美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#28

 広い部屋に長いテーブル。西洋風の大きな窓から差し込む柔らかな日差し。テーブルに付くのは私一人。そしてさっとうさぎっ子が私の襟元にナプキンをつけてくれる。準備が整うと奥の方の扉から黒服執事の羊が料理の乗った皿を持ってくる。何故か執事には羊型が多い。なぜかね。一流のシェフの一流の料理が朝から食べれる贅沢。よくよく考えたら私ってまともな食事って取ってなかったんだよね。
 スズリとかは料理と呼べる程の物食べさせてくれなかったもんね。木の実とか肉を焼くくらい。調味料とかも別に使ってなかったから、まさに野生って感じだった。けどこれを見てよ。ラスクみたいに綺麗に焼かれたパンの上に瑞々しい野菜やハムが乗ってる。そして添えられたスープとサラダ。人権を取り戻した感じがする。口に運び真っ白な歯で噛むとサクッと言う感触のいい音共に瑞々しい野菜と香ばしいパンとハムのハーモニーに舌鼓を打つ。


「うん、美味しい」


 まあ大体何食べても美味しく感じるんだけどね。けどこの上品さがたまらない。自分にとてもあってるよね。こうやってるとどこからどう見てもプリンセス。ドレスにしとけば完璧だったかも。流石にお姫様はこんな服装しないだろうしね。そもそもこれどれも特注品だし。要望を出して作らせたのだ。今の私はなんでも出来る。なにせ恐れられてるからね。私に逆らう奴はいないのだ。
 この街のお金は全て私の物とおもって差し支えない。この食事だって無駄に豪華だからね。多分街の人達は麦とか馬鈴薯しか食ってないと思う。なんか財政厳しいとか言ってたもん。二年前のあの日から、この街の立場は地に落ちたとの事。前はこの国でも大都市だったんだけど、あの日の爆発が原因で経済と産業を維持できなくなったとか。
 私が重要施設の傍で自滅して全部破壊したからね。メンゴメンゴ。それでも何とかドオクアのお陰で持ち堪えて、回復してきたらしいんだけど、それでも中の中位の位置でしかないとか。ようやく軌道に乗って来た所で私の復活。再びこの街は絶望という色に染まってる。絶妙なバランスで保ってた経済と金のバランスはドオクアが居なくなったことで傾いてるようだ。


(まあ、私には関係ないんだけど)


 だって私はそういうのわかんないし、ただやりたいことをやるだけ。偉いやつはドオクアの他にも居るんだし、その人達がどうにかすればいいと思うの。私は気の向くままにお金を使うことが許されてる。なので遠慮はしない。こんな事そうそうないしね。


「ごちそうさまでした」
「ラーゼ様どうでしたか?」
「うん、美味しかったわよ」
「……それはよろしゅうございました」


 うさぎっ子は空になった皿を執事の羊にわたす。なにかポツポツいってるようだけど聞こえない。夜食の相談かな? ディナーがメインだからね。高級食材をふんだんに使ったコース料理が毎回出てくる。きっと私が一日で食べる料理でこの街の住人のかなりの数の食費を消費してるよ。一ヶ月分くらいは使ってるかもね。でもやめようとは思わない。
 だって美味しいんだもん。


 私の口を襟元に付けてたナプキンで拭いてくれるうさぎっ子。さて朝食も終わった事だし、朝の散歩に出かける。私の屋敷は広いのだ。庭に出ると開放感が違う。綺麗な庭は手入れが行き届いてて、凄く綺麗。最近改修してるんだけどね。洋風もいいんだけど、和風のエリアも作ろうと思って、無理難題を街中の庭師に予算無視して発注した。
 この街のお偉いさん達は私が笑顔で「いいよね?」と聞いたら「どうぞどうぞ」といったから大丈夫。そのエリアに行くと簡易テントと共に庭師の皆さんが朝から作業してる。私は別に強要なんてしてない。ただ「出来るだけ早くお願い」といったら二十四時間不眠不休で頑張ってくれてるだけ。けどそろそろ誰か倒れそうだね。


「ご苦労様。大丈夫? 休めば?」
「あわわ……お、お許しを! 一刻も早く完成させますので!!」


 何を思ったのかモグラっぽい庭師は頭を地面に擦り付けて嘆願する。そこまで言われたら仕方ないよね。きっと職人のプライドかなにかがあるんだろう。


「そ、じゃあ期待してるよ。楽しみだなー」


 そんな事をふと呟くと、周りの庭師達も汗をダラダラと垂らして震えてた。本当に大丈夫かね? けどどうせ大丈夫しか言わないから私は信じる事にするよ。大丈夫じゃなかったらどうしようか? さらなる仕事でも命じよう。そうしよう。


「ん?」


 再び庭をぶらぶらしてると、門の前に馬車が止まってるのがみえた。車があるのに馬車……しかもちゃんと馬が引いてるからね。ちゃんと馬はいたらしい。何故に馬なんか使うのかと言うと、この世界の車はデカくて煩くて重機っぽいのしかないようだ。乗り心地最悪だから移動に使う者は居ないらしい。そんな馬車から出てきたのは毛並みの良い虎みたいな奴。


「お迎えですね」
「ええ、今日も沢山エスコートしてもらいましょう」


 あの虎はこの街の権力者の息子なのだ。多分私を懐柔するように言われて毎日私を誘いに来てる。けどそれならせめて人寄りをよこすべきだけどね。あの虎まんま虎だし。いや、獣人にはとてもイケメンでキャーキャー言われてるようなんだけどね。確かにかっこよくはある。虎だし。けど懐柔とかはないね。寧ろ向こうが私にポーとしてる事の方が日に日に多くなってる。
 私はこの虎の誘いを断らない。何故なら、どこまで私の美が通じるか検証してるからだ。楽しい玩具まで与えてくれて、ごちそうさまです。この街を……この種を……引いてはこの国を……私はしゃぶり尽くす気で満々だ。


(やれるだけ、我儘通す。これは決定事項だからね)


 私は近づいてくる虎に淑女の礼をして出迎える。

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