美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#69

 私の名前は『小清水 亜子』どこにでも居る普通の女子高校生だ。いや、だった……という方が正確かもしれない。入学したばかりの学校でもそこまで目立たつ事なく、かと言ってボッチとかそういう訳でもない。ただ無難に普通のポジションについてしまう、それが私、小清水亜子という女なんだ。でもそれが一番無難で、楽しいかなって……そこそこ満足してます。


 私、そんな欲とかないしね。友達とかは恋とかに早速うつつ抜かしてるけどね。あの先輩がどうとか、あのクラスにかっこいい子が居るとか。正直、そこら辺はよくわからない。恋に憧れてないわけじゃないよ。恋愛小説とか大好きだしね。けどそれはどこか遠くの物語って感じ。自分にはそんな事無いって何処かで思ってる。それにイマイチときめかないって言うか……皆がキャーキャー言うのを理解できない。


 けどそこは空気読むことに定評がある私。ちゃんと皆と同じように恋バナを咲かせる事は出来る。だからこそ普通のポジションにつける。女は陰湿だからね。距離感とか、ポジションを男子以上に気にしてる。そこを上手くやらないと、普通なんて位置にはつけないのだ。


 でもそんな普通がある日突然くずれさった。それが何かというと……


(凄い! やっぱりタンク多い! 確かにこれだけの量なら交通整理は大事ですね)


 通学してる私の頭の中でそんな声が響く。これが私が普通ではなくなった理由。別に私がおかしくなったわけではない。多分ね。いや、もしかしたら本当に私自身がおかしくなったという可能性は否定できない。自分自身に甘く生きてきたつもりだったけど、案外ストレスを溜めてたのかも知れない。けど私でそれなら、働いてる人達とかどうなるのかと……もしかして皆こんな声が聞こえてる? 
 それはちょっとやだな。


(イヤって何よ。私だってこんな事に成るなんて思ってなかったわよ)


 そういう頭の中の声。


(ミリア、あんまり話しかけないでくれる? 本当に頭おかしい奴だと思われるから)


 私は頭の中でそう彼女に告げる。まあ無駄なんだけど……けど頭の中で会話してると、ふと口に出たりするんだよね。それをほかの人に聞かれたりしたら、もうその日は悶えるくらいに辛い。私は文学少女的な知的なイメージが一応あると思う。けど、今の状況を知られると、一転して不思議ちゃんだよ。あれはだめ。男子には少なからず人気出そうだけど、それ以上に女子から叩かれる。
 デメリットの方が大きすぎるよ。そんな事を思いつつも、なんとかこの状況も自分の中で整理して日々を過ごしてた。けど時々、ミリアは暴走する。特に、困ってる人とか見ると、勝手に人の身体を使う。


 止めさせようとしても、基本向こうが正論だから、どうにも出来ない。それにまあ、感謝されたり褒められたりするのは悪い気分じゃない。そんな調子に乗ってたら、再びメリッサは暴走して絡まれてる女の子を悪漢から救出。その報復を私に向けるバカな奴等。けどメリッサは超強いから、まあ何とかなった。けど、私に関する変な噂は尾ひれがついたりして段々と収集付かなくなる始末。


 けど大丈夫、私は学校では変わらない日常を送ってる。多少変な視線は感じるし、最近は下駄箱にラブレターならぬ果たし状とか女の子と縁のない物が入ってたりするけど、私の日常はまだ何とか保たれてた。実はその手の組織が狙ってくるとか、メリッサのせいで裏の世界を垣間見てそこで世界を守るバトルをしなくちゃいけないなんて事も無かった。


 多少慌ただしくなったけど、世界は大きく変わりはしない。


(それならまあ……なんとかなるか)


 そんな風に思ってたときだった。それはなんの変哲も無い……とは言い難い、学生にとっては苦行であるテストの時だった。静かな教室に、ペンが走る音と時計の針が時を刻む音だけが響く空間。時折外からトラックの後方注意の機会的声や、サイレンの響く音なんかがきこえるが、基本は書き連ねる音だけが響くその空間で、私の後方の男子が呟いた。


「なんかお前光ってね?」


 普通は色々と飲み込むだろう。彼だってきっとテストの時に好き好んでそんな事をいった訳はない。ようはそれを私に伝えるべきと彼は思ったんだ。それだけ異常だと、彼が真っ先に気付いた。認識したら後はもうパニックだった。私だけじゃない。クラス中引いては学校中がパニックに陥る程の光が発生してた。それに聞いたこともない様な音も響いてて、私の身体は砂の様になっていってた。


「ああ……これが世界の法則か……」


 なんとなくそれっぽい事を言ってみた。いやだって一周回って冷静に成れたというか。寧ろ周りが慌てふためいてて、こっちがそう出来ない感じ。それに、驚く様なこと……一杯あったもんここ最近。だからこれは世界に異物を持ち込んだわたしに対する世界の意思なのではないかと……ちょっと知的に考察してみたり。


「アホな事言ってないで覚悟決めてよ」
「なんの?」
「私の世界に行く準備?」
「何故に?」
「わかんないけど、この感じ、私がこっちに流れた時によく似てる。だから帰れるんだと思う」
「一人で帰れ」
「私だけじゃ、肉体がない。だから帰れない。けど、亜子となら帰れる。そういうことだよ」


 こいつを本気で引き剥がしたいと心の底から思った。だって完全にとばっちりじゃん!


「大丈夫大丈夫、行けたなら帰れるって」
「あんた帰る術はないとか言ってなかった?」
「記憶にございません」


 この野郎……絶対たまたまじゃんこれ。奇跡が起きたみたいなものでしょ! 


「お願い! 一瞬だけ、ちょっとでいいから!」
「一気に胡散臭くなったわ!」


 どこのナンパ野郎だ。そしてそんなやり取りやってると私の身体……いや、存在は完全に粒子となって世界を超えた。


 
 目が覚めるとベッドの上だった。保健室? とか思ったけど完全に違う。見たことない物がいっぱいだし、そもそも造りが全く違う。


「ちょっとミリア……ミリア?」


 呼びかけて見ても反応がない。寝てるのだろうか? 肝心な時に役に立たないやつである。取り敢えず周りを見渡して私は飛び起きた。なぜかって? だって隣のベッドに超絶美少女が寝てたからだ。。


「なにこれ?」


 異世界人だからなのか……ちょっと言い表せないレベルで綺麗で可愛くて美しい少女だ。お人形みたいって綺麗な子を例える時に使うけど、そんなんじゃ収まりきらないよこの子。近づいてその長い桜色の髪の毛を一房持ってみる。するりと落ちた。


(キューティクルの塊か!)


 お肌に触れてみる。


(私のおっぱいよりも気持ちいい)


 もうなんかおかしい……世界がというか私がだ。なんか妙なテンションになってる。


「ふーふー」


 傍から見たら完全に変態だ。けど、この興奮は押さえる事が出来ない。だって彼女は美しい。


(キスしたい)


 ふとそう思った時には身体がかってに動いてた。彼女の唇と触れあえば、きっととてつもない幸福を感じれる。その確信が何故かあった。けどそんな熱は一瞬で冷めることになる。
 目があってた。彼女の宝石の如く輝く桜色の瞳が私を真っ直ぐ射抜いてる。一気に覚めた熱は同時に、背中に大量の汗を流させた。


(終わった)


 その思いが脳を支配する。けど、彼女は私が想像してた反応とは全く違う事をいった。


「いいわよ、しましょう」


 安堵なんてできなかった。寧ろ混乱した。私が先にしようとしてたのに、されるとなると何故か拒否した。けどそれでも彼女は私の唇を狙ってくる。一体どういう子なのか全く持ってわからない。そんな彼女の唇はとても柔らかく、そして唾液はとろける様な密の味がした。余りの幸福で私の頭はショートしてここまでの記憶しかない。


 けど事ある毎に思い出す事になる。彼女の……ラーゼの密の味を。

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