美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

θ8

 コンコン――と扉が叩かれる。私は「どうぞ」と言ってそいつを招き入れる。


「失礼しますよ」


 そう言って入ってきたのは蛇ことアンサンブルバルンだ。ぴしっとした皴一つないスーツを着て、その鋭い瞳はまさに出来る奴って感じ。その鋭い瞳が私を射抜く。


「ラーゼ、ツアーというのを聞いたのですが?」
「早い。流石私の右腕」


 私はそういってほめてあげる。けど蛇は大きなため息をつくだけだ。まったく私が褒めてるんだからもっと喜びなさいよね。なにがそんなに気に入らないのか……


「それですべてこっちに投げる気ですか? 護衛やその他諸々のすり合わせはどうする気ですか? ラーゼは一応は領主なのですよ。やることそれなりにあるでしょう?」
「それなりにね。けどそんなのどうにでもなるでしょ?」


 私がそういうと、もう一度深いため息を吐く蛇。そして何か言おうとしてたところを無言の笑顔で打ち抜く。すると一瞬体がびくっと反応して、雰囲気が少し変わる。仕事モードから、プライベートモードへとね。


「まったく、貴女は……ほんとうにずるい」
「そう、私はズルいの。でもたまらないでしょ? そんな私が……」


 そう言って蛇は私のくつろいでるベッドに近づいてくる。そしてギシッと音を立ててベッドを沈みこませると、私を抱きしめてきた。


「ええ、たまりませんよ。無茶を言ってる分、今日は激しくいきますよ」
「まあ、そのくらいなら許してあげる」


 そうして私達はベッドで絡みあう。その夜は本当に激しかった。




 なんとか体を張って……文字通り体を張って私はツアーのスケジュールを抑えた。翌朝は少し腰にダメージが残ったけど、その程度だ。昼頃には収まってたから、私が失ったものなんて何もない。あれから無理矢理色々と蛇はやってくれた。だから、まあツアーに行くこと自体は問題ない。けど、絶対的な安全保障とか、いろいろと蛇にも譲れないところがあるらしくて、それが大変。


 蛇自体がついてこれればそれが一番なんだろうけど、私の十倍……いや百倍は仕事してる蛇にそれは無理なのだ。グルダフの奴が鉄板なんだけど、今はちょっと領にいない。最近……というか二年前のあの事件の後から、他種族も活発に動き出してきたから戦場は絶えずある。疲弊しきってる人種の中で、出張れるのなんてここか国軍くらいの物で、軍事のトップにしといたグルダフも忙しいのだ。


 まさかここまでの立場になるとは私も思ってなかったよ。なんか気づいたら、もうそんな位置でさ……いまさらやめる? とか聞けない訳で。グルダフはグルダフでなんか責任感みたいなのに目覚めてて、やる気満々だったしね。でもだからこそ、時折帰ってきたときは正直蛇よりもすごい。もともとテクニックとかで押すタイプじゃないし、その頑強な体全部で私にぶつかってくる感じなんだよね。


 嫌いじゃないけどさ、グルダフのは大きいから大変だ。私も成長したけどさ、もともと規格外のグルダフのナニを受け入れれるようにはできてない訳で……でも大きいと満たされてるって感じはより一層感じるわけで……あれはあれでわるくない。


「うん……でもグルダフは無理だしなー適当にそこらに居る奴じゃ蛇は納得しないよね」


 一応カメレオンはついてきてくれるけど、彼だけではだめなのだ。いや大抵のことはカメレオンが静かになんとかしてくれるだろう。一人では蛇は納得しない。数の問題でもない気がするけど……私は一人、屋敷の中で考える。けどダメだね。気分転換が必要だ。私はぽちっと箪笥の横の魔光石のランプを押し込む。するとなんと、転移魔法陣が床に書かれた二畳ほどの部屋が出てきた。


(ふふふ、これぞ私の秘密の転送陣!)


 領主ともなると、一人で出歩くのも色々と厄介なのだ。でも私はそんな縛られた生活は断固として拒否るから! なのでこれである。これは屋敷の使用人たちは知らない。蛇にだって言ってない。ネジマキ博士に言って作らせたのだ。これが出来てから私のストレスは減ったよ。まあお世話されるのも好きだよ。けど人間、一人でいることも大事じゃん。


 私がいなくなって、毎回大騒ぎになってるみたいだけど、そこはほら、そういうイベントだと思ってほしい。てなわけで早速私は転送陣に入る。一応置手紙しておいたから、大丈夫。今日はどれくらい逃げられるからな? ゲーム感覚で私は屋敷から抜け出した。

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