美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#42

lあ、ヤッホー」


 そんなマヌケな掛け声と共にやってきたの眩しいくらいに輝いてる女だ。赤よりも薄い髪は私と全然違ってサラサラでつやつや。肌には傷ひとつない。しかもなんかいつもいつもお洒落なかっこうしてる。今日は三角帽子に魔道士みたいな格好してる。けど地味な魔道士と違うのは彼女の服はとてもカラフルなことだ。スカートも野暮ったくなく膝よりも上で切れてる。全てがまとまりがあり散らかってはない。
 わざわざその綺麗な脚をこれでもかってくらい見せつけて、更に高そうなブーツまで履いてる。私達は靴なんて与えられないのに……


「ねえねえどう今日のコーデ? 超自信あるんだけど? まあ私は何着ても似合うけどね」
「それもアンサンブルバルン様に買ってもらっての?」
「んーまあアイツの金だから買って貰ったって言えばそうだね」


 なにも思わない感じでそういう彼女。その能天気な顔が憎らしい……ん? あれ? 憎らしいなんてそんな事思うなんて……私はこいつが来てからおかしい。いや、私だけじゃないかも。まわりには同じように白い服を一枚だけ羽織った子供がたくさんいる。そいつら全員が憎しみの目を彼女にむけてる。こんな事はいままで無かった。
 ここに居るのは誰もが無で、会話もなく、ただその時が来るのを待つだけ。それが私達の日常。一人……また一人と連れて行かれて戻ってくることはない。そのはずだったのに……少し前にこいつが来た。なにか最初からやたらうるさくて、皆こいつが自分達と同じ生体兵器だとは思わなかった。しかもだ……こいつは獣人の中でもかなり偉いアンサンブルバルン様の生体兵器ということだった。
 誰かの所有物……それだけでもなにかムッとしたものがあった。だってここに居る私達は誰も何も持ってない。持たされてない。それなのにこいつは最初からもってた。服もそうだし、誰かとの繋がりなんてものも……やっぱりこの容姿なのだろうか? そう思えばいくらか諦めもつく。なぜなら、こんな綺麗で美しい存在を私は知らないからだ。
 そもそも世間と言うものを知らない私たちにこいつの美しさを評価なんて全く出来ない。けど、こいつ以上の美しさが世界に溢れてる……なんて事はないと思う。同じ女なのに、どうしてこうも違うのだろうか……最近はいつもそれを考えてしまう。自分のやせ細って潤いもなくなった肌とは全然違う。自分のカサカサの唇とは全然違う。自分の薄汚れた目とは全然違う……どうしたら、これに成れる。


(成れる訳がない)


 その結論が毎回毎回私に突き刺さって苦しくなる。


「ねえねえどうどう? 感想ほしいんだけど?」


 このバカっぽい顔がアンサンブルバルン様はいいのか? コロコロ変わる表情……一体どれだけ顔の筋肉を動かせばそんなに表情豊かに成れるのか分からない。だって私達は笑うことすらしたこと無いんだから。そんなこっちの気持ちなんてお構いなしにズカズカとくるこの強引さもこの女の特徴だ。多分私達が億劫だと感じてるのわかってるのにこの女は来る。
 そんな空気なんて気にしない。世界は自分を中心に回ってるとか思ってそうだ。


「アンサンブルバルン様に聞けばいい」
「あいつ褒めることしかしないもん。それにやっぱり獣人の感性はちょっと違うし」
「私はそんなのわからない。みればわかるでしょ」


 そう口を突いてでた言葉に自分自身で惨めになった。この目の前の女との違い……私達はただ死ぬだけの存在。それだけの利用価値しかない命……そう言い聞かせて何もかもを諦めてその時だけを待ってたのに……目の前でなんなのこいつ。無駄にキラキラしやがって。


「ちょ!? どうしたの? なんで泣くの?」
「え?」


 涙? それを自分が流したことが信じられない。周りの同じだった皆も私をみて目を丸くしてる。なんだか無性に恥ずかしくなって止めようと試みるも、どうしたら止まるのかすらわからない。だって初めてなんだもん。すると……いきなりバカが抱きついてきた。


「なに……するのよ」
「ん? いやーどうしたらいいのかわかんないし。けど、悪くないかなって?」


 能天気な声。けど伝わる体温が温かい。知らなかった。誰かの身体がこんなに温かいなんて。良い匂い……私なんかとは違う匂い……涙は止まらないけど、その時気付いた。私のせいでアンサンブルバルン様に買ってもらった服が汚れてる。


「たい……へん」
「なにが?」
「服……よごれ……」
「だーめ。離さない!」
「なんで!」
「だってあったかいし。やっぱり女の子の抱き心地は最高だよ。蛇なんてクソ食らえだ」
「ふふ……なにそれ」


 まただ。また、初めての事が起きた。いま、笑った? もう……なんだかわけわからなくなってきた。涙が更に溢れる。羨ましい。悔しい。憎らしい。けど、なんだかんだ愛らしいこいつが来てからかわった。かわ……れるのかも知れない。いつまでそうしてたか分からない。けど落ち着いた頃に獣僧兵団の奴が来て、彼女を連れて行く。


「またねー」


 なんて言うのはアイツくらい。いつもはただそれだけ。けど、今回は違った。私は小さく手を振った。ただそれだけ。けどそれがとても恥ずかしかった。それに気付いたアイツは微笑んだ。それがまた恥ずかしかった。今まで見たこと無い程にきらめいて見えたから。なんだか心臓がバクバクしてる。今まで心臓なんて本当は無いんじゃないかとさえ思ってたけど、ちゃんと有ったようだ。


(また……くるよね?)


 あり得ない……それを覆してきたのはアイツ自身だ。きっとまた能天気な顔して、自身の服を見せびらかしに来るに違いない。その時なんと言ってやろう。そんな事を今の私は考えてる。

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