ジジイのファンタジイ

生明死暗

第5話 オークを倒すんじゃぁ!



わしたちはあれからバルデン王国を出て、ナハル草原を歩いていた。
受けたクエストは、ユミル森に生息しているオーク十体の討伐。
ミルキィによると、ユミル森はナハル草原を東北にずっと進んだ先にあるらしい。
今はバルド王国を出てから十分が経過したところ――


「ふんふんふーん♪」
「ぬほほぉ……」
フィールド移動中、マーヤが鼻歌を歌いながら、ずっとわしの腕に抱き着いていた。彼女はわしの腕から一向に離れようとしない。
うほっ、マーヤの豊満な胸がムニムニと腕に当たって、年甲斐もなく欲情してしまいそうじゃ……うほぉ、うほうほぉ、このまま興奮していたら、ゴリラになってしまいそうじゃぁ……。うほ!


「マーヤ! そんなジジイになに引っ付いてんのよ!? 今すぐ離れなさい! セクハラされるわよ!」
ミルキィがわしとマーヤの少し後ろから、苛立ちまじりに叫ぶ。
「大丈夫です。おじさまなら、きっと大丈夫です!」
「大丈夫じゃないわよ! 見なさい、そいつの顔! 鼻の下が伸びてるじゃない! そいつはエロジジイよ!」
「だ、誰がエロジジイじゃあ!」
「いえ、大丈夫です! おじさまなら、セクハラしてもオーケーなので!」
「大丈夫じゃないわよ!? ジジイだけじゃなくマーヤも!」
頭を抱え、絶叫するミルキィ。


「え、マーヤ、マジでセクハラしてもいいのか? そ、そんなこと言っちゃうと、わし、ほんとにしちゃうぞ!?」
「は、はい、どうぞ……お、お好きに……」
マーヤは頬をポッと赤らめ、恥ずかしがりながらも、「あなたの思うままにしてください♡」と言わんばかりに、両腕をおずおずと開く。


う、うほぉ、な、なんてけしからん娘じゃぁ。こ、これは、教育が必要じゃなぁ。うっほん!
では、遠慮なくやらせてもらおうとするかの……。
さぁ、レッツエロ行為じゃ!


「うほほ……」
手をわきわきと動かしながら、マーヤの胸を凝視する。
「やぁん、おじさまの目、いやらしいですぅ……」
出るとこは出てしまるところはしまっているナイスボディを、マーヤがくねくねと揺れ動かす。
うほほぉ、もむぞ、さわるぞぉ!


「では、いただき――」
「ファイヤ!」
「――ますぅあ! あっちゃぁぁぁ!」
「お、おじさま!?」


マーヤの胸に触れようとした瞬間、手に火の粉が降り注いだ。
「あちち、あちい、ふぅーふぅー、なんじゃあ!?」
手をふーふー息で冷やしながら、後ろを向く。


すると、魔法の杖をわしに向けたミルキィが、後方からにらんでいた。
そうか、こやつのしわざか!


「き、きしゃまぁ! なにをしゅるんじゃ!? ぷじゃけるなぁぁ!」
くそぉ、痛みでうまく呂律が回らないのじゃ。


「マーヤにセクハラすんな。クソエロジジイ」
「なにがセクハラじゃい! 合意の上じゃ、ボケがぁ!」
「合意でもだめ! 今度、マーヤにエロイことしようとしたら、魔法でぶっ殺すからね!」
「な、なんじゃと、くそぉ……」
せっかく、美少女のピチピチボディに思う存分触れると思ったのに……。


「あー、いてて、だれかさんのせいで、もう剣にぎれないのじゃ、いちち」
「いやみったらしい。おおげさね、ちゃんと手加減したはずよ」
「手加減してこれか、あー。いちち」


まぁ、ミルキィの言うとおり、実際ちょっぴりやけどしたくらいで、そんなに痛くないし、剣を握るのにも支障はない。
しかし、だからといって許せるかというとそんなことはない!


「覚えとけよ、ミルキィ……いずれ、おまえを攻略してやるからな……」
「な、なによ、攻略って。よくわからないけど、気持ち悪いわね……」
ミルキィが体を抱いて、後ずさる。


「おじさま、大丈夫ですか! ほら、手を見せてください。ああ!? 赤くなってるじゃないですか!? 私が冷ましてあげます! ふぅーふぅー」
マーヤがわしの手に息を吹きかけてきた。
「うっほほぉ!」
こりゃあ、もう一生手が洗えんわい……。
「ドラゴンファイヤ!」
「――うおお!? あっぶねー!」


ミルキィが先ほどより明らかにヤバそうな魔法を使ってきた。迫りくる竜の姿をした炎を、マーヤから離れて瞬時に避ける。
先ほどまでわしがいた場所が、黒焦げになっていた。
こ、こいつ、今、ガチでわしを殺そうとしていた!?


「な、なにするんじゃ! ワレェ!」
「あんたがマーヤとエロいことしてたからよ」
「息吹きかけられただけじゃん! しかも、今回はわしからしようとしていない! わしは無実じゃ! ノーエロじゃ、ノーエロ!」
「うるさい、黙れ、ジジイ!」


ミルキィがまたもやドラゴンファイヤを放ってきた。間一髪で避ける。
「ちょ、死ぬ! マジで死ぬ!?」
「ちっ、ジジイのくせに反射神経がいいわね……」
「舌打ちすんな!」
「ふふ、二人とも、仲いいですね、ふふふ」
『仲良くねぇよ!」
不本意にも、ミルキィと息ぴったりにハモった。


こんな感じで、王国を出てから数十分くらいは、順調(?)な移動が続いていたが……
三十分後――


「はぁはぁ、ちょ、ちょっと、待つのじゃぁ……わしを置いてかないでぇ……一人は嫌じゃぁ……」
息をぜぇぜぇと切らしながら、どんどん遠ざかる前方の二人を見る。
わしは疲れがピークに達しており、足腰がもう限界だった。
意外にミルキィもマーヤも体力がある。息一つ乱してない。


「おっそい! もっと早く歩きなさいよ!」
ミルキィが腕を組み、眉根を寄せる。
「無茶言うな、わしを何歳だと思ってる? 六十五だぞ!?」
「知るか! クエストを受けた以上がんばんなさい!」
「くそぉ……なぁ、ちょっとでいいから休憩せんか?」
「はぁ!? あんたねぇ、十分前にしたじゃないの!? 却下よ!」
「えー、そんなぁ」
「おじさま、森はもうすぐですよ! ファイトです!」
「とほほ……」


優しい言葉をかけえてくれるマーヤに少し癒されたが、それで体力が回復するわけではない。
はぁ、キッツいのぉ……。キャバクラ行きたいのぉ……。ドンペリ……あかりちゃん……。


「ねぇ、マーヤ、やっぱりあのジジイ、だめよ、あんなゴミ体力のやつ、入れるわけにはいかないわよ」
「で、でも、戦闘は本当にすごいんですよ」
ミルキィとマーヤが前方で、なにやらこそこそと話している。

あやつらめ、聞こえていないとでも思っているのか?
わしはラノベにありがちな難聴系主人公とは違うぞ?
くそ、なめおって……若いもんに負けてたまるか!


それから老体にムチを打って歩くこと十数分――
「ふ、ふぅ、やっと着いたか……」
ようやくユミル森に到着した。


木や草がうっそうと茂っており、まだ昼過ぎだというのに、その中は薄暗い。
なにか出そうな雰囲気じゃのぉ……わし、ホラー系の映画やゲームは苦手なんじゃが……。
しかし、ここは先行するのが男というもの! がんばるぞい!


「よーし、おまえら、行くぞ! わしについてこい!」
足をがくがくと震わせながら、ぎこちなく歩く。
それを見たミルキィが失笑した。


「ぷっ。なに震えてのよ。まさか、こわいの?」
「な!? 何を言うとる! こここわくないぞよ!」
「こわくないぞよって、ぷぷぷ、ふだんと言葉遣いが違っているじゃない」
「うっさい! これは、あれじゃ、ウケを狙ったんじゃ!」
「苦しい言いわけね、ぷぷ」
「おじさま、大丈夫です! 私がついています!」


マーヤがわしの手を手をひいて、勇ましく森に入る。
「マ、マーヤは怖くないのか?」
「はい、ぜんぜん!」
「たのもしいのぉ……」
「あんたは全然たのもしくないわね」
「う、うっさい!」


森の中では、ぐぎゃぎゃぎゃ、ぐおるごごごーーー、などといった不気味な獣の鳴き声が響いている。
「ふぇぇ、怖いよー、おうちに帰りたいよー、マーヤー、帰ろーよー、ここ、きっとおばけとか出るよー」
「大丈夫。怖くないですよー。もしおばけが出ても、私が守ってあげますから」
「頼りにしてるぞぉ……」
「あんた、女の子に守ってもらって恥ずかしくないの……?」
マーヤの背後にこそこそと隠れながら進むわしを見て、ミルキィは心底あきれた表情になる。
うう、しかたないじゃろ、わしにだって苦手なものの一つや二つくらいある。おばけとピーマンはどうしても克服できなくてな……。ピーマンは苦いからのぉ……。


それからさらに歩くこと数分、木の数が少ない、少し視界のいい場所に出た。
そこには、リンゴのような形をした桃色の果実がたくさん生った木が、点在していた。
そして、その周りに――


「あれが、例のオークか」
「はい、そうです。あのオークたちのせいで、森の果実が取れなくて困るという苦情が入ったみたいです」
わしの疑問に、マーヤが丁寧に答えた。


「んじゃ、さっそく討伐するわよ。マーヤ、オークは人間相手にも欲情するエロいモンスターだから、そこのジジイ同様、気をつけなさいよ」
「はい、わかりました!」
「ジジイ同様ってなんじゃ!? わし、エロくないぞ!」


わしの声を無視して、ミルキィは歩き出す。そして、
「サンダーボルト!」
「グギャァァ!」
ミルキィの唱えた魔法が、十体いるオークのうちの一人に命中した。そのオークは悲鳴を上げて倒れたが、そのことによってほかのオークたちはわしたちに気が付く。


「ナニガオコッタ!?」
「ドウヤラアソコニイル、マホウツカイノニンゲンガヤッタヨウダ……」
「ホウ……カワイイジャネェカ……」
「グへへ、アソコニイルオッパイデカイコモカワイイゾ……」
オークたちが舌なめずりしながら、マーヤとミルキィを眺める。


「ひっ」
「あいかわらずキモイモンスターね……」
マーヤは体を震わせ、ミルキィは不快そうに顔を歪める。


「ヨシ! オレハオッパイデカイコヲヤル! オマエタチハペチャパイヲヤレ!」
「アッ!? ズルイゾ! オレモオッパイデカイコガイイ!」
「オレハペチャパイデイイ……ムシロ、ペチャパイガイイ……」
「オイオイ、オマエラ、ビショウジョバカリネラオウトスルナ。アノジジイヲタオスヤツガイナクナル……」
「ソンナコトイウナラ、オマエガアノジジイヲヤレ。オレハアノカワイコチャンタチヲヤル……」
「フザケンナ、アンナジジイイヤダ。オレモビショウジョガイイ。オマエガジジイヲヤレ」
「ナンダト!?」
「ヤンノカゴラァ!?」


オークたちがなにやら話しているが、声質が人間とは違うせいか、いまいち何を言っているのか聞き取りづらい。
なにを話しているんじゃ? 見たかんじ仲間割れしてるっぽいが……。
疑問に思うのもつかの間、にらみ合うオークたちの間に仲裁するものが現れる。


「ヤメロ、オマエラ、テキノマエデケンカスンナ」
「リーダー……」
「ソモソモ、アンナジジイ、ミルカラニヨワソウダシ、アトマワシデイイダロ。ビショウジョヲタップリトイジメタアトニ、シマツスレバイイジャネェカ」
「ソレナ」
「ナルホド! タシカニ!」
「サスガハリーダー……カッコイイゼ」
「サッキハワルカッタ……」
「イイッテコトヨ。オレコソワルカッタ……」
「ヨッシャ! ナカナオリシタトコロデ、ミンナデイッセイニビショウジョフタリヲヤルゾ! ジジイハヒトマズムシダ!」
「オー!」


マーヤに五体、ミルキィに四体、オークが向かう。
わしには一体も来ない。


「ええ!? わしは!?」
「グヒャヒャヒャ!」
よだれを垂らしながら、彼女たちの元に向かうオーク。


「い、いやぁ、お、おじさま、助けてぇ!」
悲鳴を上げるマーヤ。
わしはシュババと、五十メートルを五秒台で走る足で、彼女の元に向かう。


「グヒヒヒヒ!」
オークたちがゴツゴツとした手でマーヤに触れようとした瞬間――


「わしを無視すんじゃねぇ!」
やつらの手を一斉に切り落とした。
「エ? ア、アアアアア! テガ、テガァァ!」
「ふむ、こんなボロい剣でも高速で振れば、モンスターの腕を切り落とすくらいはできるな」
「アアアア! モ、モウオッパイモメネェェェェ!」
「フザケンナ、ジジイィィィィ!」


五体がわしに蹴りを食らわせようとしてきた。
それらを華麗なフットワークで避け、隙を見て今度はやつらの足を切り落とす。


「ギャァァァ! アシガァァァ!」
「ナンダコノジジイ!? ツエエエエーーー!」
「ダレダ、アノジジイヨワソウトカイッタヤツ!?」
「リーダーダ」
「リーダームノウスギダロ!」
「チョ! オマエラ、オレニセキニンオシツケンナヨ!」
何を言っているのかいまいちよく聞き取れないが、わしをなめていたことはなんとなくわかる。
むかつくやつらじゃ。


「おい、おまえら、年寄りからの忠告だ」
剣を高く振り上げ、言葉とともに振り落とす――
「人を見た目で判断すると、痛い目に遇うぞ?」
目の前のオークを一刀両断する。


「ヒィッ!」
悲鳴を上げる他のオーク四体。
残りのオークも、ひるんでいる隙に斬る。
「ギャアァァァ」
「ジジイツエエエエ!」
あっけなく倒れるオークたち。
あっというまに、五体のオークの死体が出来上がった。


「たわいないのぉ」
「さ、さすがです! おじさま!」
目を輝かせたマーヤがわしに抱き着いてきた。
うほぉ! む、胸が当たって――て、そんな場合じゃない!
名残惜しく思いながら、マーヤを引き離して、ミルキィのほうを見る。


「お、おじさま?」
「安心するのはまだ早い」
ミルキィの近くには、黒焦げのオークが二体転がっていた。おそらく、魔法で倒したのだろう。しかし、まだあと二体残っている。
わしは急いでミルキィの元へ向かう。


「マホウツカイナンテ、セッキンセンニモチコメバ、ザコモドウゼンダ」
「グヒヒ……」
「く、ファイ――」
「オソイ!」
ミルキィが魔法を唱えようとした瞬間、オークがミルキィを殴ろうとし――


「ふん!」
「グアアア!」
――たところで、間一髪間に合ったわしが、マーヤに攻撃しようとしたオークを背後から斬り倒す。


「大丈夫か、ミルキィ?」
「じ、ジジイ!?」
「ナンダ、オマエハ……ヨクモ、ナカマヲ!」
最後に残ったオークが、わしに殴りかかる――


しかし、その拳はわしに届かない。
届く前に、手首から先を切ったからだ。
「アレ?」
「これで終わりじゃ」
頭の上に疑問符が浮かんでそうな表情を浮かべるオーク
上半身を、斜め斬りした。


「グオオオオ!? ジジイツエエエエ!?」
派手に血しぶきをまき散らしながら、最後のオークは倒れた。
「……ふぅ、想像以上じゃな」


想像以上に弱かった。
手ごたえのなさに少し物足りなさを感じると同時に、安心感も覚える。
これなら異世界でも問題なくやっていけそうだ、と。


「おじさまー!」
「ぐお!」
マーヤがわしに飛びついてきた。


「ついに、ついに、やりましたね!」
「そうじゃな、うほほ」
相変わらず、マーヤの胸は大きいのぉ。
おなからへんに当たる柔らかい感触を堪能していると、


「ファイヤ!」
「あっちぃ!」


小さな火球が、わしの手に当たった。
マーヤから離れて、飛び跳ねながら、手にふーふーと息をかける。


「な、なにすんじゃあ!」
「マーヤにエロいことすんなって言ったでしょ!」
むっとわしをにらんでいるミルキィ。
「さっき助けてやったのに、この仕打ちはなんじゃ、恩知らず……」
「そ、それについては、感謝してるわよ。ありがと」
照れくさそうに顔を逸らしながらミルキィは言った。


……ん?
今、礼を言った?
あのミルキィが?


「すまん、耳が遠くて聞こえんかったわい。もう一度言ってくれ」
「た、助けてくれてありがと、って言ったのよ!」
「すまん、よく聞こえなかった。もう一度……」
「助けてくれてありがと!」
「すまん、もう一度――」
「あんた、絶対聞こえてるでしょ!」
ミルキィがキシャーと、苛立った猫のように怒る。
ちっ、残念。


「もう言わないわよ。たくっ、ちょっと活躍したくらいで調子に乗んな」
「でも、すごかったですね、おじさま。ねぇ、ミルキィ、おじさまは十分実力を示しました。パーティに入れること、決定でいいですよね?」
「そうね、あんまり気乗りしないけど、まぁ、実力は本物のようだから、入れてあげてもいいわ」
助けてあげたというのに、相変わらずツンツンしてるのぉ。いつかわしにデレデレになる日は来るんじゃろうか……。


「ただし、マーヤにエロいことはしちゃだめだからね! したら、即パーティから抜けてもらうから!」
「えー」
少し不満はあるものの、とりあえず仲間になることはできて、一安心じゃ。

「ジジイのファンタジイ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く