美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#97

 二日の旅を経て小さな集落が見えてきた。まさかとは思った。まさかまさかその集落が私の領地? ダンプはゆっくりとその集落の中央で止まった。うん、やっぱりここらしい。一つだけ立派な屋敷があるけど、それ以外は余りにも貧相な家しか無い。これ……多分っていうかこの立派なのが私の家なんだろうけど……余りに嫌味じゃない? 
 私かなり神経図太いと思ってるけど、これは流石に……いや別に気にしてくてもイケるけど……領民から嫌われるのは不味いでしょ。彼等があくせく働いて私は楽できるんだからね。まあだけど、この規模じゃ楽できそうにないんだけど……どう見ても自給自足の生活じゃないここ? どんだけ辺境の痩せた土地あてがわれてるのよ。
 こうなったら王様を籠絡してもっといい土地に変えてもらうか。私にはそれが出来る。そんな事を考えながらも一応はダンプから降りてみる。なんか乾燥した風が肌を抜けた。喉に悪そう……てか肌にも悪そう。まあ私は多分大丈夫だろうけど。


「お待ちしており……」


 多分ここの集落の長らしいご老体が杖を付きながらそう言いかけて、そして止まった。まさに微動だにしないとはこのことだ。なに死んじゃった? 私の美しさに思わず天に昇ったか。まあ、それも仕方ない。だって私、超絶可愛いからね。思わず天に昇ってもこの時が寿命だったと諦めてほしい。最後に私程の美少女を拝めてありがたかったでしょ。


「はっ! ちょ、長老!」


 近くに居た中年男性ハゲてるの人が微動だにしなくなった長老を揺さぶる。するとそのご老体がゆらりと力なく倒れようとしたのをハゲが必死に支えた。


「ちょ! 長老! 長老おおおおおおおおおお!!」


 彼の慟哭が虚しく空に響く。他の人達もそんなハゲの叫びでようやく動き出した。皆が長老の傍に集まってそっとその身体を横たえた。そして心音を確かめる様にハゲがその胸に耳を当てる。


(ちょっその態勢、禿げてる部分がモロに見えるんですけど。皆心配そうにしてるのに、私だけ笑うとか絶対印象最悪になるからやめて)


 プルプルと震えながら私は必死に吹き出しそうになるのを我慢する。そうしてるとハゲが真剣な表情で表を上げてこういった。


「死んでる」


 マジですか? とうとう私の美しさが他人の命を奪ってしまった。ごめんね、罪づくりすぎて。でもこれは不味い。だって長老が少女の美しさのせいで逝っちゃったってどうよ? これって死因は何なの? ショック死? ある意味私が殺したみたいで皆さんの印象が悪くならないか心配だ。ハゲのせいで笑いをこらえるのに大変だけど、ここは私の役者魂を見せる時! 
 涙とかは出せないから、少し顔を伏せぎみにして、深刻そうな声をだしてみる。


「私のせい……ですか?」


 ザワッと一気に動揺が広がる。さあどう転ぶ? 誰がどうみても私の美しさに当てられて長老は逝っちゃったけど、ここでそれを認めれば私との確執プラス長老の恥になるだろう。けどここは小さな集落。誰かが発したその言葉に全員が同調してもおかしくない規模。否定か誤魔化しか……そんな事を思ってるとハゲが長老の顔に布を掛けて立ち上がる。


「長老は……老衰です。老衰です!!」


 確固たる意志でそう告げるハゲ。おかしい、天辺ハゲの癖になんか格好良く見えるぞ。そしてそんなハゲの言葉に他の人達も乗ってきた。流石狭い限界集落。同調圧力が凄いな。ふう、なんとか危機は乗り切った。てかこの死体どうするのよ? いきなり葬式から始まっちゃう訳? 私の領主の初仕事は葬式ですか? なんか嫌だ。
 いや、こんなど田舎じゃやることなんて何があるかわかんないけどさ……葬式って幸先悪く感じる。私は顔に布掛けられた長老の死体に近づく。そしてその手に触れてみた。なんだかこの村の人達がとても驚いた様な顔してるがなんなの? 汚い物に私がふれちゃったみたいな? 流石に長老に失礼じゃない? まあそんな事はどうでもいい。


(まだ暖かい……)


 それはそうだね。だって今しがた死んだばっかりだし……魂もマナだとこの世界は考えられてる。マナが尽きれば生命は死ぬから、まあそう考えるのは普通だよね。寧ろ前の世界よりも魂がハッキリしてると言える。でもそれだけでもないと思う。私が見える濃くなったマナは白だ。多分それは何にも染まってないマナだからだと思う。
 魔法を使う時、その属性の象徴的な色が見える。炎なら赤とか、氷なら青とかね。ようはマナは寄り添うんじゃないかと……まだ今なら、長老のマナだけを元に戻せたり出来ないだろうか? 私には無理だけど、ちょっと試したい事がある。


「兵器――キララ、ちょっといい?」
「なに?」


 私に呼ばれてキララが寄ってくる。私は彼女の服の袖を引っ張って耳をよさせて、ヒソヒソとその耳に言葉を流す。


「そんな……事……」
「まあまあようは試しだから」


 そう言って私はキララの一歩後ろに下がる。長老の死体に手を翳すキララ。そして目をとじる。


「一体何を?」


 ハゲがそんな事言ったけど、答えはしない。見てればわかるしね。そして私も目を閉じて自身の力の流れを感じる。いつも僅かにピアスを通じて私の力は外に流れてる。その脈が大きく振れて、一つの道が出来る。


(やっぱりキララは相性がいいみたい)


 これだけの力が流れても暴走も詰まりもしない。そもそも他の奴等は勝手に力取るなんて出来ないし、無理矢理そんな事をしたらどうなるかわかったものじゃない。けど、何故かキララはそれが出来るんだよね。だから私の力の蛇口にキララを使おうという案が私の中で有ったのだ。でも問題はキララには私の中の魔術回路とかまでは共有できないことだね。
 力しか流せないし……私のご都合主義的ないい加減な力も使えたらね……そしたらキララが最強になっちゃうか。


 私の力が流れてるからか、キララの身体が光りだす。それはもう神々しい程に。実際集落の人達はその光景に見惚れてる。とりあえずあれだね。力しか流せなくて、キララにも別段魔法の知識があるわけじゃない。だからここは荒療治で行くしか無い。


(とりあえず周囲の色の違うマナを全部この身体に押し込んじゃえ!)
(そんなんでほんとに良いの?)


 良いかは知らん。ここで何も起きなかったら期待はずれじゃん。そんなの私のプライドが許さないから。とにかく何かおきればいい。そんな私の適当な指示でキララはやったようだ。まばゆい光が長老の身体を包み込み……そして光が消えた時、彼の手はとてもみずみずしかった。そしてピクッとその手が動く。次の瞬間――


「ぷはーーー! 死ぬかと思ったわい!!」
「「ぬあああああああ!!」」
「「きゃああしあああああ!!」」 


 死者の復活に阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。けど注目はそこじゃない、そんな言葉をはいて起き上がった長老の顔は精悍で逞しい……二十代位の若者の顔へとなってた。そして集落の人々が建物の影や箱の裏とか様々な場所に逃げた中、一人残ってたハゲが呟いた。


「奇跡だ……」


 ハゲはその場に跪いてキララを拝みだす。するとそれを見て他の人達も再び集まりだした。そして平伏しだす集落の人々。頭を擦り付けるようにして地面と同化し、手を合わせて祈りだす。付いていけてないのは復活した長老ただ一人。そしてこの日から、奇跡の少女としてキララは名を馳せて行くのであった。全ては私の力なんだけどね! 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品