美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ63

 あれから更に三体の鉄血種を命からがら滅した。その御蔭で私の黒い布はなんか変わった。ただのボロ布に見えてた……まあそう見えてただけで実際は超高性能の布だったんだけど、それがもう一目見た瞬間でただの布じゃないとわかるように成ってしまった。だってその色は黒を超えた漆黒をベースに、よく見ると僅かな模様がみてとれる。
 そして遠くからみるとその模様がどうやら浮かんで陽炎の様に見えるよう。それは蝶の羽ばたきのようにみえたり、私を包む渦の様に見えたりとなんだか様々らしい。らしいってのは、私自身にはそれが見えないからだ。しかもどうやら、私自身をこの特性は隠蔽してくれるみたい。その御蔭で、私は楽に鉄血種を撹乱する事ができた。


 まあでも、私の分身は少女の時ほど効果的ではなかったんだけどね。普通に無視されたりしたし。多分少女は私に拘ってたからアレだけ効果的だったんだと思う。そしてその拘りを誰に向けてるか……それを見つけるのが鉄血種と戦う上では大切だと言う事も学習したよ。どうやら鉄血種は人種を食べる時のこだわりと言うかルールと言える物があるのかも。


 そしてそのルールに一番縛られるのが拘りを持った獲物に対してだ。その相手には色々な制限がかかってるみたい。どうやら一撃で殺せないってのは確実にある。途中から少女は私を一撃で殺ろうとしてきたけど、あれは拘りを捨てたからだろう。少しずつだけど、鉄血種の事が分かってきた。私の銃は柔軟だ。だからその拘ってる人を見つけたら、カードにマナをコピーさせた。


 そしてそのカードを使ってワンクッション置けば、私は他人の簡易分身体を作り出せる。それを使って罠や砲台の方へ追い詰めて、更にはラーゼの投入した戦力でもってトドメを刺す。これがなんとか鉄血種を殺せる一つのパターンだ。幸いにあいつらはこだわりも持った相手を殺しても、直ぐに別の奴にその対象を移す。だからその対象が死んでしまったとしても、どうにかなる。


 死んじゃった人には申し訳ないけど、今はそれを悔やむ事もできない。だって悔いるよりも、涙を流すよりも、私達は前を向かないといけないんだ。ごめんなさいはいわない。代わりに絶対に奴らを倒してみせる! 人種を守ってみせるから! それを胸に私達は走り続ける。


「げっ」


 勢いをつけてきた私達は南側から徐々に北側に上がる様に行動してる。その合間合間で鉄血種を相手にしてる訳だけど……視界の先には二体の鉄血種がみえた。あれは……まずいんでは? これはどうしたものか……


「ん? あれって……」


 道の中央に居る二体の鉄血種。そしてその足元には一人の女兵士が見える。


(まさかあれは被ったの?)


 拘りをもった対象が? そうなるとどうなるの? なんか言い合いしてるようにみえる。けど確か拘りを持って食べる部分は鉄血種によって違うはず。だったら、そう言い争う事もないような? いや、被ってるの? その部分も? 凄い確率じゃないこれ。凄い緊迫した空気が二体から発せられる。これはやれるかも……私の新しい装備のこの布……改マントならね。


(形状を想像、魔力で伝える)


 すると羽織ってるマントがポタポタと水滴になって端から地面に落ちていく。その部分は黒くなってる。まあ黒い水滴になってるから当たり前だね。そしてそれを建物の影を利用して移動させる。更に鉄血種の影を通して、倒れてる女兵士さんの影に繋ぐ。


(よし! 今!!)


 その瞬間、女兵士さんの姿が消える。それに気付くかと思ったけど、どうやら興奮してる鉄血種二人は気付いてない。よし! もしかしたら鉄血種が使ってる技だから気づかれにくいのかも。私は水滴を回収してマントに戻す。そしてそこに女兵士さんを出した。原理はしらない。多分マントは異空間につながってるじゃないかと言うのがゼロの見立てだ。


 気絶してる女兵士さんはなかなかに精悍な顔立ちの……ともすれば男と間違われそうな筋肉がついてる人だった。これだけ鍛えたとしても、他の種族を超える力は手にはいらないんだから残酷だよね。無駄ってことはないけど……それでも虚しい物を感じる。私はとりあえず彼女の頬をペチペチして起こす。

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