美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ14

「だめだ……彼女に……逆らっちゃ……」


 そういうのは先に倒れてた奴らの一人だ。冴えない顔に、別段特徴もない服装……まさにそこらにいそうな、ザ・モブといった感じ奴だけど、その心がけは感心だよ。そう、世の中には逆らっちゃいけない相手というのかいるものだ。


「だが……お前達の仇を……」


 いや、死んでないじゃん。仇ってどんだけ私を悪者にしたいのよ。てか私を殴ることさえもうできないくせによく言うよ。


「仇……ね」


 私はそう呟いて赤線とそいつを掴んでるモブ君をみやる。すると二人同時に顔を背けるんだから面白い。


「顔も見れずに仇なんてとれるのかしら?」


 私は挑発的にそう言ってやる。そもそもが仇とられるような所業なんてした覚えもないけどさ。今や生まれたての小鹿のような赤線野郎が面白くてついついやっちゃうよ。


「友の……為なら! たとえそれが――」
「それが?」


 私は正面に屈んで真っ直ぐに赤線の顔を覗き込む。当然、さすがにこれでは私を隠しようがない。だから気づいただろう。私がラーゼであると。


「――」


 途切れた声が続くことはなくて、それは数秒以上続いてる。てか本当に石になったかのように微動だにしない。あまりの驚きでショック死したんじゃないかって思えてきたよ。だって私の美は強烈で強力でそして抗いようなんてない代物。わかってたはずなのに、犠牲者を出してしまった。


(いや、でもさすがに死んではないでしょ?)


 マジて息もしてないように見えるけど、きっと大丈夫。私はそーーと指で赤線のおでこを突っついてみた。するとなんと、バランスを崩してその体制のまま地面に横に倒れた。なにこれ? 剥製? 私に気づかれずに入れ替わるとか、なかなかやるじゃん。剥製なら何も問題ないね。


「よし、じゃあ私はこれで」


 面倒そうだし、私はこの場を立ち去ろうとする。気づけば何事かとギャラリーが多少なりとも集まってるし、さっさと退散しないと気づかれるかもしれない。さすがにずっと注視されると認識疎外も効き目がなくなるからね。


「ら……ラーふぐ!?」


 ちょっとこんな人が見てる中で名前呼ぶとかないから。私は有名人なんだよ。しかも今はお忍び中。ここで大勢にばれる訳にはいかない。だから私はとっさにがバッとその口を勢いよく抑えた。その瞬間、今度はモブ君が顔から湯気を出して小刻みに震えてる。なんか腰の所がビクンビクンなってるけど……これって……


「きゃ、きゃああああああああああ!!」
「おい今何をしたんだ?」
「男三人があんな……もして……死んで……」


 まずい!? なんか空気が非常にまずい感じになってるのがビシビシ伝わってくるよ。けどここで私が声を出したら、多分かろうじてきいてる認識疎外も効果をなくすだろう。つまりは弁明の余地はない……と。


「そこの君! その場にいなさい! ほら、通して通して」


 げっ,街の巡回の兵士を誰か呼んじゃったよ。ちょっと待ってよ……わたしが補導されるとか、さすがにないんですけど……でも、弁明もできないし。


(こうなったら)


 私は覚悟を決める。幸い、兵士は人だかりのせいでまだ近くにはいない。私は自身の体にマナを巡らせてそして軽く地面を蹴った。すると一気に屋根まであがる。そしてそのまま逃げだしたよ。体内で作用できるマナの操作だけは進歩したのである。私はもうただの硬いだけの女じゃない! 後ろのほうで騒がしい声が聞こえるが、こうなった以上にげるが勝ち! 私はそう判断して頑張って走る。



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