こえてくる。どうやら犬達も戸惑ってるみたい。私もどうしていいかわからない。コランは普通に向こうをみてウキウキしてるけど、私はちょっとイラっとしてる。だってあの観客たちは私たちを見に来たんだよ? それを横からかっさっらて……あまつさえ衆目の注目を一人占めしてることになんかね……アイドルなんかラーゼ様の手前仕方なくやってるだけだと自分では思ってた。


 けど、いつの間にか注がれる視線が癖なってたのかも。私の心に悔しいみたいな思いがある。いつの間にかアイドルとしての自覚が芽生えてたのかな? 


「この曲の終わりに攻勢を仕掛けるわよ。どこの誰かもわからない奴に私たちプリムローズは負けたりしない!」


 なんだかちょっと芝居がかったみたいな口調でラーゼ様が言った。驚いた様子もないし……なんかちょっとあやしい。昨日ラーゼ様は消えてた。そして今日、いきなり私たちと同じようなアイドルが出てきた。これは果たして偶然だろうか? 色々と聞きたい事はある。実際ラーゼ様は何かを知ってる筈だ。けど……いまは……ライブ中だ。このままではいられない。このままファンをとられたままじゃ……私の何かが許せない。


「行くわよ皆!」


 ラーゼ様の言葉と共に、しぼんでたこっちの船の照明が再び強く発せられる。私たちもいると、そう主張する。そして彼女たちの歌声が終わったタイミングに合わせて曲が切り替え割った。今度は取られたりしない。私は最初の旋律を声に出して紡ぐ。そして踊りだし、私たちの動きは大きな映像となって移される。それと同時に客はこっちを見てくる。


(見てる。こっちを……私を……私達を……みてる!)


 視線がこっちに注がれるのがわかる。それが気持ちいい……かもしれない。けどその時だ。私は気づいた。私達の声に重なるような声。客の全部の視線が私たちに向いてる訳じゃない。そうまだ全部じゃない。私達と同じように彼女達も歌ってる。これはまだそんなに披露してない曲なのに……それでも彼女達は完璧だ。奪えない……全部を。こっちにラーゼ様だっているのに……なんで? けど……それでもまけるなんてラーゼ様が選んでくれた私たちが負けるなんて許されないよ! 


 私たちはラーゼ様以外で視線を交わし合って心を一つにする。彼女たちに負けない! それさえ共有してるなら……私たちは仲間だ!! アイドルやってるのはこっちの方が長いんだ。その違いを見せてあげる。



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