美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β37

「亜子!! 一体どうしたんだ!?」
「きゃああああ! なんで入って来れるんですか!? ここ女子寮だし、私の部屋の鍵までなんで持ってるの!?」


 予想以上でした。予想以上の速さと予想外に部屋まで一気にやってきたのが亜子はびっくりしてた。まあ勿論、やってきたのは人種の希望、カタヤさんだ。彼はアンティカのパイロットとして、先陣を切ったりしてる。アンティカのメンテが終わったら、再び忙しそうにしてる。大体人種はアンティカ便りだから……それも仕方ない。
 ネジマキ博士が色々な武器や兵器を作ってるから、昔よりも人種の戦闘力は上がってるらしい。けど、それでも、ここまで快進撃ができてるのはアンティカがあるからだ。そしてそのパイロットとして、一人だけ顔出ししてるのがカタヤさんな訳で……それで人気が出るなってのが無理ある相談なのだ。しかもカタヤさんはイケメンだ。
 輝く金髪に、碧眼の瞳。鼻筋も通ってて、どこか甘いフェロモンを醸し出すその顔は人種の女の子達に大人気。彼が登校してる日は周りの様子が変わる。皆、一目はカタヤさんを見ようと、殺気立って情報求めてる。そしてあわよくば声を掛けて貰えないだろうか――と、夢を見てるのである。


「なんでだと? 妹の危機に駆けつけるのは兄の義務だからだ!!」
「だから私はミリアじゃないから!」


 その夢の相手が重度のストーカーシスコン体質とは皆知らない。世の中には知らない方が良いことが沢山あるんだ。これもその一つ。まあ、私はそれでも好きだけどね。


「とりあえず鍵を渡して。勝手に部屋に入って来れると困るから」
「そんな事はしない! 僕はただ、純粋に亜子君の事を思ってるだけだ」


 ピクッと亜子が反応する。私もいまの発言にはむむむーだよ。カタヤさんは自覚なく今みたいな事を言うんだよね。はっきり言ってほんと亜子が羨ましいよ。だって今のなんて、告白とも取れる言葉だよ。今のをそこらの女子生徒に言ってみ? 絶対に崩れ落ちるから。でもここまでの事を言うのは亜子に対してだけだからね。妹を重ねてる亜子に対してだけ。
 それを知ってるから、私はまだいい。けど知らない人が聞いたら……ああなるよね。私はアナハをみる。彼女、その眼鏡の奥の瞳から光が無くなってる。今の言葉が信じられないよう。そして亜子を突き刺すかの様な視線。


 亜子はカタヤさんの今の発言であたふたしてて気付いてないっぽいっけど、かなりの眼力で見てるよ。魔眼で呪い殺そうとかしてないよね? 出来るか知らないけど、それを心配するレベルの目だよ。


「絶対に勝手に入ってこないでよ。やったらもう口聞かないから」
「誓うよ。僕は亜子君の嫌な事は絶対にしない」


 なんか結局鍵はカタヤさんが持ったままのよう。誠実なのはわかってるから、亜子は最後まで強くは出れないんだよね。今のやりとりはなんだかホントの兄妹っぽいなって思った。まあホントの兄妹なんて私は知らないんだけど。とりあえず亜子も落ち着いたみたいだし、本題に入ろう。


「あのですねカタヤさん。今日は――」
「おうカタヤじゃん」
「お? ペルか。なんでここに居る?」


 あれ? 待ってよ。なんでペルがカタヤさんと知り合いなの? しかもかなりフレンドリーなんですけど!? 私はペルを持ち上げて秘密を吐かせる。


「どういうことなのペル? なんでカタヤさんと知り合いなの?」
「くぐぐぐぐるじいぞ亜子……そっそれはラーゼにづれでかれた時、会ったんだよ」
「それって領地でって事?」
「ぞうだ」


 私はとりあえず締め上げるのをやめて上げる。ふーん領地で会ったんだ。つまり、カタヤさんはもう行く必要も無いはずなのに、領地に……いや、ラーゼの元に足繁く通ってると……そういうことですか。なんか私の瞳からも光が無くなりそうだよ。だってカタヤさんは亜子を出汁に領地に来てたはずだ。その亜子は今や、学園に居る。
 そうなるともう亜子を出汁には使えなくなる。それなのに領地にねぇ。


「カタヤさん、確か今年卒業ですよね?」
「そのつもりだよ」
「けど、確かそれにはまだ単位が足りない筈では?」
「なぜ、それを……」


 皆知ってます。学園の者皆ね。だってカタヤさんの熱狂的なファン達がカタヤさんの出席日数や、講義の選択からおおよその卒業までの単位を計算してるのだ。そしてそれはファンクラブ会員には情報共有されてる。憶測でしかなかったけど、言質取れたしどうやら正確だったみたい。これぞ皆さんの愛のなせる技だね。けどそれは流石に言えない。
 なので私はそこはスルーしてカタヤさんを追求するよ。


「領地に何しに行ってるんですか? そんなことよりも単位を取ることの方が先なんじゃないんですか!? ラーゼですか? ラーゼにそんなに会いたいんですか?
この前ここに来ましたよ!」
「それは聞いた」


 聞いたんだ。まあ隠すような事でもないか。


「ちっ違うから。別にラーゼに会いに行ってるとかではないんだ。確かに単位は大事だし、ちゃんと出席出来る日はする。だが、僕は軍属だからね。命令は優先されるんだ」
「ラーゼに会わなければ行けない命令でも出てるんですか?」
「…………それは、言えない」


 極秘事項ですか。確かに理由はあるみたいだけど……私は疑うよ。


「本当に命令だからってだけですか? だって何よりも亜子の事を優先するのがカタヤさんなのに……ラーゼに会いたいから会いに行ってるんじゃないんですか?」
「そんな事はない。どちらかと言うと僕はあの女は嫌いだからね。傍若無人だし、いつだって僕の事シスコンと言ってくるし、変なお願い事毎回してくるし、それを実行する為に僕がどれだけ走り回ってるのか、アイツは全然分かってない」


 なに? 後半はノロケですか? ラーゼに良いように使われてるのをこの人、楽しく思ってるよね!? やれやれとか口で言いながらも、全力で取り組んでるじゃん! このままだと、ラーゼの奴にどんどんのめり込んで行きそう。ラーゼはホント見た目は綺麗で可愛い。実際この言葉の百万倍くらい、綺麗で可愛いから、不味い。
 亜子がここにいれば会う機会は減ると思ってたんだけど、軍の人達も余計な事をしてくれるよ。まあ、その人達が変な命令しなくてもカタヤさんなら、自分で何かと理由をつけて行ったかな? いや、でもこの人は何かが必要なタイプなんだよね。自分自身の為だけでは全力で動けないみたいな。だから何かに言い訳を求めてる節がある。
 情けない? 私はそういう弱い部分にキュンキュンくる。だから必要以上に妹を求めてるのもなにかあるかもって……


「はい、この話はとりあえずおしまい!」


 私は手を一回叩いて、空気を変える。だってカタヤさん頭の中がラーゼでいっぱいになりかけてたんだもん。それは困る。ここはさっさと本題を話して、こっちに集中してもらおう。上手く行けば、かなりこっちに掛かりっきりに成ってくれるかも。そんな下心を隠しつつ、私は真剣な声色で事情を説明する。


「カタヤさん、今回ここに来てもらったのは貴方の力が必要だからです」
「僕の力が?」
「はい、人種の希望……勇者のカタヤさんだから話します。今この学園には魔王が居るのです!」
「魔王!? ……はい?」


 はい、知らないですよね。けどちゃんと説明しますから! 冗談じゃないですから! 私は再び亜子にした話をカタヤさんに話して聞かせた。

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