美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#23

「ドオクア殿、助けましょうか? その白狼を八つ裂きにすれば良いんでしょ?」
「いや、もういい――」


 ドオクアが言葉を紡いでるにもかかわらずにその猫耳娘は動く。正確には動いたと思われる。だって見えなかったんだもん。猫耳娘はドオクアだけを残し私達を壁に叩きつけた。そして更に強烈な一撃を放ち、壁をぶちやぶる。私達は広い展望室みたいな所に転がった。


「うふふ、あはははーこれで形勢逆転だねー」


 軽い感じてそう笑ってる猫耳娘。なにあれ? 戦闘狂なの? 問答無用にも程があるよ。仮にも組織のトップならもっと慎重に行動してほしい。ほんとにアレで軍団長なんて立場が務まるのかはなはな疑問だよ。


「やってくれるな猫風情が!!」
「狼風情が粋がるなよ」


 そう言って片手を差し出してクイクイとする猫耳娘。ありふれた挑発行動だが、ベルグは迷わすに突っ込む。けど次の瞬間、ベルグの突進の勢いは回転に変わりその場で回り、そこに床を蹴った猫耳娘のケリが炸裂してベキボキという嫌な音が聞こえた。


「ベルグ!!」


 ベルグのピンチにスズリも動く。一気に槍の間合いに入り、突きを繰り出す。けど猫耳娘は余裕でかわしてる。そう思ってると背後に私を乗せてきた白狼が回る。なるほど挟み撃ちにする気のようだ。それなら……どうにか成るかも。でもそれも甘かった。猫耳娘は槍を受け止めてそのまま片手でスズリを後ろの白狼の方へと投げた。ぶつかり合う二人と一匹。そして更にそこへ回転を加えた蹴りをぶち込む猫耳娘。とてつもない音を出して壁にふっとばされるスズリと白狼。


「そんな物なの?」


 暗い部屋で猫耳娘の目が爛々と光ってる。不味いよ……こいつ強すぎる。性格はともかく、どうやら実力は軍団長を任されるのも納得のものだ。ベルグもスズリも白狼も手も足もでてないんですけど……なにあの一騎当千。反則でしょ。


「さて次は――」


 私は咄嗟にゴールデンレトリバーの後ろに隠れる。いやいやあんなの無理でしょ。私はただの美少女ですよ――で通せるか? 今こそ通りすがりの美少女になりたい。


「舐めるな猫!!」
「――あはは! うんいいよ。もっとやりあおう!!」


 どうやらベルグはまだやれるようだ。ベルグから青い闘気の様な物が出てるのがみえる。本気モードってやつね。するとスズリも血を吐きながらも立ち上がる。しかもスズリからも青い闘気が出てる。そして二対一で再び戦いが始まった。


「凄まじい……」


 私が背に隠れてるゴールデンレトリバーがその戦いを見てそう呟いた。いや、もう凄まじいとかじゃないでしょ。兵器かあいつら。


「なんなのあれ?」
「軍団長殿は史上最年少でその座まで上り詰めた天才。あの方が出てこられた限り、貴様らの勝利はない」


 ゴールデンレトリバーの奴の言葉は確信めいた強さを感じる。チラッと通路の先のドオクアを見ると、もう止める気も無いようだ。それはそうだよね。形勢は完全に逆転された。あの猫耳娘がベルグ達を倒せば、全て丸く収まる。アイツの存在知ってたらこんな特攻しなかったんだけど……スズリとかは知らなかったんだろうか? いや、もうそんなのはどうだっていい。問題はここをどうやって切り抜けるか。
 ベルグが倒されると白狼たちも瓦解するのは群れの宿命。ベルグとスズリで奴を倒せる目はある? 


(げっ……)


 そっとそっと後ろに下がってガラスなのか知らないもので見晴らしいい所から下を覗くと、この建物に沢山の兵士が駆け込んできてた。不味いよ。もしもベルグ達が勝てたとしてきっとその時は二人共満身創痍……とてもここから逃げれるとは思わない。もう一回ドオクアを人質に……って駄目だ、スズリもベルグも白狼も使えない状態じゃ無理。
 私戦えないし……これは……詰んでね? 人種は問答無用で奴隷にするような国だし……捕まるのは不味い。逃げるか。うん、それがいい。出来るかはわからないけど、私の力なら何とかなるはず。


(丁度良く私は忘れられてる……もう一つの扉があるしあそこからでよう……)


 こそこそ――と動き出そうとした時、私の鼻先を何かが通り過ぎた。ガラスか何かにぶつかったのはベルグだった。ボロボロのベルグ。それよりも私は頑丈なガラスだなと思った。


「戦えないのなら大人しくしてな」


 どうやら私の事はちゃんと敵として認識されてるようだ。猫耳娘は私を見て脅してくる。けどそんな程度でくじける私ではない。私は諦めが悪いのよ。必ずここから逃げてみせる! 


(ごめんねベルグ、スズリ!)


 そんな決意をしてるといきなり背中にものすごい存在感を感じた。猫耳娘やベルグ達は相変わらず戦闘してる。ってことは私しかこれに気づいてない? 嫌な予感しかしない。私は振り返ってみた。


(居たああああああああ!?)


 空中には黒い狼が存在してた。逃げることは許さないと? やっぱり心配してるじゃん。このツンデレめ!! けどあれは猫耳娘よりももっとヤバイ。逃げる事は許されない。てかあれからは絶対に逃げれない。どうしろっていうのよ。私はあんな超クラスの戦闘に混ざる技術なんて皆無なんですけど……私は固くて大出力。それだけだ。


「はあ……」


 それなら出来る事は一つしか無い。私はチラッと黒い狼を見て心で言う。


(やってやるわよ。見てなさい。その代わり、私の命も助けてよ)


 まだ死ぬ気はない。けど、私の考えてる事を実行すると自分ではもう何もできない。だからその後はあの黒い狼に全投げだ。そのくらいはしてもらう。だってベルグ達を助けて上げるんだからね!
 私は背筋を伸ばして立ち上がる。そして背中のバックからカラスの羽を取り出す。マタタビはないからこれでいっか。


「猫耳娘! これを見なさい!!」


 大きな声を出してそういった。そしてカラスの羽をフルフル振るう。すると耳がピクンと動いた。おっいけるか? 


「ほーれほれほれ」
「や……やめろ!! それをやめろーーーー!!」


 猫耳娘がこっちに全速力で突っ込んできた。顔面に容赦なく放たれる一撃……だけど踏ん張ってそれに耐える。てかパンチよりもその威力に飛ばされるのを防ぐ方が大変。カラスの羽は床に落ちる。猫耳娘は驚愕してる。


「ははっ、硬いな娘」
「そうかしら? 猫パンチってこの程度?」


 私の言葉に眉を引くつかせた猫耳娘が回転を加えた蹴りを入れてくる。けどそれも耐える。


「なっ!?」
「猫パンチの次は猫キック? 優しいんだね。そんな軟弱攻撃しかしないなんて……ぷぷ」
「な・ん・じゃ・く……」


 その時、猫耳娘の雰囲気が変わった。そして一回離れて何処かからか青く格好良い槍を取り出した。いや、マジでどこから出したよ……ベルグ達は私とタイミングでも合わせようとしてるようだけど、既に満身創痍。この後の状況にその体力を使って貰いたいから、私はニコッと笑顔を見せて頭を左右に振るう。


「お前……」
「ラーゼ……」


 初めて名前を呼んでくれたね。どうやら意図が伝わったようだ。さて……後はアレを防げれば……


「この槍を使うことに成るとは思わなかったよ」
「御託はいいからさっさと来なさいよ。それとも怖いのかにゃー?」
「死ねえええええええええええええええええええええええええ!!」


 ブチッと何かが切れる音ともに猫耳娘が突っ込んで来る。青い槍の先端から水が出てそれが猫耳娘を覆って一つの塊となって迫る。激しい衝撃が私の全身に伝わる。流石にこれはその場にとどまる事は不可能。衝撃で服がはじけ飛び、展望室からも押し出されて雨の中に出る。けど……まだ私は生きてる! めっちゃ痛いけどね。私は槍をつかむ猫耳娘の手をしっかりと握る。


「捕……ま……えた!」


 最大の攻撃こそが最大の隙! 動き回られちゃ私の攻撃は絶対に当たらない。けどこれなら……逃げられないよ。私はニヤリと笑う。そしてその身体が太陽の様に光りだす。銃なんてもう使わない。私の武器はいつだってこの身体!! 


「まさか!?」


 猫耳娘は私の狙いに気付いたようだ。けどもう遅い!! 


「見てなさい狼! 私の生き様を! 焼き付けろおおおおおお!!」


 次の瞬間何もかもわからなくなった。力が溢れ出し、光が全てを飲み込む。私の瞳に最後に映ったのは、真っ青な空。長い長い雨がようやく晴れた。

コメント

  • 伊予二名

    主人公が強いのか弱いのかブレててよくわかりません

    1
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