美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ50

「だから逃げるべきなんです! せめて民たちだけでも領の外へ避難させるべきです!」
「どうやら英雄のお一人は随分と臆病なようで。もうあの時とは違うのですよ。それに領を捨てろなどと……それは私に全てをなくせと言ってるようなものですよ」


 ベールさんがここの領主の貴族を必死に説得してる。けど、どうやらあの人はベールさんの言葉を聞きそうにない。典型的な傲慢な貴族って感じだからね。鉄血種……それの脅威を身をもって知ってるのはベールさんしかいない訳で……


「貴方達はなんのためにいるのですか? 人種を守り、他種族を排除するためのフェアリー部隊でしょう。貴方達がそんなんでは困りますよ。大きな予算が貴方達の部隊には出てるのですから」
「俺たちももちろん最善は尽くす。だが今はアンティカは動かせない。最悪の事態を想定して行動するべきだ」
「逃がすといわれても……着の身着のままでは皆それなりに苦労することになりますよ。私は領民を守る為にも我が両軍の雄姿を示すのがいいと思ってますが?」


 やっぱり引く気はないみたいだ。私はちょっと思った事を口に出していってみる。


「あのー領主様は他種族と戦った経験がおありで?」
「ふん、そんなの当たり前だ。我が領は人種の領域への壁だぞ。今までもいくつもの種を退けてきたわい!」


 そんな事を自信満々にいう領主さん。てか私には言葉づかい違くない? 案外他種族の相手はしたことあったのね。私的にはそんな経験ないから簡単に考えてるのかと思ったけど、どうやらそうではないようだ。端っこの方だし、それもそうか。まあだけど調子に乗ってるのは確かなようだけど。


 実際この人が前線に行くことなんてないんだろう。目の前で相手して戦って……そんな経験があるのなら、どんな種に対しても侮るなんて……そんな事は出来ないはずだ。だって基本どんな種だって素の状態なら人種よりも強いんだからね。そう思って私たちは戦ってきたんだ。油断も侮りも、できる立場ではない。でもこの人は多分、直接的には戦ってきたわけじゃない。沢山の兵士を犠牲にするだけで、きっと退けてきたんだろう。


 けどそれは本当に退けてたのか、それともただ単に他の種の気まぐれに救われてただけなのか……この人、前線の砦で自分のところの兵士が大量に殺されたと聞いても「そうか」の一言で済ませたからね。しかも他の集落の惨状の報告も同じ……領民や兵士を生きた命と思ってない節がある。そしてそれは私達も……なのかも。はっきり言ってかなり気分悪い奴だ。


「鉄血種はわれら人種の仇敵。良い機会ではないか。昔とは違う。それを奴らにも、そして貴方にもお見せしよう」


 領主はそういってがはははと笑う。こいつ、ベールさんの事知ってるよね? いや、貴族間の間では有名な話なのかも。一つの領がなくなってるんだからね。知らない訳ないか。


「我らは独自に動かせてもらいます」
「前線で戦ってくれるのだろう? 英雄がその身をもって前線に立ってくれるのならば、兵の士気も高まりましょう」


 体よく私たちを使い潰すつもりかな? でもそんな事したら困るのは人種全体。戦わない選択肢はないけど、アンティカがないんじゃ厳しい。けどそこでカタヤさんが真っすぐに領主を見てこう告げた。


「勿論。僕たちは敵に背を向けたりしません。人種を守るのが僕たちの使命なのだから」


 主人公のセリフだった。そして私たちは領主の前から退室した。鉄血種はどうやら周りから殲滅してってるようで、まだ中心のここには来てない。けど、それも時間の問題だ。領主は他の村や町の領民を生贄に捧げてここで迎え撃つつもり。流石にこの街の人達には避難勧告出されてるけど、それもここを放棄するとかじゃない。指定の場所に集まって戦闘の邪魔にならないようにするだけ。


 けど、他のところにはそもそもそんな報せさえしてない。ひどすぎる。でも私達も動けなかった。だってもしも鉄血種と会ったら? 結局、私達も奴と変わりないのかもしれない。助けられない人たちがいっぱいだ。


「それにしても……なんで鉄血種が今攻めて来たんだ?」


 カタヤさんがそんな事を口にする。理由なんて、そんなの他種族に求めてもね。それに鉄血種って人が捕食対象じゃなかったけ?


「だが、鉄血種の出現は数十年単位だ。感覚が短すぎる」


 なるほど……そういえばそんな事も言ってたね。ベールさんの事件から数えても、そこまでの時間は経ってない。確かにそれだとおかしい。奴らは食事目的ではない? 


「奴ら事態が人種を滅ぼすことはない……だが、何か別の目的があるのだとすれば……これは危機だ。奴らが気まぐれに帰る事はないのかもしれない」


 今までは限定的な被害だった。けど、今回は違うかもしれない。そんな言葉に、私は気を引き締める。

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