美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ61

 準備は出来た。オペレーター側と相談しつつ、計画的に私は分身となりえるマナを置いていった。その時に周囲の状況も少し教えてもらった。どうやらグルダフさんの他にもラーゼは戦力を投入してるようだ。それでなんとか持ち直して来てるとの事。ラーゼの軍は下手すれば国軍よりも頼りになるレベルだもんね。なんせ普通に他種族居るし。


 まあ、流石にここではマナ生命体までは投入出来なかったようだけど。けど、それでも十分だ。何だが遠くでも轟音響いてると思ったけど、ラーゼの戦力が他の鉄血種と激しい戦闘をしてるんだろう。でもそれでも押し返してるかと言えば、そうでも無いってのが現状のようだ。流石は鉄血種……上位種に数えられる種族なだけはある。


 けどもしかしたらここで……私達がそのバランスを崩せるかもしれない。あの少女だけが特別な訳じゃないだろう……鉄血種の弱点……と呼べるのかはわからないけど、ここで均衡を少しでも崩せれば、一気に傾ける事も出来るかもしれない。私は建物の屋根に登り、銃口を少女へと向ける。けどここではまだ誘導弾だ。流石にアレだけ素早く動く相手に確実に当てる技量はない。
 それこそベールさんくらいじゃないとあれは無理。だからここは誘導弾で確実に私の位置を知らせる。そしてそこからあの少女を絡め取って討つ! 私は二発の弾丸を撃つ。


 それは素早く動き回る少女にしつこく食らいついてそして当たった。少女は当たる前に気付いてたけど、避けようとも防御しようともしなかった。それはそうだね。だってダメージにはならないんだ。そんな物に気を回すよりも目の前のグルダフさんだろう。そのかいあって少女はグルダフさんを吹っ飛ばせた。けどこれは予定通りだ。グルダフさんにはゼウスの方から通信が送られてるはずだからね。


 そうして少女は私を見据える。そして声を出さずに表情だけで笑ってみせた。心臓を掴まれたかの様な悪寒が走る。けど、ここで決めるんだ。私は逃げずに言い放つ。


「食べれるものなら食べてみなさいよ!! 私はそう簡単に食べられてあげないからね!!」


 その言葉の直後少女は視界から消える。流石にこう何度も見ればパターンでわかるよ。私は前方に飛んだ。そして同時に誘導弾を放つ。案の定私がさっきまで居た場所に現れる少女。それの少し後に私が放った誘導弾が屋根の隅、私とは逆の方に着弾する。するとその瞬間淡い光が出現した。あれは予め撃ち込んでおいた私の分身だ。


 弾自体を薄いマナで覆って存在を隠してたのだ。これはカードの力じゃない。私のマナ操作の賜物だ。マナは魔力だからね。魔力操作の練習は学校でも散々やった。その基礎がこんな所で役に立つとはびっくりだ。


 なんだって無駄な事なんて無いものだよ。私は少女が本体を捕らえる前に屋根のヘリを掴んでぶら下がり状態に。これならダミーの方へ釣られでしょう。案の定少女は後ろのダミーを攻撃した。


 けどその時には既に別の建物に別のダミーが現れてる。戸惑ってる様な少女。けど彼女も色々と考えるのは得意ではなさそうだっからね。とりあえず見えてる私を殺しに行く。


(よし)
「誘導開始します!」
『了解です。誘導地点まで指示します』


 既に撒いてる分身体には数字が振られてる。なのでオペレーターの指示の元にそれらを起動してく。けど途中訝しむ様子もあった。多分第六感的な物が働いてるんだろう。そんな時は私自身が出る。危険だけど、グルダフさんは誘導地点でその力を溜めて貰ってるから今は宛にできない。それに私だけではない。皆が物陰から銃撃したりして援護はある。微々たるものだけど、それでも心強い。


 流石に何度もかわされてるからか、今度は真っ直ぐに私へと向かってくる少女。驚異的な速さ。けどなんとかかわす。アトラス様様だよ! そして素早くカードを交換。ここでゼロが提案してくれた組み合わせを使う。この距離なら絶対に当たる!!


「行っけえええええ!!」


 放たれた弾丸は少女の左肩を貫いた。その瞬間ヨロッと一瞬したような? けど直ぐにその凶器と化してる腕を振るってくる。私は続けざまに撃つけど、今度は避けられた。


(よけた? っこ事は!)


 効いてる!! それを確信してる間に少女の腕はすぐそこまで着てる。


(まずっ!?)


 私はストックのカードを一枚抜いてそれを少し横の地面に投げた。カードは後で回収すればいい今は命大事!! カードが魔力の膜を破ってそこから分身が現れる。視線が一瞬そっちにいった。けど目の前の私も忘れてはいないよう。近いから纏めて薙ぎ払うつもりだ。けど、その一瞬が命をつなぐ。攻撃のモーションに入る動作は人型である以上省略なんて出来ない。その刹那、私は身体を低くして少女のなぎ払いをかわす。そしてそのまま少女に突進! ゼロ距離でさっきの弾丸を続けざまに四発打ち込んだ。よろめいて頭を振るう少女。


(今のうちに!)


 私は素早く離れる。カードを交換。誘導弾にして分身体を出現させる。そして私自身は素早く身を隠した。向こうにいくか? 少女はその場で腕を振り回してたけど、遠くの私の分身を見つけてそれを追っていく。


「お姉さん! ああ、お姉さん! 早く食べさせて――ウウ……だべざぜでよおおおおおおお!!」


 それはもう可愛らしい少女の声じゃなかった。化物……もうあれは化物だ。


 たどり着いたのは井戸が有ってまわりには平屋があるような寂れた区画。私はそこに最後の分身を出現させる。一直線にそれに向かう少女。そして井戸の前にたどり着いた瞬間、周りに敷き詰められた令呪が一斉に爆発した。更にそこに塔に設置されてる砲台からの砲撃が駆け抜ける。辺り一面酷い有様だ。けどその中心に黒い布の塊が立ってるのが見える。


 生きてる……アレだけやっても。けどその布から覗く顔は髪の毛もまばらになってて、皮膚もただれて、鼻はなくなって穴になってた。かなりのダメージが入ってる。すると少女から声にならない声が上がる。それはなんだかとてもおぞましく感じた。少女の影が広がってく様な……黒い範囲から何かが……あれは不味い気がする!!


「グルダフさん!!」
「任せろ!!」


 太陽を背に落ちてくるグルダフさんの両の手には二つの大斧がある。それが眩く光り、空に軌跡を残す。轟く声と共に大きな衝撃が伝わり光が弾ける。私達は全員、その光の中に包まれた。

「美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く