美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#66

「さて、これの技術者の方はおられますか?」


 近づく私に見惚れてる人々に私はそう告げます。やっぱり人種の方々は同じ種だからか、私の美がダイレクトに伝わる様。あのパイロットたちとかがまともだったのは、何度か邂逅したからと、私を警戒してたからかな? 


「人種のお嬢さん?」
「はい、そうですよ。同じですね」


 なんとか正気に戻った一人がそういったから、私は笑顔を絶やさずに答えます。スムーズに行きたいからね。


「君が『カタヤ』の言ってた少女か……映像では測れん……本当に信じられん美しさ。それに獣人を従えてる」


 最初に声を出した奴は齢いに届きそうな見た目なのに、私を見る目は子供の様に輝いてる。決して、私の美に落ちたって感じではない。だって他の奴等の目は虚ろな感じだもん。女性たちは何やら絶望に染まってる気もするが、それは私のせいじゃない。私の美が彼女達には受け止めきれないだけ。神様を恨んでね。


「お嬢さんがプロト・ゼロを破壊した力! ぜひ見せてはくれぬか!」
「わわ」


 手足しばれてる癖にいきなりこっちに来ようとしたその人は囲んでた獣僧兵団の兵士に背中から押さえつけられた。なにこの人……見た目に反して元気すぎでしょ。頭もハゲ散らかしてるし、手足だって異常に細く見える。頬とかもコケてて黒ずんでる様に見えるし、絶対にベッドに居る見た目……なのに目だけは子供。マジ、なんかイッちゃってるんじゃない? 


「貴様! ラーゼ様に無礼であろう!」


 そう言ってグルダフの奴が私とその人の間に入る。けど、これ以上あの人はどうしようもないでしょ。だって獣僧兵団は屈強だ。人の……しかもあんな病人みたいな見た目の人があの拘束を抜けられるなんて思えない。だから私は落ち着いてもう一度問う。


「質問してるのは私です。アレの……アンティカの事に詳しい人は居ますか? 隠してもいいですけど、その場合は――」
「儂じゃ! 儂こそがアンティカの生みの親にして大天才の『デンシン・ネジマキ』じゃ!」


 むむ……私がいい笑顔で脅そうかと思ってたら、白状しちゃったよ。てかそんなポンポンと言っていいの? そもそもまさか開発者が居るとは予想外。だって普通こんな所まで来ないでしょ。けど、この人は明らかに普通では無いっぽいし、あり得るか。まあ白衣纏ってる時点でもしかして……とは思ってた。他にも三人ほど居るからその中のどれかか……それか作業着のような物を来てる人達でも良かったけど、開発者が居るなら都合が良いね。


「そっかそっか貴方が開発者ですか。それなら誰よりもアンティカについて詳しいですよね?」
「愚問じゃな。儂以上にアンティカについて語れる物が居てたまるか!」
「貴様、ラーゼ様になんという口を!」


 いちいち反応しなくていいのにグルダフは超怖い目をその人……ええとネジマキ博士? に向けてる。別に気にしないよ。てか向こうも気にしてない。案外やるなネジマキ博士。グルダフは猫だけど、マッチョで黒いから豹とかにも見えるんだけどね。食われるとか思わないのかね? そこら辺の感情欠落してる? そんな感じはするな。
 研究が全てって感じ。


「ネジマキ博士、アンティカは国の極秘事項ですよ!」


 同じ白衣を纏ってる眼鏡の女性がそんな事を博士に言う。だよね、そうだよね。簡単に口を割ったらいけないことだよね。だけどネジマキ博士は悪びれる様子はない。


「この状況でどうやって隠し通すんじゃ。このお嬢さんは誰かが吐くまで殺し続ける気じゃったぞ」


 そう言ってニヤリとするネジマキ博士。へぇーそこら辺のネジは敏感なんだ。けどメガネの女性はそんな博士の言葉を信じられない様。それはそうだろう。だって私……虫も殺せなさそうな見た目だしね。超絶美少女はか弱いイメージがある。多分。


「ふふ、貴方だけいれば良いんだし、残りはどの道殺しますよ」
「え?」


 私の言葉が理解できなかったのか、眼鏡の女性もその周りの人達も一様にポカンとしてた。けどネジマキ博士だけは真剣に受け取った様。


「儂だけいればよかろう! 他の者は牢に閉じ込めとくなりするだけで……」
「それはそれで労力かかりますし」
「誰か一人でも殺せば、儂は何も喋らんぞ! これならどうじゃ!」


 研究にしか興味がないと思ったら、案外仲間とか同僚の事は大切にしてる人らしい。捕らえられてる他の人達も「博士……」と少し感動してるようだ。けどごめん、私は絆を深めてほしい訳じゃないの。手っ取り早く、アンティカの全てが欲しいだけ。アンティカの事は触れればソレで良いんだけど、けど魔術回路って大体意味不明なんだよね。


 だからネジマキ博士の補足説明はとてもありがたいと思う。こいつは生かす。けど、あとはいらない。これは決定事項だ。


「人質にしろってこと?」
「そうじゃ人質じゃ!」
「残念、人質なら既にアンティカのパイロット達が居るからいらないの。だってこの人達より価値高そうじゃない?」
「なんと……カタヤ達はやはり……」


 絶望に染まる面々。私はネジマキ博士だけを残して、残りの数十人を連れて行かせた。


「さて、聞かせて貰おうかな? 拒否しないよね?」


 私は彼のおデコに人差し指で触れて真っ直ぐにその瞳をみる。そうしてると、どこからともなく聞こえる連れてかれた彼等の悲鳴と惨劇の音。そんな中、ふとネジマキ博士の視線が私の視線を追って扉の方を見る。何とか逃げ出したのか、さっきの眼鏡の女性の必死に駆ける姿が映った。だけど彼女はその直後、炎に包まれた。そして断末魔の悲鳴ともに転げ回り、最後にこちらに手を伸ばしたまま黒焦げになって動かなくなる。


「ぁあぁぁあ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ネジマキ博士の絶望の声が空挺の外にまで響いた事だろう。

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