美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ69

 いなくなった。誰が……なんて野暮だよね。勿論ラーゼ様である。そして今は一日が経ってしまった。ローデリア家からいなくなったラーゼ様の捜索は連れてきた冒険者とか総動員して探した……とういかまださがしてる。冒険者達を馬車馬のごとくこき使ってね。高待遇だったんだからこのくらい働いてもらわないと困る。それから犬たちがファイラルの方へも連絡してたみたい。多分向こうでも大慌てで探してる事だろう。


 てか向こうには私たちの知らない力が集まってるわけで、実はもう見つけたりしててもおかしくない気はする。でも何の連絡もないうちは捜索をやめるなんてできない訳で……私たちだって諦める事は出来ない。


「うーん……むにゃにゃ……ラーゼ……しゃま」


 コランはミラの膝の上でおねむだ。少し前まで私たちも捜索に参加……もとい、報告をずっと船の中で起きて待ってたのだ。けど流石に小さなコランは脱落。フィリー姉さまはずっと端の方に椅子をもっていってブツブツ壁に向かって話してるから触らないようにしてる。あれだよ、触らぬ神に祟りなしだよ。絶対にヤバそうだからね。あれには触れちゃだめだと私の本能が言ってる。


「もう日が傾いてる……」


 空に浮かんでる船から入る夕日はどうしようもないくらいに赤く……瞳に鮮烈に入ってくる。細める目だけじゃ足りず、てのひらでその光を遮る。するとその時だ……私は自身の頬から流れ落ちる雫に気づいた。なんで……なんてそんな疑問はわかない。だってこの涙の理由なんてわかりきってる事だ。


「ラーゼ様……置いてかないで」


 ぽつりとそんな言葉がでた。けど私はそんな自分の弱気を振り払う様に涙をぬぐって、その強烈な光をまっすぐに見据える。すると堕ちていく太陽の中に何がか見えた気がした。


「ん……」


 私は必死に目を細めてその姿を確かめる。段々と近づくとわかる。その輝きが太陽なんかに負けてない程に輝いてる。私がその姿を見間違えるはずがない。


「ラーゼ様……ラーゼ様!!」


 そんな私の言葉にこの場にいた皆が窓のそばに駆け寄ってきた。ラーゼ様はなんだか鳥みたいな乗り物に乗ってる。ダンプ? ではない……なにあれ? そんなラーゼ様は甲板に止まったようだ。皆が一目散に飛び出していった。寝てたコランも、飛び上がってかけていったよ。私も行かないと……いきたいもん。通路を突っ切って走る。階段を上がって……するとすでに甲板から中に歩いてきてるようで、何人かの人たちが慌ただしく私を避けていった。


 そしてようやく私の目に彼女がはいる。ミラ達と犬達に囲まれて談笑してるラーゼ様は消えた日に変わりはない。いや、何やら見慣れない格好してる。ひざ丈のズボンは胸の下まであってシャツインしてるし、ラーゼ様じゃなかったら超ダサい格好だ。そんな格好でも超輝いてるラーゼ様流石……流石過ぎて足が止まらず、私は一気にラーゼ様に飛びついた。


「ラーゼ様ラーゼ様ラーゼ様」
「うんうん、大丈夫だよ」


 そう言って優しく抱きしめてくれるラーゼ様。私はその感触と匂いを思いっきり堪能するよ。最高です。ここに居てくれる。傍にいてくれる。それが一番の幸せ。どうやら私が離れたくないのだ察してくれたラーゼ様は話の続きをするようだ。


「よし、皆ライブやるよ! 予定にないけど、私たちなら余裕でしょ」
「本気ですかラーゼ様?」


 そう聞き返すのはフィリー姉さまだ。それにラーゼ様は「できない?」と聞き返す。


「いえ、貴女が望むのなら私たちはなんとしてもやり遂げます」


 口調……忘れてるね。それだけ本気って事だろう。ライブ……どうしてこのタイミングで? まあこの領ではまだやる予定だったけど……同じ場所で二度やるなんてツアーにはなかったことだ。それをやる。確かにラーゼ様は気まぐれで、自分のやりたいことだけやるタイプだ。そしてそれが許される存在だ。だからそんな深い意味はないのかもしれない。けど……なんだか胸がざわっとした。



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