美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

Σ1

 私の名前は小清水亜子。普通の学校に通う、普通の高校生だ。一年と少し前までは。そう、私はある日ロボットともに異世界へと召喚された。なんで私なんかが……っておもった。そして実際今でもそう思ってる。なんで私なんかが……多分それは私の中に居た子のせいなんだよね。ミリアという子がある日突然私の中に現れた。その時からきっとこうなると決まってたんだろうなって思う。


 それから変わった私の普通の日常。異世界にまで来て……でもその時、ミリアは私の中からいなくなった。代わりに私はラーゼと会った。見たこともないような綺麗さと可愛さを持った少女ラーゼ。これが異世界の基準かと思ったけど、どうやらアレは特別らしかった。そして私はラーゼとともに行動する事になる。だってアイツも一応私と同じ世界の記憶を持ってるらしいから。


 私が異世界で途方にくれることもなかったのもラーゼが居たからだ。やっぱり同郷がいるってのは安心できる。それに学校に行かせて貰えたのもラーゼが無駄に権力を握ってくれたおかげだ。そして私はその学園で再びミリアに再会した。魔王となったミリアと。


 私もカタヤさんもミリアと約束したんだ。助けるって。あれから一年。長かった様な……短かった様な……そんな時間を私はすごした。そして今日、私は正式なアンティカ――プロト・ゼロのパイロットなる。


 
 小狭な部屋で私と同期の人達が数名、整列してる。その前には机があり、書類を前にしたいかつい顔の中年のオジサンが、私達を睨みつけるようにみてた。私達は深緑色の軍服に身を包み、背筋を伸ばし、腕は後ろに組んで静止してる。


「いいか貴様ら! 貴様等は今から正式な軍人となる。いつまでも学生気分で居るな! 学生であって貴様らはもう学生ではない。命令が来れば優先されるのは軍の任務の方だ。だからと言って学業の面で有利になると思うなよ。そこら辺、配慮はしない! 管轄が違うからな!」


 私達は全員心で「ええー」と唸ってるはずだ。絶対そう。私だけじゃない筈。そうだよね? 私を含めて皆、表情一切変えないからわからない。てかそこら辺は配慮してよ。管轄って……異世界でもまさかそんな言葉を聞くとは……こっちも向こうも世知辛い世の中だなー。そんな事を思いながらもその強面のオジサンの話は続く。


「落第は許さんぞ。そんなんでは誇り高きセルラテント軍の一員とは言えないからな! 落第した時点で、軍からは除隊だ!」


 厳しすぎでしょ? このオジサンにそこまでの権限あるの? 最近はどっかのバカのせいで軍の出撃増えてるんだから絶対に激務になるに決まってるじゃん。ほんとラーゼの奴はポンポン、ポンポン手近な種族に手を出してくんだから、軍人にとってはマジ迷惑。いや、国のお偉方にとっても同じだと思うけどね。けど今や、ラーゼが治めるファイラル領は首都を除くとこの国でも一・二を争う程の領へと変貌してる。
 だから下手に出れなく成ってるんだよね。てか完全に危険視されてるというか……カタヤさんがそんな事言ってた。


「まあ貴様らは、学園でも優秀な成績を取った選りすぐりの人材だ。そんなヘマはしないだろう……一人を除いてな」


 そう言ってオジサンが私を見る。私はとりあえず微動だにしないように心がける。だって下手に反応したら怒られるからね。軍人ってのはかたっ苦しいのだ。


「では、所属を伝える。各々の配属された場で活躍しろ! そして俺の名前を売れ! ただ直ぐには死ぬなよ。俺の評価が悪くなる! それだけだ。では呼ばれた者は前に出ろ!」


 このオジサン、授業中に繰り広げてたセクハラ発言を記録した録音機をいつか上に提出してやろう。私はそう誓った。そして各々が名前を呼ばれて、書類と共に、配属を告げられてる。それを皆、ご丁寧に承る。けど表情には出さない。けど、私の配属が言葉にされた時だけは違った。皆僅かに声を漏らした。


「次、亜子 小清水! 貴様は……貴様は特務フェアリーへの配属だ! 心して受けろ!!」
「はっ! 承知致しました!!」


 まあ知ってたけど。そもそも一月程前に聞いてたし。てか私、他にないし。だってプロト・ゼロを動かせるのは私だけ。他に配属されようがない。本当はもっと成長を見守る予定だったらしいけど、世界情勢は日々変わってる。アンティカを遊ばせとく余裕はないようだ。だから成績も足りない私が、この成績上位者の特権の先行カリキュラムに組み込まれて正式な軍人へと召されたのである。


 これを授かる為に一生懸命皆頑張ってた。だってこれに選ばれれば、出世コースに乗れるらしい。まあ、カリキュラム中は階級も最下位とかだけど、このカリキュラムを終える事が出来れば、その時点で一気に跳ね上がるらしい。卒業後に軍に入る同年代とはその時点で差が出来るんだ。そうなると将来的には国の中核だって狙える……かもしれないとかなんとか。


 私はそこまで興味なかったけどね。だってそんな偉くなる気ないし。けど私はアンティカのパイロットとして、これに選ばれた。喜んでいいのか、悪いのか……はっきり言って微妙だ。けど、実は結構前にこうなる事はわかってたんだよね。だからこれは既定路線でもある。やっぱり学生のままでは安易に国の外にはでれない。けど軍人になれば……まあただの軍人に自由なんて無いだろうけど、私は特務だ。
 言うなればエリート。しかもアンティカは色んな戦場を飛び回る訳で、必然的に世界の色んな場所にいく。そんな先々で私達は手がかりを探すんだ。ミリアへの……魔王への手掛かりを。これは始めの一歩に過ぎない。


「それでは各々準備次第、軍の方へ出向しろ!」


 私達は背筋を伸ばし足を揃えて鳴らし、そして大きく「はっ!」と声を出した。そして各々扉を出た。そしてその瞬間、皆緊張した顔を崩して雑談をする。軍人と言っても私達は学生。こんな物だ。そして一人の男子が私にひっつくなり私の配属の事を話題にしだす。それに皆呼応して、ワイワイしだした。そんな感じでノロノロワイワイと移動してると、私達が出てきたドアからオジサンが「さっさと行けええええ!」と怒鳴ってきたから、私達は「はーい」と言いながら走り出す。


 皆この時は、また直ぐに会えると思ってた。戦争ってものをそこまで深く考えてなかったから。

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