美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ98

 目が覚めると、私は薄汚れた布を見上げてた。周りには忙しなく動き回る沢山の人々。皆さん疲れた顔をしてるけど……それでもどこか生き生きとはしてる。周りにはゴザを敷いただけの場所に沢山のけが人たち。どうやら簡易的な医療所みたいな所らしい。一帯……あれからどれくらい経ったのだろうか? 一杯気になる事はある。


 けど……声を出そうとしたけど、出なかった。てか自分の身体を見て驚く。だって包帯だらけだ。これ……私はミイラかなにかかな? ほんとそのレベル。周りの人達も確かに重症だけど、これは私が一番ヤバイんではなかろうか? そう思ってると、何やら慌てた様子で、やつれた冴えない男性がやってきた。その横にはエプロンした女性が居る。


 二人共きっと医療出来る人だよね? 女性たちはエプロンして看護してるし、男性の方はちゃんとした医者かな? その人が私の傍に膝をついて何やら手を顔の前で振ってくる。視線がちゃんとしてるかとか確認してるのかな?


「わかりますか?」


 そんな言葉に私はなんとか頷くよ。てか、それしかできない。すると医師の男性は心底ホッとしたような顔をする。どうやら冴えない見た目だけど、良い医師のようだ。


「実際、貴女に関してはなんで生きてるのか……いえ、貴女は英雄です。もうすぐ聖女様が来てくれます。そうなればきっと直ぐに良くなりますのでしばしお待ちを」


 それは暗に自分たちには私へ出来る事はない――とそう言ってる様な物だ。


(聖女って……キララなのかな?)


 確かに彼女なら、大抵の怪我や病気は一発で直せる。それまではこの不便な状況が続くのか……


(なんか喉乾いたな)


 忙しなく皆がしてるから、さっきの医師たちも直ぐに他の患者の所へと向かっていってしまった。キララが来るまで、どうにかして持ちこたえさせるのがきっと彼らの役目なんだろう。見たところ、普通の治癒術士も居るようだけ、彼らの顔色は絶望的に悪かった。多分働き詰めで、魔力が付きかけてるんだと思う。それでもなんとか絞り出して、重症患者達が逝ってしまわない様にしてるみたい。
 みんなきっとキララが来れば……そんな希望で持ってる感じだ。


(てか、本当に喉が…………ゴク)


 視線が自然と何故か包帯を巻かれてるけが人の人達に向かう。汚れた包帯には血が……いやいや、私は鉄血種じゃない。枕元に水が置いてある。けど私は動けないんですけど……誰か一人は見ててくれないと……でもそんな余裕は無いんだろう。彼らを責める事はでぎない。でも水は飲みたい……そう思ってると、何故か水が入ったガラス製の容器が浮いてた。


(もしかしてハステーラ・ペラス?)


 てかそれしか考えられない。これでなんとか水飲めそう。微調整しながら容器を口元まで持ってく。けど、口もそんなには開かなくて……結局一杯零してしまった。それほど、喉も潤わなかったし。そんな私の傍にズンズンとした音を響かせてグルダフさんがやってくる。彼は目立った怪我もない。どうやら、人種とは比べ物にならない位頑丈なよう。羨ましい限りです。


「意識が戻ったか。すまんな亜子殿。あまり役に立たなかった。これではラーゼ様を守るなどまだまだだ。もっと精進しなければ」


 そんな事はないと思うけど……けど今の私はそれを口にするは出来ない。グルダフさんは私に深く頭を下げてる。


「よし、少し現状を伝えよう」


 そう言って自分で何かに納得して話を聞かせてくれた。人種はどうやら未曾有の危機を乗り越えたみたい。この街の他にも別方面から顔爛種に攻められてた筈だけど、それは何やら突如として引いて行ったらしい。


(多分、あの美少年だよね)


 私はそう見当をつける。向こうの戦いでもかなりの犠牲が出たらしい。てか向こうの方が酷いらしい。顔爛種は魔法を主体とする種族だったから、沢山の街が灰燼に帰したようだ。今は国中の医師や魔術師を集めて、けが人の介護とかをしてて、国の最高位の術士達も動いてるとか。その中の一人がキララなんだろう。ラーゼも自分たちの所にいる冒険者達に体の良い依頼を出して、派遣させてると。


 生きてる人達だけじゃなく、死体も集める必要があるし、瓦礫だって撤去しないといけない。人ではいくら有っても足りない状況だという。けど、王都の方では戦勝ムードだとか。ここに居たらそんな事は全然そんなムードではないけど……まあ危機は過ぎ去ったし、その気持ちもわかる。


「それで亜子殿の部隊だが……」


 なにやら更に深刻そうになるグルダフさん。そして続ける。


「何人かは死人も出てる。いや、カタヤ殿やベール殿は無事だ。いや、アレも無事とは言い難いかもしれんが……」


 カタヤさんもベールさんもどうやら生きてるみたい。それは良かった。じゃあ死んだのはオペレーターの人達だろうか? ゼウス落ちたしね。申し訳ないことしたよ。私が最後までフォロー出来てれば……


「だがこれを乗り切ったのも事実。キララ殿がくれば、けが人達はどうにかなるだろう。それまで頑張ってくれ」


 再び頭を下げたグルダフさん。彼に責任なんて微塵も無いのにね。寧ろ人種の為によくやってくれたよ。まあラーゼの為なんだろうけどさ。ラーゼ……結局最後にアイツのおかげだった。グルダフさんはそれ、わかってるのかな? 私たちは出来ることを全力でやった。それは事実だ。けど、それでも力が足りなかった。それも事実で……今回の様なラッキーはきっともうないだろう。


 グルダフさんは私に背を向けて歩いてく。その背中を見て、私ももっと強くなりたい……そう思った。


 
 あれから数ヶ月がたった。私は王城での勲章式の後に、いつもの教官の部屋にいる。私の他には……一人二人だけ……なんだか顔つきが変わった気がする。当然か、だって戦場を経験したんた。しかもこれまでとは比較にならない程の戦場を……


「まったく貴様らはどうしようもないな! たったこれだけとは! 情けないぞ!!」


 久方ぶりにあった生徒にたいしてソレですか。今の私なら殴れるんじゃないこいつ? 階級も上がったしね。でも……


「揃いも揃って死ぬとは、俺の訓練で何を学んだ! 何を得たのだ! 確かにお前たちは大変な経験をしただろう。だがこの有様など……本当に情けない! この俺が!!」


 そう言って教官は自分自身を殴った。私たちはその光景にぎょっとしたよ。だってバコンと聞こえる感じのマジなぐりだったし……そして「この馬鹿者が!!」と言いながら自身を殴ってく。私達は止めようとしたけど「動くな!!」と怒鳴られた。そして一通り顔がパンパンになった所で教官は殴るのをやめた。


「貴様達は退学だ!! 学業も全く出来てないからな! こんな所に居ても貴様らの居場所はない!!」


 ええーーだよ。もうこの人メチャクチャだよ。いや、確かに学業は全然だったけどさ……私達の過程は知ってるはず。てか書類で提出してるし。なのにこの仕打ですか。


「貴様らはもう立派な兵士だろう」


 ふと、教官が声色を変えてそう言った。それに私たちはびっくりした。だってこの人が褒めるとか……立派とか言うなんて……


「お前たちはもうここで学ぶ事はない。俺が教えられる事以上の事を学んだだろう。貴様らはあの地獄から生きて返って来た。これからはその経験を他の奴に伝えていけ! 生きる術を絶やさない様に……その勇気を消さないようにだ!! 特に小清水 亜子!!」
「はい!」


 私は突然呼ばれてテンパった声をだす。いや、いきなり名指しとかやめてよ。


「お前の事を怖がる奴も居るだろう。その姿、俺達とは少し違うからな。だが忘れるな。ここでお前を知る者達は仲間だ。それはどんな事があっても変わりはしない。俺は貴様がどんなになろうが、貴様の教官だ。愚痴くらいは聞いてやる。その時は一杯奢れよ」
「は……はい!」


 私の心に暖かい物が満ちる。私は……そう……少しだけ見た目がかわった。私の事を英雄と言う人も居れば、人を捨てた化物という人もいる。そんな視線や噂が結構きつかった。でもその言葉で、私は救われた気がする。隣の二人も無言で頷いてくれる。変わらないで居てくれる人達がいる。それはとてもありがたい事で……なんだか少しだけ涙が出るよ。

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