美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#17

「これはどう?」
「んーまあこれで我慢する。私が着ればボロ布だってシルク生地だし」
「どれだけ自分に自信があるのよ君」
「寧ろ私は自信しかないけど。これだけの容姿なのに自信ない方がおかしいでしょ」
「ん〰」


 なにその微妙な顔。私たちはあれからスズリ達の住処の洞穴に来てた。流石に全裸でこの先も行くほどサービス精神旺盛じゃない。あんまり大盤振る舞いしたら価値が下がっちゃうからね。私の完璧な裸体は世界の宝だよ。そうそう拝めると思わないでほしいね。てな訳で、スズリの服を借りてる最中だ。今ままdではワンピースみたいなのばっかりだったけど、下着もなしにスカートって危ないよね。
 てな訳で今回は短パンチックなズボンを履いて、上はボロい布を胸の所に巻いた。それだけ。下着はない。そろそろ文明的な服装をしたい所だけど、まだまだ無理そう。


「こういうのってどうしてるの?」
「戦利品や自分で作ったのもある。私とベルグのコンビは負け知らずだったから……ぐすっ」
「いちいち泣かないでよ」
「泣いてなどいない!」


 ほんと野生児にしては脆いなスズリは。まあ本当にベルグとは一心同体だったと判明したし、それも無理はないのかもしれないけど……けど逆に言えば、スズリがこうして生きてるってことはベルグもまだ生きてるはず。


「とりあえずどうする?」
「ちょっと待て。そんなに髪を振り乱して行く気? 纏めたほうがいいわ」
「ん」
「どういうこと?」


 私は頭につけてたリボンを解いてスズリに差し出したのに察しが悪い。わかるじゃん! 


「結んで」
「そのくらい自分で――」
「私不器用なの。ポニーでお願い」
「なんだそれ?」


 どうやらポニーテールという言葉は無いようだ。それもそうか。だってここ異世界だしね。しょうがないから「後ろで一纏めにして」と伝えた。


「はあ……」


 そんなため息を付いてたけど私のことがちょっとは理解できてきたのかリボンを受け取って背後に回る。そして私の髪を触って驚いてた。どうしたんだろうか?


「もう乾いてないか?」
「ああ、私美少女だから」
「意味がわからん」
「美少女にはなんにでも補正がかかるのよ」


 たぶんね。私はそう思ってる。きっと私の美少女としての身体が髪をサラサラに保とうとしたんだろう。納得。


「ほんと君には驚かされてばかりね。ベルグの牙を耐えたのもだし、母様と喋ってたんでしょう?」


 私の髪を結いながらなんか話しかけてくるスズリ。まあ私も退屈だし良いけどね。


「あの狼と喋ったこと無いの? 母様なんでしょう?」
「寧ろ姿を見たのも初めて。母様は種をずっと見守ってると言われてて所謂伝説みたいなものだったから。その姿を観た時は驚いたわ。けど直ぐに分かった。あの方が母様なんだって」


 それはやっぱりスズリもベルグと魂を分かち合って種の仲間入り果たしてるからだろうか? 多分そうだよね。


「そしてそんな母様に臆すことなく話してた君は私が想像も出来ないほどに凄いんだよね!」
「え?」


 あれ? なんか変な期待されてない? ぐいっと頭を上を向けられて見えたスズリの顔はとてもキラキラとしてた。


「まあ、世界を軽く三回は滅ぼせるくらいかな?」
「凄すぎる!! 私の想像の三倍くらいです!!」


 え、マジ? どんだけ凄い想像してたのこの子? かなり盛ったんだけどな〰三倍か〰五回は滅ぼせるって言った方が良かったか? っていやいや、そうじゃないでしょ。なに調子乗って出来もしないこと言ってるのよ私。ここは早く訂正を!


「これならベルグを助けるなんて楽勝ね! なんたって母様が認めた存在の君が居るんだから!」
「…………当然! 絶世の美女の私に不可能なんてないわ!!」
「よろしくお願いします!!」


 なにこのノリ。実は二人とも風邪発症しちゃってるんじゃない? 熱で妙なテンションになってるとしか思えない。まあ私がお調子者なのはいつもの事のような気もするけど……いや、いつもはこんなにチョロくは無いはず。


「それではこれからどうしましょうか?」


 うん、それ私もさっき言った。ノープランだったんだけどなー。取り敢えずポニーの具合を確かめる様に私は頭を左右に振ってみる。項がスースーする。けどいい感じかも。スズリは私が脱がした奴の代わりをそのまま着てるから格好的には変わらない。聞いてみたら狩装束だからこれらしい。私は銃を腰に射し、スズリは換えの槍を手に取る。
 準備は整った。だけどまだ外は土砂降りだ……ここは取り敢えず。


「雨が止むまで待つか」
「それじゃあ遅すぎるよ!!」


 流石に駄目か。でも土砂降りだよ? 正直外に出たくないよね。保管されてた木の実とかを貪りながら私は考える。


「そもそもこの雨は君が振らせたんだよね?」
「喉乾いてたから」
「そんな理由で!?」


 そんな理由とは失礼な。こっちは必死だったんだ。でもまさかこんなに激しく降り続くとは思わなかった。


「普通魔法で天候を操作しても通り雨が精一杯の筈なのに……やっぱり母様が認めるだけの力がありますね」


 なんか勝手に感心された。ますます私の力を過信しそうである。けど自分でもホラ吹いた手前、いまさら訂正もしづらい。取り敢えずアレだね。状況確認が必要だろう。


「どうやってか、ベルグの状況を確認出来ない? 闇雲になんて突っ込めないわ」
「なるほど。やってみます」


 そう言ってスズリは土砂降りの外へ。私はその間にどうするか考えるしかない。本当は逃げたい所だけど、あの狼は観てるだろう。ゼルラグドーラと同格クラスのアイツが観てる限り投げ出す事は出来ない。私はあんまり出来の良くないと理解してる頭を必死に使う。そう思いながら木の実を貪ってたら一箱分がなくなってた。やっぱり頭を使うって恐ろしい……私はそう思って二箱目に手を伸ばす。

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