美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ59

「はあはあ……」


 体が重い……少し、使いすぎたな。だが流石にあの人数差は出し惜しみしてる場合ではなかった。俺は路地裏の壁に手をつき、ふらふらとした足取りで前へと進んでる。まだまだ周囲は騒がしい。冒険者共が俺を探すのに躍起になってるみたいだ。それだけ俺へかけられた報奨金がいいってことなんだろう。悪くない……


「意識してくれてるってことだよな」


 俺はへへっと笑う。こんな状況でも笑みが零れるのは、今俺とラーゼが繋がってると思えるからだ。俺たちは直接会ったことはない。だが……この仕打ち……それは意識されてるってことじゃないか? ただ社会奉仕を逃亡した奴にこんな事はしないはずだ。少なくともラーゼは俺の事を知ってる。それがうれしいじゃないか。そしてラーゼは俺にこういってるんだと見た!


『私の伴侶になりたいのならこの程度の事潜り抜けてみなさい』


 きっとそうだ。そうに違いない!! 俄然やる気がでてくるというものだ。ラーゼの期待に応えなければな。そして彼女のピンチの時にいないはずの俺が颯爽と現れる。


「最高だぜ……」


 俺はその場面を想像して一人打ち震える。だってそうなったらもう胸がきっとキュンキュンするはず。まあ俺とラーゼはすでに運命の相手と決まってるが、やはり劇的な邂逅は必然だと思うんだ。それを実現するためにも、こんな所で社会奉仕なんかに連れ戻される訳にはいかない。そもそも人種の社会なんてもの……そうおもってると誰かから奪い取った武器が震える。俺はすぐにその場から移動する。


 そしてさっきの場所が見える一室からこっそりと覗くと冒険者風の奴らがその路地へ……いこうとしてこっちに来た。とっさにカーテンに隠れたが、多分あいつら入ってくるな。ここは民家だからちゃんとした許可証でもないと、住人が反発するはずだが……


「お兄ちゃんだれ?」


 後ろの扉が開いたと思ったら小さな子供が俺を見つけてしまう。勿論俺も不法侵入だ。ベランダから颯爽とここに入ってきた。俺は直ぐに再びベランダ外へ。だが地面には向かわない。下には冒険者がいるからな。なのでせり出した部分を掴んで体を持ち上げて屋根へと飛んだ。だが屋根にも奴らの手は伸びてた。


「いたぞ!」


 屋根伝いに迫ってくる冒険者は五人。やってやれない事はない。だが……なにかひっかかるな。とりあえず俺は奴らに追いつかれないように反対側に逃げる。だが屋根だと進行出来るルートが制限される。屋根という場所が意識の外にあれば、とても有効な逃げ道なんだが……すでにみつかってる以上、長く屋根にいても意味はない。追いつめられるだけだ。だから俺はある程度離した所で屋根から飛び降りる。そして人混みを使って入り組んだ道へと進む。


 そしてまいた……とおもった矢先に再び見つかる。こんな事が何回も繰り返される。


「ぜえ……はあ……すこし……はっ……休ませろ!」


 体力的にまずい。なんとか逃げれてるが……それはあいつらが深く追ってこない……


「まさか……」


 嫌な予感がした。悉く俺の進路上に現れた冒険者たち……なのに逃げれた。そしてたどり着いたここ……このながい一本道の路地に誘いこまれたとしたら? 細い路地だが日当たりもそれなりにあるこんな場所に人っ子一人いないのは不自然だ。それに後ろから迫る冒険者達はいつの間にか消えてる。だがいるとはわかる。気配で。それにかなりの数だ。必然、一本道を進むことになる。俺の位置はもしかすると筒抜けだったのかもしれない。


 まるで掌の上で遊ばれてた気分だ。この先にはきっと実力者たちがいるんだろう。二度……同じ手が通用するとは思えない。だが逃げ出そうにも俺の位置が悉くバレてたことを考えると……それをやってる奴を倒さないとこの状況が再び再現されるのは明白だ。


「よし、取り敢えず魔術師どもをつぶす。そして逃げる」


 それしかない。誰が俺の位置を暴く魔法を使ってるのかわからないが、きっと魔法の類であるとは思う。そう思ってると……通り過ぎた道に白いローブを着てフードを目深にかぶった奴がいた。


「捕まりますよ。確実に」
「……ふん、俺は英雄だぞ」


 動揺を悟られないよに俺はそう返した。確実に通り過ぎるまで何もいなかった。気配さえなかった。いや、その気配は今でも希薄だ。だがこいつはここにいる。てかなんか……見覚えがあるような? 


「お前……ゼラを狙ってた奴!?」
「気づくの遅いですね」


 肯定した。どうやら当たってたみたいだ。だがなぜこんな所に? 吹っ飛ばした筈だか? いや、狙いは明白……ゼラの奴か? 


「ちょっと協力して貰えませんか? あの時は問答無用でしたが、今なら私たちは対等……いえ、こっちが有利。助けて差し上げますよ?」
「誰が貴様らの様な奴に――」
「私たちは悪ではないですよ。それにどのみちこのまま手は貴方は終わりです。言っときますけど、この先に、貴方の位置を暴いてた術者はいません。どこまで行っても逃げられなんてしない。貴方だけの力では……ね」


 怪しげなフードの下の口が吊り上がる。どこまで信じていいのかはわからないが、確かにその術者を俺の前に見せはしないとも思える。そうなると逃げられはしない……か。


「俺は悪だから倒してる訳じゃない。俺の前に立つ奴を倒してるだけだ。だから貴様らが俺の障害になるのなら……」
「ええ、どうぞその時はご勝手に」


 そう言ってそいつはその細く白い手を差し出してくる。俺はその手をがさつに取った。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品