美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ62

 光が収まる中、私は今度こそ……とそんな思いでいた。グルダフさんに近づいて行くと、そこには人の形だった様な何かの跡が残ってた。物理的に残ってるのは鉄血種が羽織ってる黒い布だけ。


「奴は死んだ」


 グルダフさんが無慈悲にそう言うよ。私は腰を下ろして、少女が羽織ってたその布に手を伸ばした。それは不思議な質感の布だった。絹とかとも向こうの世界の化学繊維とも違う。張り付くようでいて、サラサラで、冷えてる用で暖かく、更に伸びるようで硬い。うん……よくわからない。そんな事をやってるとグルダフさんが斧を地面から抜いた。


「まずは一匹……だがまだまだ居る」
「そうですね」


 まだやっと一体。これだけの労力を掛けてやっと一体なんだ。しかも一番若そうだった少女をやっと……だよ。それが残り29近く居る訳で……


「助けに来ませんでしたね」
「そういう矜持を持ってる奴らなのだろう。だがそれなら一体一体ずつ消して行ける」


 個々の戦闘力が強い奴らはそういう矜持を持ってる物らしい。まあ個々でも強いのに、更に連携なんて取られるとこっちは蹂躙されるだけだからね。実際、もしも鉄血種が一人でもこっちに来てたら、この結果まで持っていけなかっただろう。それだけこいつらは強い。どんな傷をおっても止まらない頑強さに、背後に現れる事が出来る転移みたいな移動手段。


 更には獣人さえも凌駕する腕力に最後の……あれ……


「アレは……何だったんでしょう?」
「最後、何かしようとしてたアレか……わからん。だがアレが鉄血種の切り札だったのかも知れない」


 私もグルダフさんの考えには賛成だ。あれは多分鉄血種の切り札。アレが何だったのかはわからないけど、多分わからなくてよかったんだと思う。私の勘がそう言ってるよ。アレは出させては行けない何か……


『お疲れの所申し訳ありませんが、近くの援軍に向かってください。まだまだこちらは劣勢です』


 …………少しは一息入れたい所だったのに……人使いが荒い。いや、仕方ないよね。一息入れるのは、この戦場が戦場でなくなった時。てかこれどうすればいい? 私の手には鉄血種の少女が羽織ってた布がある。


「使えるんじゃないのかそれ?」


 グルダフさんはそういうよ。確かに何かに使えるかもしれないけど、結構グルダフさんの攻撃は通ってたよね。鉄血種の攻撃も通りそうではある。鉄血種は攻撃食らっても意に返さないから、防御力よりももっと別の何かを重視してるのかも。これ……武器としても使ってたしね。私は魔力を流し込んでみる。すると何やら布が蠢き出した。


「え? なにこれ?」


 ウヌンウヌン動いてるんですが? そして私の腕にぐるぐる巻き付いてきた。


「亜子殿!」


 私もグルダフさんも驚いてる。グルダフさんは布を掴んで引っ張るけど、この布は離れない。


「うっ……なんか魔力吸われてるかも……」


 身体がめちゃ重くなってきた。体内のマナを根こそぎ取られてるかも……なにこれなにこれ? ここで私終わっちゃうの? すると私の耳のピアスが光った。いつもなら絶対にやらない過剰なマナが流れ込んでくる。こんな事普段やったら身体が壊れる。けど、今は供給された傍からこの布にマナが吸われていく。そしてそれが二分位続いてピアスの光は収まった。


 布も自然と解けて私の身体に巻き付いてきた。どんな風にでも変化出来るのか、グルダフさんが握ってた所は溶かして離脱しやがった。けど今度はきつく締め上げる様な事ない。寧ろとても快適だ。包まれた身体は極上の空間に居るようなリラクゼーション効果がある。これがあればどこでもこれだけで眠れそう。てかもしかしてこれ……私の物に成ったって事? 


 なんかそんな感じがする。マナで所有者を認識してるのかも……


「これ大丈夫ですよね?」
「分からないが、認められたと言うことだろう。きっと亜子殿を守ってくれる。奴らと戦う上で役に立つんではないか?」
「それも……そうですね」


 今はネガティブに考えるのはやめとこう。得した……そう思うべきだ。きっとこれも普通は人種ではマナが足りなくて手懐ける事は出来ないんじゃないかな? けど私にはこのピアスが有ったから大丈夫だったんだとおもう。もしもこれがなかったら……多分この布に全てのマナを取られて死んでた。こわっ!? と思うよりも今はサンキューラーゼと思う事にする。


 新しい装備も手に入れたし、私達は次なる鉄血種を滅するべく動き出す。

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