美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#52

「またお会いしましたね」


 あんぐり……まさにあんぐりだよ。開いた口が塞がらないとはこの事。そう思ってると隣から扇子が私の口を防いだ。どうやら蛇が差し出してきたようだ。ありがたく受け取っておこう。このイケメンにアホ面を見せるわけにはいかない。扇子で隠した口から空気を吸い込み、なんとか言葉をひねり出す。


「なんで……あんたが?」
「なんで? おかしいことを言いますね。私は今日の主役ですが?」
「は?」


 私は蛇をみる。すると蛇が綺麗に頭を下げた。


「これはこれは『シンデドゥル子息』いえもう成人された訳ですし、『ラジエル』殿とお呼びすべきですかね?」
「そんな、国の英雄アンサンブルバルン様にその様に呼ばれるなどとは……これからは私もこの国の為に父と共に協力していく所存です」
「期待してますよ」


 なにやら国の為にとか言ってるけど、ここにこの国を潰そうとしてるやつがいますよ。ここはシンデドゥル家というわけでその子息がこいつ。イケメンで金持ちで性格もいいとか敵でしか無いね。視線が私に向いてる。そしてそれを察した蛇が私を紹介する。


「この子はラーゼ。私の……私の宝石です」


 どういう紹介の仕方だそれ。宝石って私は物か。けどどうやらイケメンことラジエルは納得したようだ。


「なるほど。確かに彼女は唯一無二の美しさだ。貴女の様な女性に来ていただけて光栄です」


 そういって華麗な所作で礼をするラジエル。主賓に礼をされた以上、こっちも礼をしない訳にはいかない。しかもここには他の奴等の目もある。それも貴族の目が。獣人の国で人種である私を囲ってるってだけでそれなりに立場的にヤバそうなのに、教育も出来てないとかなると印象が悪くなる。成るべくなら印象良く近寄りたいじゃん。
 私の美の前では些細なことかもしれないけど、楽をしたいから少しは頑張ってあげるよ。


「いえいえ、勿体無いお言葉。ラジエル様も成人おめでとうございます」


 淑女の礼を完璧にこなす私。自分の中では完璧な筈。てかそんなムズがしい事でもないし。ちょっとバランス取りづらいだけ。


「あっ」


 そう思ってるとバランス崩れた。するとトンっと優しくラジエルが自身の胸で私を受け止めた。流石イケメン……腕は使わない主義か。こうやって女をおとしてるのね。けどごめんあそばせ、私はそんな軽い女じゃない。取り敢えず折角ヒール穿いてるし、ラジエルの足も踏んどいた。


「いっ!」
「ラジエル様、ごめんあそばせ。ほほほ」
「い、いえ……なに貴女の美しいドレスと御身が無事ならそれが一番ですよ」


 ちっ――どう有っても笑顔を崩さない奴だ。結構高いヒールだしかなり痛かったと思うんだけど。更にグリグリしたかったけど、それは不自然過ぎたから足をどける。一体どう育てはこんな奴が出来上がるのか……もしかして家系的に善人なのか? そんな事を思ってると、なんか顔のかなりの部分を毛で覆ってる大きなおっさんがやってきた。


「ラジエルなにをやってる?」
「父上。いえ、ご来賓の皆様に挨拶を済ませてた所です」


 父上? ちょっ……全然似てないよ? 母親似なのか? そう思ってると、シンデドゥル家の当主であろうそいつは私を見て、そしてアンサンブルバルンに視線を向ける。


「人種などを連れ込みおって、しかも我が邸宅に連れてくるとは無礼と思わんのかアンサンブルバルン殿?」
「いえいえ、その娘がどうしてもと言いましてね」


 何言い出すのこの蛇。私は公式では生体兵器なんだよ。自由がある身分じゃない訳。だから私に責任を押し付けるな。そもそも私を見せつけたかっのはそっちもじゃん。


「嘆かわしいな。貴様がこんな……むす……娘に……踊らされるなど」


 ん? あれれ〰? この人もしかして私の事意識してる? 硬派な見た目だけど、私みたいな子供にときめいちゃってる? でもそれは罪じゃないよ。しょうがないんだ。だって私が美少女過ぎるから。そもそもこのイケメンにはあまり私の美が効いてないのか不自然。本当は興奮してるけど、それを見せないようにしてるだけなのかな? 
 そういう男女の駆け引きみたいなのはあんまり経験無いんで不利だ。だってラジエルは絶対にそこら辺経験豊富だろうし。まあでもいいよ。ラジエルは敵だからね。私に夢中になられても困る。私からうさぎっ子を取ろうとしたことを後悔させてやらなくちゃ。それにこのシンデドゥル家を落とす事は難しくなさそうだしね。私は私を直視出来てないシンデドゥル家当主殿に笑顔を向けて挨拶することにした。
 蛇に上手く誘導して貰ってね。


「そうですか? 私は今の自分を案外気に入ってるんですがね。もっと、よくお見になってはどうですか?」


 蛇のその言葉に促されて私は当主に近づく。そして見上げるその人に向かって笑顔を作って礼をした。


「小娘のラーゼでございます」


 プライドなのかなんなのか知らないけど、真っ直ぐに私を見てきたから、そのまま真っ直ぐに見返す。そしてふと表情を和らげると、当主の顔がボッとなりそうな勢いで赤くなった。好機! と思った私は更に追撃する。


「大丈夫ですか? とてもお顔が赤くなってます」


 ごく自然に当主の頬に触れる。本当は額とかが良かったんだけど、私の背では頬が精一杯だった。でも効果は抜群だったようで、当主は私が触れた瞬間に飛び退いた。


「どうしましたか父上? 具合が悪いようでしたなら奥で休まれては? 私一人でもつつがなく皆様をおもてなししてみせましょう」
「そ……そうだな。お前も父と居るばかりでは駄目だろうし、任せよう」
「はい!」


 もっともらしい事を何とか言えた当主の人は軽い挨拶を蛇にして奥へ消えていく。けどその間、何度も私を見てたのに気付いてた。まずは当主を落として、この家『シンデドゥル』とやらを没落でもさせてみましょうか? そしてイケメンがそれでもイケメンなら、うさぎっ子の事を任せてもよし! その飾り立てられた仮面、私がなんとしても剥いでやる!


 そんな野望を打ち立てつつ、蛇の仲介でそれなりの地位の人達に唾をつけて回ったパーティーはお世辞にも楽しいなんて言えなかったけど、それでも有意義ではあった。さて、これから私も食っちゃ寝してるばかりでは居られなくなりそうだ。楽しい楽しいジェンガを始めよう。一体どこまで抜いたらこの国は崩れるのかな?

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