美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ56

(あっぶな!?)


 私は心でそう叫んだ。だって……だってだよ。私の首、チョンパされたよ! ゾクッとした。いや、マジで今のはゾクッとした!! あるよね? 私の首? って思うくらいには冷や汗かいたよ。鉄血種の少女によって首を千切られた私は陽炎の様に消えていく。あれは私の銃で作り出したダミーだ。質量をもったダミーを作りだせるカードが新たに追加された。
 だからそれを使ってダミーを作っといたわけだけど……よかったダミーとバレなくて。実際このカードに入ってる情報の自分しか作り出せないから、腕も元通りの私だったんだけど、少女はそこまで見てなかったみたいだ。


 まあだけど、今はなんとか千切られた手は魔法でつなげた。魔法マジ便利。でもここまでの治癒魔法が使えるのもこのピアスのおかげだ。私の……というか人種の虚弱な魔力ではここまでの治癒魔法さえも一握りの人しか使えない。けどそれを私なんかでも使えるように力技でしてしまってるのがこのピアスだ。ラーゼ様様である。


「おねえさーん。美味しいおねーさん。あーそぼ」


 誰が美味しいお姉さんだ。なんか響き嫌らしいし。いや、美味しくないなんて言わないよ。女としてさ。けど、あの子のいう美味しいって食べ物的にだからね。それは同意できない。次見つかったら本当にやられる。とりあえずこそこそと動きながら変わり身を増やす。これは場所をゼロが把握してるから、少女を見失ったとしても、この身代わりがつぶされれば、少女の居場所もわかるんだ。


 けどだからってなるべく見失わないようにはしたいけど。そう思ってると、少女が消えた。これが厄介。私は背後を振り返る。これの後、何度も背後に現れてる。だからそうしたんだけど……今度は大丈夫のよう。私は大きな息を吐く。あんな少女でこれだよ。他の人達はもっと絶望的なんだろう。通信越しに聞こえる声は、どんどんと班が潰されてく報告だ。


 こっちはとてつもなく必死なのに……向こうはきっとこれでも遊んでる。あんな移動されちゃあ、アトラスでも対応なんてできない。反射神経とか、それこそ未来予知でも出来なくちゃ……


 近くで銃声が聞こえる。きっとそっちに現れたんだろう。少女の狙いは私だ。それなら私が姿を現せば、その人は助かるかもしれない。続けざまの銃声が響く――が、次の瞬間上から腕や足が落ちてきた。跳ねた血が頬に着く。それが温かくて、気持ち悪かった。


「お姉さーん。出てきてくれないと全部全部壊しちゃうよ!」
「つっ!?」


 その瞬間、建物全体を大きな竜巻が包み込む。私はその風力に吹き飛ばされた。そしてばらばらになってどこかに吹き飛ばされた建物の中心で、鉄血種の少女がその真っ赤に汚れた口を裂けさせて私を見て笑ってる。手が……腰が……足が……震える。体の全てが敗北しようとしてる。けどその時、黒い塊が不意に少女を殴り飛ばす。屈強な体に黒い体毛……そしてとがった耳……


「大丈夫か亜子?」
「グルダフ……さん?」


 そう、現れたのはラーゼの腹心の獣人。もしかしてラーゼが? 意外だけど、それなら……私の震えが少しだけ収まった気がする。

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