美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ16

「うおおおおおおおおおお!!」


 身体がシート引っ張られる。けど、それにあらがって私は腕を伸ばす。それに連動してプロト・ゼロも腕をのばす。超高速での突き。ワイバーンの身体を貫き、私は止まるまで突進した。やっぱりこのスピードを一番衰えずに活かせるのは突きしかないと思ったんだ。突きはレイピアの一番得意な攻撃方法だ。あまりの速さと衝撃に、ワイバーンの身体は貫かれたと同時に引きちぎられてたからね。


 私は多分二十体はこの一撃で殺した筈だ。けど……勢いが落ちた所にすかさず背後から一撃を御見舞された。片腕へのダメージが半端ない。さっきの攻撃で右腕がぎこちなくなってるから、反応が遅れた。私は左にレイピアを持ち変える。基本右利きだけど、アンティカにはそもそも利き腕なんて存在しない。迫る奴らを何体かさばいてると絶妙な位置から頭部を尻尾で叩かれた。


 でかい身体と違って、尻尾なら、味方の間を抜けて攻撃出来る。完全に死角だったよ。流石にこれだけの数相手だと、ゼロの声を聞いてる余裕が無い。ゼロもソレがわかってるからか、さっきからな何もいわない。ただ、運転補助はしてくれてると思う。いつもよりもアンティカが動く気がする。けど……それでも私の技術が追いつかない。


 頭部のメインカメラの映像が乱れてる。


(不味い不味い不味い不味い不味い!!)


 焦りが、更に悪手を産む。闇雲に移動した瞬間、腕が弾かれた。ダメージはそんな無い……けど、レイピアが落とされた。画面に武器をロストしたことを知らせる表示が出てる。


「こいつら……」


 私は素早く腕を動かして、腰にある予備を取ろうとする。この動作は見えなくても出来る。武器が何処にあるかとかは頭と身体に叩き込まれてる。けど……ない! マジかよ!? 


「ええ!? なんで!???」


 どんどんパニックになってきた。視界はまだ悪いし……体当たりでもされてるのか、さっきから全方位から衝撃がきてる。堕ちてるのか……飛んでるのかさえモニター上ではわからない。計器を頼りになんとか態勢を立て直そうと試みる。


『左に旋回してください』
「ゼロ? わかるの?」
『急いで』


 ここはゼロの言葉を信じるしか無い。だって私には何も見えてないんだし。高度的にはドンドン下がってるみたいだけど、いきなりぶつかったりしないよね? 


「でりゃあああ!」


 私は左にプロト・ゼロを動かす。衝撃が途切れた。かわせたってことかな? 


『サルファーフィールドを展開してください』
「あれはエネルギーが!」
『しないと堕ちます』
「ああもう!」


 私は自身のマナを操縦桿を通してプロト・ゼロに送る。そしてキーを回し、画面をタッチしてコードを入力。画面上のエネルギー循環が、新装備から通常装備の方へと切り替わる。そして画面いっぱいに表示される読めない文字。それはスルーして私は強く操縦桿を握って紡ぐ。


「サルファーフィールド展開!!」


 ゼロを中心に半径ニキロに及ぶ魔法阻害フィールドの展開だ。このフィールドを展開してる間、どんな魔法も発動することはできない。これぞ、ゼロの基本能力にして、最終奥義。まあ新装備と似てるけど、開発者の言い分は結構違うらしい。こっちはどんな魔法も妨害出来るし、その効果は瞬時だ。けど新装備は散布濃度が一定値を超えないといけないって制約があったりと確かにちょっとは違う。


 けど今はそんな事を考えてる場合でもないけどね。そもそもなんでゼロがこれを使わせたのか、私にはわからないし……サルファーフィールドの展開はかなりのエネルギーを使う。今でこそ、アンティカは常時マナを吸収できる様になって常に稼働出来るようになったけど、過剰に使いすぎると、それだけ影響はでる。そしてサルファーフィールドは過剰なエネルギーを使う。


 プロト・ゼロにとっては必殺技みたいなものだからね。これは仕方ない。けどあんまり手の内見せないように……って言ったそばからこれって……まあ仕方なかったんだろうけど。


『なんとか発射前に止められたようです。武器を回収する暇はありません。ルートを選定しました。これを通れなければ、終わりです』
「何が何でもやれってことね」


 視界は戻ってきた。サルファーフィールドを展開してるからエネルギーがゴリゴリ減ってる。周囲から吸収する分では間に合わない。そう思ってると、背後から突進して来る奴が見えた。私はプロト・ゼロを素早く動かしてワイバーンの首を取ると同時にゴキッとやった。力が抜けたワイバーン。その身体がみるみる内に干からびる。
 そして捨てたワイバーンを掴んでた手の関節が輝いてた。マナの輝きだ。ごちそうさま。これで少しは時間も伸びた。プロト・ゼロは相手のマナを奪う能力がある。てかマナという存在に対して特化してるのがプロト・ゼロなんだ。だから、分解・停止・阻害・促進・再生・吸収は一通りできる。装備が追いついてないだけだ。


 吸収も通常状態では効率が悪いからあまりやらないんだ。直接触れないといけないし、そんな素早く奪える訳でもないからね。さっきは先走った奴が一体で突っ込んできたからやれた。それに周りの奴らはサルファーフィールドに戸惑ってたしね。でもこれからは出来ないだろう。けど……充分効果はある筈だ。こっちが武器を失ったとみて、奴らは血気盛んになってた。
 でもそこに来てこれだよ。サルファーフィールドを合わせれば二倍の効果かも。武器はなくても、やれるぞ……と牽制は出来た。弱点を悟られる前に、カタヤさん達と合流する!


 再び私はブーストを使って進みだした。

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