美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ48

「わあー見たことないものがいっぱいあるわね」
「そうですね。どれも……きっとミラちゃんには似合う……とおもうな」
「――――えっと、うん、ありがと」


 なんだこの雰囲気は……ミラちゃんがふんわりと頬を赤らめて視線を外してはちらちらとこっちを見てくる。そして自分も恥ずかし気に同じようにしてる。そうしてるせいで、たまたま時折視線がかち合う。そうなると一気に自分と彼女は顔を反らす。そして数秒後、恐る恐るもう一度振り向くと、そこは同じように顔を赤くした彼女が全く同じタイミングでもう一度振り返ってた。そうして状況はループする。なんなのこの甘酸っぱい感覚。


 どうにかしないとと思っても、こんな経験をしたことない自分にはこのループの抜け方なんてわからないんだ。「大丈夫」――そうおもってタイミングをずらしたと思っても、なぜかバッチリと彼女……ミラちゃんとの視線がぶつかる。もうこれはそういう罠なんじゃないかと思えるほどだ。これを抜けるだけの忍耐力が自分にはない。だって真っ赤にして、そして瞳をウルウルしてる彼女ははっきり言って可愛すぎた。


 その顔を見た瞬間、頭が沸騰したみたいになって何も考えられなくなる。その状態から抜け出す唯一の方法が顔を逸らす事。だから同じ行動を繰り替えしてしまう。でもそこで一つ疑問が生まれた。それは彼女、ミラちゃんの方だ。なんで彼女までこんなループに陥ってるのか……自分にはわからない。いや、己惚れる事なら出来る。でもそんな事があり得るだろうか? 彼女は可愛くて、綺麗で……そして優しい。理想を体現したみたいな女の子だ。


 今まで自分は女性が怖かった。けど興味はあって……でも自分が知ってる女の子たちは自分を気持ち悪いっていう。かっこ悪いっていうから……けど彼女達は違った。魅力的歌と、そして笑顔を向けてくれたから……女の子たちに縁なんてなかった自分たちはすぐに虜になった。輝くステージで沢山の人達を前にしても堂々として、見たものを魅了する。そんな自分たちと全然違う彼女だから……自分の事が……なんて思うなんて自惚れ以外の何物でもないじゃないか。


 そんな大それたこと……あの二人には脈があるかもとか言ったし……実際のこの反応を完全に無視できるほどに自分は鈍感な訳でもない。でもそれは……その状況がこうして目の前にあっても自分には結局何も出来ないヘタレだってことを再認識させただけ。


 本当にそうだとしたらとても……いや、それこそ死ぬほどに嬉しい。こんなチャンスきっともうない。これからどんどんと彼女たちは今よりも多くの人気を得てくだろう。それは確実だ。近くで見てるんだ。自分はそれを確信持って言える。届かない遠くに行くのは確実。そんな彼女も今なら……まだ手が届くかもしれない。けど……手が届くとしてそれは伸ばしていい手なのか……そんな考えと何度目かもわからない視線の交差……その時店のどこかでガシャガシャと物が落ちる音が響いて慌ただしくなった。


 それをきっかけに自分たちは何とか平静を装い、店を後にした。けどまだまだ時間はある。


「えっと、次はどこに行くのかな?」


 そう言って一歩、さきにぴょんととんだミラちゃん。風に乗って届く彼女の香りに頭が揺らぐ。背景は真っ白っに見えて、自分の目にはジャンプしてふわりと軽やかに揺らぐ彼女の髪と服だけが見えてた。タン――と彼女が地面を踏む音がやけに大きく聞こえる。そして振り返った彼女の笑顔。それはもう言葉で言い表せないぼ度に可愛くて、自分の心臓が爆発してしまったんじゃないかと思うほどに鼓動を鳴らしてた。



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