美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

β11

「ちょっといいかしら?」
「私、急いでますので」


 豚の事をやりすごそうどしたけど、その肩をガッチリと掴まれた。そして取り巻き二人が渡しの前に出てきて進路を塞ぐ。もうなんなのこいつら。なんだかいつも以上に機嫌が悪そうなんだけど……今は授業も終わって放課後だ。それぞれが色々と自由な事に取り組む時間。友と友好を育んだり、恋人と逢瀬したり、わからない事を先生に聞いたり、先生たちの研究の手伝いしたり……生徒たちで集まって色んな取り組みをしてる人達もいると聞く。
 そんな自由な時間で夕食まではまだ猶予があるこの間を私はいつも勉強に当ててるんだけど……だって私は皆と差がある。実習系はこの力のお陰で、なんとかなってるというかなりすぎてるけど、頭をつかう方はサッパリなのだ。


 だから日々こうやって勉強してるんだけど、全然追いついてる気がしない。なんでだろうか? 


「ちょっと聞いてますの?」
「え? 全然?」
「きぃぃぃぃぃ! 貴女何様ですか!?」


 煩い豚だね。そもそもこっちが言いたい台詞だよ。何様なのこの豚は? 豚様なの? その大根の様な脚で地団駄踏む豚は私を睨んで「これだから辺境平民は」とか言ってる。田舎者で悪かったですね。都会にいれば偉いのか。そもそも貴族なら偉いのか? とか言いたい。貴族だから自分も偉いとか思うのはそれは間違いでしょ。
 少なくとも、私はこいつの事を偉いなんて何処をみても思えない。


「サーテラス様。私は急いでますの。つまらない用で引き止めないでくださいませんか?」
「つ……つまらないですって? この私が用があると言ってるのですよ!?」
「はぁそれが?」


 ワナワナと震え出す豚。折角名前で呼んであげたんだからそれだけで満足してほしいよね。そもそもなんでこの人がこんなに突っかかってくるのか私にはわからない。偉ぶるのはどうでもいい。私文句言った覚えもない。それなのに何故か突っかかって来るんだよね。そろそろ私も怒っちゃうよ。


「こんな奴ぶっ飛ばしてしまおうぜ」


 そういうのは私の肩にいるペルだ。その声を聞いて豚は明らかにビビってる。


「私に手を出すとどうなるかわかってますの? この学校にはいられなくなりますわよ!!」


 結局自分ではなにもしないんだよね。この豚がするのは権力と肩書を振り回すだけ。だから相手をしても意味なんてない。けど細々とした嫌がらせやイビリもそろそろ鬱陶しい。私がその力を見せつけて皆から受け入れられたのが相当気に入らないよう。


「私は貴族です。その誘いを平民である貴女が断れると思わないで!」
「貴族ってそんなに偉いんですか?」
「当たり前です。貴族である私達がこの国を支えてるのですから!」
「じゃあ貴女はどうやってこの国を支えてるんですか?」
「貴族としてです」
「肩書で国は支えられないんじゃないんですか?」


 知らないけど。そもそも国とか難しいことはわからない。けど、一つだけ確実に言えることは、こういう権力に胡座をかいてるやつが何かをしてる訳無いって事。


「私の領地は貴女の領とは違って税収も国への貢献も段違いなのですよ! 少しくらいまともになったくらいで図に乗らないでくださる!?」
「それって貴女の誇る事ですか? それは領主と領民がやったことじゃないですか?」
「どうやら貴女は貴族が何なのかわかってらっしゃらないようですね。そんな貴女が生徒会に入るなんて認められませんわ!!」


 やっぱりそれか……と私は思った。生徒会には王族とか公爵令嬢とかいるもんね。そんな国のトップとも言える位の方達に、平民である私が近づくのが許せないんだろう。別に私が入りたいなんて言ったわけじゃないのに……


「文句なら生徒会の皆様に言えば良いんじゃないでしょうか?」
「あの方々に私風情が意見を申すなどできるわけがないでしょう。これだから平民は……」


 寧ろこれだから貴族は――とこっちは言いたいよ。偉そうな事を言いまくるのは自分よりも身分が低い立場の奴にだけ。そんな奴に誰が尊敬とかすると思うのか。


「貴女は自分の立場をもっと弁えなさい!」


 そう言って豚の手が私に迫ってくる。それをわたしは座った目でジッと見つめてた。


(もういいや)


 そう思って私は薄く口角を引き上げる。一発はくれてあげる。けどそれを盾に私もやってやる。ペルの一撃を喰らえ。私の考えが伝わってるのか、ペルはジッとその拳に力を溜めてる。私だって我慢の限界はあるんだよ。成るべく穏便に……と思ってたけど、こいつのこと……私は嫌いだ。ペルの一撃で顔面崩壊するかもだけど、既に醜いし大丈夫だよね。


「お待ちなさい!!」


 凛とした声が響く。私の頬の直前で止まる豚の手。視線を向けるとそこにはティアラ様の姿があった。その顔には昼間の優しさは垣間見えない。怒りをはらんだ目でこちらを見てた。そしてそんな視線に受けて豚が冷や汗をダラダラと流してた。

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