美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β32

「良いじゃない……付き合っちゃえば」


 なんか私の魂の叫びを適当な言葉で受け流そうとするアナハ。つつつつ付き合うとか……そんな簡単なことなの? そういうものなの? 私がお硬いのだろうか?


「別に結婚とか……する訳じゃ無い。学生時代は……大人になってから出来ない事をやっておく場。結構いるよ……女の子同士で付き合ってる人」
「え? 本当に?」


 そ……そんな世界があるんだ。初耳だよ。やっぱりまだまだ世界には知らないことが一杯だね。


「うん……大体お手洗いに連れ添ってる女は付き合ってる」
「それ言いすぎじゃない?」


 本当なの? 結構連れ添って行ってる子達いるけど? その皆が皆が付き合ってるとしたら、健全なカップルなんて生まれないのでは? だってそもそもここ、男子の方が多いよね? いや、こっちの通常の方は女子の方が多いんだっけ? 男子が多いのは軍事教練の方だったかな? 忘れた。


「言い過ぎじゃない……女同士で付き合いつつ、彼氏も作ってるから」
「もうわけわからないよ」
「後、男子は男子で付き合ってたりもする。だから……お互い様」
「何が? なにがお互い様なの!?」


 もうなんの話ししてたのかわかんなく成ったよ。知りたくなかったそんなこと。この世界は結構……というか、かなり歪んでるんじゃない? 私の知らないところが捻じれちゃってるよ。


「傍から見てる分には……楽しいわよ」
「でしょうね。完全に楽しんでるよね?」


 私は当事者なんですけど!? 解決策がほしいんだよこっちは。ほら……ティアラ様がアナハの事を鋭い目で睨んでるよ。


「ちょっと楽しんでる場合じゃないからね。アナハもアレみたら震え上がるでしょ?」
「別に? ほら……キララを見て微笑んでるわよ」
「超怖いんですけど!? なんか笑顔が怖いんですけど!?」


 あんまりもたもたしてたら、こっちに突撃して来そうだ。私は確かめたかった事をアナハに聞くよ。


「ねえ、ティアラ様はまだ操られてるの?」
「それは……ない。だって昨日……アンタの力を使って……全部消したし。今見ても、ティアラ様のマナは……綺麗」
「てかそれ、昨日の内に教えといてよ」


 切実な願いを私は口に出した。だって昨日の内に言ってくれてたら、今朝の驚きとかなかったし。そもそもなんで隠してたのよ?


「聞かれなかったし」


 私が悪かったんですね! そうですはい! 


「これからは重要事項は報告することにしよう。そうしようアナハ!」
「気が向いたら……ね」


 駄目だこれ。やる気全く無いよ。


「キララさーーま」
「はい! もう少々お待ちを!」


 可愛らしい声で名前を呼ばれた。きっと男子なら今ので、胸が高鳴る事だろう。私も実はバクンバクン成ってるよ。止まりそうだけどね。


「操られてないって事は……ティアラ様はその……本気なの? てか正気なの?」
「正気で本気でしょ……あの人……前々からそっちの噂あったし。生徒会に……誘ったのも……そのつもりだったんじゃない?」


 つまりは最初から私は狙われてたと……そういうことか。けど分からないことがある。


「なんで私なのかな? だってティアラ様はあんなに綺麗なのに……周りの男の人は格好いい人ばかりだよ?」


 生徒会の面々は人種の平均からしたら皆格好良い部類だと思う。それにあの方々ではなくても、公爵令嬢という身分とあの容姿で選り取り見取りのはずだ。そんなティアラ様が私を選んだキッカケは一体? 何があの方の琴線に触れたのか正直全くわからない。


「ねえ……キララは好きな人いるの?」
「なんで……そんな事?」


 いきなり恋バナ? なんなの一体? けど、眼鏡の奥のアナハの瞳が凄く真剣に私を見てた。その瞳に映る私……なんてキレイな目だろうと思った。私は照れくさいけどこういった。


「いる……よ。好きな人」
「その人の事……なんで好きになったの?」
「それは……私の事助けてくれたし……守ってくれたし……けど気付いたら好きに成ってたのかも」
「ティアラ様も……同じじゃないの?」
「え?」


 するとアナハが私から距離をとってメガネを掛けなおして決め顔をつくる。


「恋って……いつの間にか落ちるものでしょ? 理由なんて……探した所で意味ないのよ」
「アナハ――」


 あっこれ、殴って良いやつだよね。だってなんかムカつくもん。でもスパーンとは流石に行けない。ラーゼなら行けるんだけどね。だからその鼻を摘んでやった。


「――恋したことあるのかな?」
「わひゃひのこいひょとほんだひゃから」


 訳すと「私の恋人本だから」かな? ないじゃん! 絶対に本の受け売りじゃん! 


「アーナーハー! …………ん?」


 何やら、ブルッときた。突然気温が下がったかのよう。私達は二人して冷気のする方向へ視線を向けた。するとなにやらティアラ様の足元から魔法陣がでてる。しかも氷生やしてる。あれ? これ不味くない?


「お二人はそういう関係なんですね。仲の良さを私に見せつけて……それで諦めさせようという魂胆ですか!?」


 何やら壮大な勘違いがティアラ様の中で紡がれてるようだ。仲の良さ? 見せつけてましたかね? 焼却場がどんどんと氷に包まれていく。どうにかして止めないと……


「けど……私はそのくらいでは諦めません。私の愛! その身をもって味わってください!!」


 超ヤバイ人だよこの人ーーー!! ティアラ様は言葉を紡ぎ、その力を開放した。周囲の光が彼女の冷気に反射してキラキラと輝いて見えてる。とても綺麗。私は他人事のようにそう思った。

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