美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。
β47
「あ……あぁ……見るな……私を見るなあああああああ!」
「サーテラス様……」
そこに居たのは細くキレイなサーテラス様ではもうなかった。醜く太った豚がそこに居た。それは魔王に取り憑かれる前のサーテラス様そのもの。彼女の本来の姿だ。一杯出てったのに出てく前よりも太るとはこれ以下に……一体どういう原理だったのだろうか? けどこれではっきりした。今の彼女に先程までの力はない。けど……サーテラス様から出てった黒い力はこの部屋に確かにまだある。
「魔王! そう魔王! 再び私の中に入りなさい! それでまだやれる! 貴方だってまだまだ暴れたいでしょう!」
黒い靄に向かってサーテラス様はその短い手を必死に伸ばす。魔王の力たるこの靄が再びサーテラス様に入る事は避けたい。だってそうなると、また振り出しに戻ってしまう。しかも今度は上手く行かないかもしれない。今回だって、偶々上手くいっただけで、私達はサーテラス様の……魔王の力の一端に圧倒されてた。もう一回アレを相手にするなんて……絶対にゴメンだ。
けどこんな靄の止め方なんか分からない。いや、ここは逆転の発想ではなかろうか? 私の脳細胞がかつて無い程に冴え渡る。
「そんな事させない!」
私は魔法を発動させる。それはごく小規模な結界魔法。それでサーテラス様を完全に覆う。そうだよ。靄はどうにかなんて出来ない。そもそもが魔王の力だし……けど、サーテラス様事態に近づかせなくする事は出来るんじゃないかと考えたんだ。それがこの結界。光属性を帯びたこの結界に魔王は近づけ無いはずだ。多分。魔王程の力の前ではもしかしたら無力なのかもしれない。
けど自身のありったけの魔力を込めたこの結界を信じるしか無い。でもそれは杞憂だったようだ。皆の緊張感もなんのその、魔王の……いや、ミリアの声が再び響く。
「もう時間切れだよサーテ。貴方、案外楽しかったけど、ここまでだよ。私という反則級の力を使って負けたんだから、潔く降伏した方かいいよ」
「何を言いますの! 私は負けてなどいませんわ! 私が……貴族である私が平民などに負ける訳が無いじゃないですか! そうでしょう!? そんな事ありえませんわ!!」
いくら否定の言葉を綴っても、魔王ミリアは再びサーテラス様の中に入る事はないだろう。そしてそれを強制することも出来ない。だって魔王はサーテラス様の何倍も何百倍も強い。本当ならこうやって普通に話を聞く様な相手ても無いはずだ。今の魔王はミリアだから、私達の言葉に耳を傾けてるだけ……けどもう、そんなのはサーテラス様は分かってない。
ただこの現実が受け入れられなくて、さっきまでの夢の様な力に酔ってしまってる。
「魔王! 私の言うことが聞けませんの!! 早く戻るんです! そして今度こそあの女をぶち殺すんですわ! あはっあははははははははは!」
「狂ってる……」
カタヤさんがそういった。でも誰もそれを否定できないよ。部屋に響くこの狂気の叫び……正気だなんて思えない。
「サーテ貴方、一体何の為に私を求める?」
「そんなの決まってますわ! 私は奴を殺す力のために魔王を求めます! それだけの、それだけのために!」
ギョロッと血走った目が私を捉える。私は思わず「ひっ」と声を上げる。けどここで引いたら今までと何も変わらないんだ。私はかばってくれようとしたペルを止めて前に出る。
「サーテラス様。そんなに身分が大事ですか? 貴族と平民とか、それは私達の間に途方もない壁を作ってますか?」
「当然です。貴族は与える者で、平民は与えられる者なのですわ。私達貴族が平民を守って生きさせてるんです。ここまで人種が息長られたのも全ては貴族や王族あってこそ。それを蔑ろになんて許される事ではない!」
「それは大きなくくりであって、私達個人とは関係ない! 私達は同じ人種なんですよ? なろうと思えば貴族でも平民でも友達にだってなれます!」
「それは綻びなんですわ! 許されて良い道理はない。貴方はだから……だから死になさい!!」
サーテラス様は私に飛びかかってくる。けどそれをペルが素早く組み伏せる。安心して結界解いてたのが仇になったね。結界張っとけば、余計な手間取らせずに済んだのに。
「離しなさい人形風情が! 私にこんな事して許されると思ってるのかああああああ!」
言葉遣いまでも崩壊しだした。なんとかとどめようと思ったけど……火に油を注く結果になった。すると私の横からアナハが出てきて、首を振るう。なにそれ? もう無駄って事?
「サーテラス様、貴方は貴族とか……なんとか拘ってるようだけど……本当の所は違うのでしょう? 私の魔眼には見えますわ」
「なにを……」
「貴方の憎しみの根底にあるのは……キララへの劣等感……です。可愛く魔法も出来て、人気もある。そんなキララが平民……だから、貴方は許せない。貴族の……誇りなんてただの方便……貴方の怒りも……憎しみも……そして殺意も……全部ただの劣等感からきてるもの」
「劣等感? ……この私が平民如きに? そんな……そんな事……あるわけ……あるわけ……あああああああああああああ!!」
そして私を見据えてひたすらに「死ねクソ殺す」を連呼しだした。もう会話は不可能だった。
「サーテ……最初の契約ではまだ、人種のこと思ってたのにね。残念だよ。その狂気はいずれ自分を殺すよ」
聞こえてないであろうサーテラス様に向かってミリアの声が響いた。流石にうるさいから、直後亜子が引き金を引いた。びっくりしたけど、どうやら眠らせただけのようだ。
「それじゃあ、私は行くね。楽しかったよお兄ちゃん。亜子」
「ミリア! 助けに行く絶対に!」
「待っててね。ちゃんと私が帰るまでは責任もって貰うから!」
二人はどこから聞こえてるかわからない声へ向かってそう居った。それにミリアは「うん」と答える。
「あっ、あとそこで死んだふりしてる……えっとラーゼだっけ?」
そんな声を掛けると部屋の隅でじっとしてた人形の一体が首だけ回してこっちをみた。こわ!?
『バレてたんだ。まあ私の輝きはこんな人形を通しても隠せないしね』
「ふふ、ほんと楽しいね。そんな貴方の力の影響で、私も貴女と同じように楽しめる」
『どういうこと? なんか私と並んでるみたいな言い方は気に入らないんだけど? 私という存在は唯一無二だから!』
何で張り合おうとしてるのよラーゼは。てか動けたんなら助けなさいよ! 今、下手な事いってミリアの機嫌損ねても不味いし! けどミリアはただただ笑ってる。
そしてひとしきり笑い終えると、こういった。
「よかった。貴女なら、全部押し付けられる。今から私は魔王復活の理由を告げます!」
え? なに? それって結構重要な事だよね? 聞かせてくれるのなら、聞かせて貰おうじゃない。
「魔王が目覚めたのは今から数ヶ月前。魔王が眠る地に、とてつもないエネルギーを秘めた魔光石が飛来したのがキッカケです。魔王とはこの世界の種全てにとってイレギュラーとなる存在。世界の序列が今から数年で大きく変わる。もちろん消え去る種も居るでしょう。そんなキッカケを生み出すキッカケになった者がいるとしたら……それはとてつもない事ですね」
確かに……それは凄く不味いね。そんな奴が居たら、全ての種に狙われても文句言えない。
「私はそんな目覚めかけの魔王の意志に選ばれて、魔王として転生を果たした。そして私は気付いたの。この力……とっても懐かしい。私はこの力に殺された事があるって」
私達は、人形を見た。正確には人形の向こうのラーゼをだけど。凄いね。人形の癖に汗かいてない?
『言いがかりだ! 異議申し立てる! 証拠不十分で私は無罪を主張する!』
「心当たりあるの?」
『黙秘権を行使する』
私の言葉にだんまりを決め込むラーゼ。けど時折「まさかアレか? でも勝手に飛んでったし」とか聞こえた。うわー犯人こいつだよ。ほんと騒ぎしか起こさないやつである。
「まあ、そういうのなら別にいいよ。ただ、あと数年で魔王は完全復活するって事。その時はぜひ、対面したいですねラーゼ」
『ええ、ご遠慮しとくわ』
「ふふ、照れちゃって可愛い」
『そっちこそ、これで見た目化物だったらウケるんですけどー! せめて美少女で来てくれないと、絶対に私は認めないからー』
「ご期待に添えたいけどどうかなー。あはははははは」
『うふふふふふ、期待なんて一切してないからー』
なんか火花散る女子トークを繰り広げて、魔王ミリアの靄は消え去った。彼女の気配は完全にない。すると身体が脱力して床にお尻がついた。みんな似たような物だ。長い長い夜がようやく終わった。
「サーテラス様……」
そこに居たのは細くキレイなサーテラス様ではもうなかった。醜く太った豚がそこに居た。それは魔王に取り憑かれる前のサーテラス様そのもの。彼女の本来の姿だ。一杯出てったのに出てく前よりも太るとはこれ以下に……一体どういう原理だったのだろうか? けどこれではっきりした。今の彼女に先程までの力はない。けど……サーテラス様から出てった黒い力はこの部屋に確かにまだある。
「魔王! そう魔王! 再び私の中に入りなさい! それでまだやれる! 貴方だってまだまだ暴れたいでしょう!」
黒い靄に向かってサーテラス様はその短い手を必死に伸ばす。魔王の力たるこの靄が再びサーテラス様に入る事は避けたい。だってそうなると、また振り出しに戻ってしまう。しかも今度は上手く行かないかもしれない。今回だって、偶々上手くいっただけで、私達はサーテラス様の……魔王の力の一端に圧倒されてた。もう一回アレを相手にするなんて……絶対にゴメンだ。
けどこんな靄の止め方なんか分からない。いや、ここは逆転の発想ではなかろうか? 私の脳細胞がかつて無い程に冴え渡る。
「そんな事させない!」
私は魔法を発動させる。それはごく小規模な結界魔法。それでサーテラス様を完全に覆う。そうだよ。靄はどうにかなんて出来ない。そもそもが魔王の力だし……けど、サーテラス様事態に近づかせなくする事は出来るんじゃないかと考えたんだ。それがこの結界。光属性を帯びたこの結界に魔王は近づけ無いはずだ。多分。魔王程の力の前ではもしかしたら無力なのかもしれない。
けど自身のありったけの魔力を込めたこの結界を信じるしか無い。でもそれは杞憂だったようだ。皆の緊張感もなんのその、魔王の……いや、ミリアの声が再び響く。
「もう時間切れだよサーテ。貴方、案外楽しかったけど、ここまでだよ。私という反則級の力を使って負けたんだから、潔く降伏した方かいいよ」
「何を言いますの! 私は負けてなどいませんわ! 私が……貴族である私が平民などに負ける訳が無いじゃないですか! そうでしょう!? そんな事ありえませんわ!!」
いくら否定の言葉を綴っても、魔王ミリアは再びサーテラス様の中に入る事はないだろう。そしてそれを強制することも出来ない。だって魔王はサーテラス様の何倍も何百倍も強い。本当ならこうやって普通に話を聞く様な相手ても無いはずだ。今の魔王はミリアだから、私達の言葉に耳を傾けてるだけ……けどもう、そんなのはサーテラス様は分かってない。
ただこの現実が受け入れられなくて、さっきまでの夢の様な力に酔ってしまってる。
「魔王! 私の言うことが聞けませんの!! 早く戻るんです! そして今度こそあの女をぶち殺すんですわ! あはっあははははははははは!」
「狂ってる……」
カタヤさんがそういった。でも誰もそれを否定できないよ。部屋に響くこの狂気の叫び……正気だなんて思えない。
「サーテ貴方、一体何の為に私を求める?」
「そんなの決まってますわ! 私は奴を殺す力のために魔王を求めます! それだけの、それだけのために!」
ギョロッと血走った目が私を捉える。私は思わず「ひっ」と声を上げる。けどここで引いたら今までと何も変わらないんだ。私はかばってくれようとしたペルを止めて前に出る。
「サーテラス様。そんなに身分が大事ですか? 貴族と平民とか、それは私達の間に途方もない壁を作ってますか?」
「当然です。貴族は与える者で、平民は与えられる者なのですわ。私達貴族が平民を守って生きさせてるんです。ここまで人種が息長られたのも全ては貴族や王族あってこそ。それを蔑ろになんて許される事ではない!」
「それは大きなくくりであって、私達個人とは関係ない! 私達は同じ人種なんですよ? なろうと思えば貴族でも平民でも友達にだってなれます!」
「それは綻びなんですわ! 許されて良い道理はない。貴方はだから……だから死になさい!!」
サーテラス様は私に飛びかかってくる。けどそれをペルが素早く組み伏せる。安心して結界解いてたのが仇になったね。結界張っとけば、余計な手間取らせずに済んだのに。
「離しなさい人形風情が! 私にこんな事して許されると思ってるのかああああああ!」
言葉遣いまでも崩壊しだした。なんとかとどめようと思ったけど……火に油を注く結果になった。すると私の横からアナハが出てきて、首を振るう。なにそれ? もう無駄って事?
「サーテラス様、貴方は貴族とか……なんとか拘ってるようだけど……本当の所は違うのでしょう? 私の魔眼には見えますわ」
「なにを……」
「貴方の憎しみの根底にあるのは……キララへの劣等感……です。可愛く魔法も出来て、人気もある。そんなキララが平民……だから、貴方は許せない。貴族の……誇りなんてただの方便……貴方の怒りも……憎しみも……そして殺意も……全部ただの劣等感からきてるもの」
「劣等感? ……この私が平民如きに? そんな……そんな事……あるわけ……あるわけ……あああああああああああああ!!」
そして私を見据えてひたすらに「死ねクソ殺す」を連呼しだした。もう会話は不可能だった。
「サーテ……最初の契約ではまだ、人種のこと思ってたのにね。残念だよ。その狂気はいずれ自分を殺すよ」
聞こえてないであろうサーテラス様に向かってミリアの声が響いた。流石にうるさいから、直後亜子が引き金を引いた。びっくりしたけど、どうやら眠らせただけのようだ。
「それじゃあ、私は行くね。楽しかったよお兄ちゃん。亜子」
「ミリア! 助けに行く絶対に!」
「待っててね。ちゃんと私が帰るまでは責任もって貰うから!」
二人はどこから聞こえてるかわからない声へ向かってそう居った。それにミリアは「うん」と答える。
「あっ、あとそこで死んだふりしてる……えっとラーゼだっけ?」
そんな声を掛けると部屋の隅でじっとしてた人形の一体が首だけ回してこっちをみた。こわ!?
『バレてたんだ。まあ私の輝きはこんな人形を通しても隠せないしね』
「ふふ、ほんと楽しいね。そんな貴方の力の影響で、私も貴女と同じように楽しめる」
『どういうこと? なんか私と並んでるみたいな言い方は気に入らないんだけど? 私という存在は唯一無二だから!』
何で張り合おうとしてるのよラーゼは。てか動けたんなら助けなさいよ! 今、下手な事いってミリアの機嫌損ねても不味いし! けどミリアはただただ笑ってる。
そしてひとしきり笑い終えると、こういった。
「よかった。貴女なら、全部押し付けられる。今から私は魔王復活の理由を告げます!」
え? なに? それって結構重要な事だよね? 聞かせてくれるのなら、聞かせて貰おうじゃない。
「魔王が目覚めたのは今から数ヶ月前。魔王が眠る地に、とてつもないエネルギーを秘めた魔光石が飛来したのがキッカケです。魔王とはこの世界の種全てにとってイレギュラーとなる存在。世界の序列が今から数年で大きく変わる。もちろん消え去る種も居るでしょう。そんなキッカケを生み出すキッカケになった者がいるとしたら……それはとてつもない事ですね」
確かに……それは凄く不味いね。そんな奴が居たら、全ての種に狙われても文句言えない。
「私はそんな目覚めかけの魔王の意志に選ばれて、魔王として転生を果たした。そして私は気付いたの。この力……とっても懐かしい。私はこの力に殺された事があるって」
私達は、人形を見た。正確には人形の向こうのラーゼをだけど。凄いね。人形の癖に汗かいてない?
『言いがかりだ! 異議申し立てる! 証拠不十分で私は無罪を主張する!』
「心当たりあるの?」
『黙秘権を行使する』
私の言葉にだんまりを決め込むラーゼ。けど時折「まさかアレか? でも勝手に飛んでったし」とか聞こえた。うわー犯人こいつだよ。ほんと騒ぎしか起こさないやつである。
「まあ、そういうのなら別にいいよ。ただ、あと数年で魔王は完全復活するって事。その時はぜひ、対面したいですねラーゼ」
『ええ、ご遠慮しとくわ』
「ふふ、照れちゃって可愛い」
『そっちこそ、これで見た目化物だったらウケるんですけどー! せめて美少女で来てくれないと、絶対に私は認めないからー』
「ご期待に添えたいけどどうかなー。あはははははは」
『うふふふふふ、期待なんて一切してないからー』
なんか火花散る女子トークを繰り広げて、魔王ミリアの靄は消え去った。彼女の気配は完全にない。すると身体が脱力して床にお尻がついた。みんな似たような物だ。長い長い夜がようやく終わった。
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