美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β39

「お待たせ」


 寮の裏口の鍵を開けて、カタヤさんと亜子を招き入れる。二人共服装が変わってるね。なんだか黒いピッチリしたスーツに身を包んでる。まあそれもそうか、だってこれから私達は魔王に挑みにいくんだ。むしろ私達が可笑しいんだろう。だって二人共御めかししてるからね。アナハに至ってはドレス着てるし。まあ黒い布を羽織ってるから、あんまり見えてないけどね。
 私はまだマシだよ。流石にドレスとか着てないし。だけど、おニューの服を下ろした。妹がカタヤさんは好きだからね。それっぽいチョイスにしてみた。可愛い系のフリフリフワフワな服。
 これが汚れると思うと落ち込むけど、気合を入れないわけにはいかないじゃん。そっちでも……こっちでもね。けどマジな二人の服装を見るとやっちまったか? とも思わなくもないけど、流石に私達そんな服持ってないからね。


「それじゃあ、案内を頼む」
「分かりました」


 どうやら私達の格好はスルーしてくれるらしい。まあ服装の指定してないしね。私はともかく流石にアナハは突っ込まれるかと思ったけど、貴族にとってはあながちドレスは間違ってないとも言える。だって貴族の戦場は社交界とかいうし、そこでは皆ドレスを着てく。つまりはドレスは貴族の戦闘服なのだ。とかなんとか考えてると、あっさりとサーテラス様の部屋の前に付いた。


 魔法も使ってるからね。けど夜の寮というのは不気味だ。暗く静まり返ってると、昼間とは全然違う感じがする。魔王が居るとか、そんな事は関係なく。カタヤさんは既にその刀を抜き去って、扉に耳をつけている。


(ヤバイなこれ……私の好きな人、完全に犯罪者にしか見えないよ)


 黒い服に身を包んで、武器を持ち、そして女の子の部屋の扉に耳を当てる男性……ほら、もう字面だけど犯罪者確定だよ。流石にこれはイケメン無罪は適用されなさそう。勇者だから許されるかな? 微妙なラインだ。


「中の音は聞こえないな……」
「けど他に行くところなんて……」


 亜子は私達を見る。一応戻ってきてからペルに部屋を監視してもらってたから、中に居るとは思う。てか普通なら寝てるよね? 中の音が聞こえなくて当然では無いかな? 


「その魔王という存在が、とても強大な力を持ってるのなら……気付いてると思ったんだが……」


 なるほどね。確かに魔王なら、気付いててもおかしくなさそうな気はする。罠? けど、ここまできて踏み込まないわけには行かない。カタヤさんはその刀に手を添えて刀身をなぞる。すると、刃が輝き出した。そして亜子も自身の銃に何やら呪文を掛けてる。アナハはメガネ外してるし、皆各々戦闘態勢をとってる。私はというと……別段武器とかないし、とりあえずペルを抱きかかえた。


「行こう!」


 カタヤさんはそう言って扉同士の合せ目に刃を入れてスパッと切る。鍵が音もなく切れて、私達は開いたドアから中へと入る。その時だった。暗い寮内よりも更に黒い靄みたいなのが、部屋から溢れ出した。その瞬間、私達の動きが止まった。一瞬にして吹き出す汗。部屋の中央でソファーに鎮座してる存在から目が離せない。一瞬にして私達を絡め取った存在は……サーテラス様であり、そして魔王を名乗る存在だ。


(勝てない……こんなの勝てるわけないよ……)


 私は既にそんな思いが心を埋め尽くしてた。だってその力は圧倒的で……とてもとても深い力が底を見せずに鎮座してる様に私には見えてたんだ。踏み入ったら飲み込まれる。絶対にそうだと……理解させられた。そしてそれは皆同じ……ゆっくりと立ち上がるサーテラス様。雲の隙間から伸びる月光が彼女の恍惚とした表情を照らし出す。


「ああ、ようやく来てくれた。やっぱり、ここに来て正解だったよ。亜子……それにお兄ちゃん」


 何を言ってるの? この場の全員がその言葉を理解できない。理解できる筈がない。アレはサーテラス様ではないとはわかる。多分内の魔王が出てきてる……けど、あの怖い方の奴でもない。あれは……そう……あれは一体誰!? 

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