ジジイのファンタジイ

生明死暗

第3話 冒険者になるんじゃぁ!

「私、マーヤ・フォルテッシモと言います。気軽にマーヤとお呼びください」
ニコニコとした顔でしゃべる隣の彼女。
あれから、わしはこの巨乳美少女と一緒に冒険者ギルドに向かうことにした。そして、歩きながら自己紹介をすることになり、今に至る。


「わしは龍康殿隼……、いや、すまん、間違えた。ハヤブサ・リュウコウデンだ」
この少女の名前からすると、こう言った方が正しいだろう。
「ハヤブサ、リュウコウデン……? ずいぶん変わったお名前ですね?」
「ふぉっふぉっふぉっ。よく言われるよ」
この名前が変わってることは、前の世界でも異世界でも同じのようだ。


「わしのことも、フランクにハヤブサと呼んでくれていいぞ」
「わかりました。では、おじさまとお呼びしますね!」
「うむ……て、え?」
ちょっと待つのじゃ。なぜそうなった?


「いや、ハヤブサと……」
「おじさまとお呼びしますね!」
「あ、はい」
威圧感のある笑顔で言われたので、思わずうなずいてしまったわい。
この小娘、見た目に反して押しが強い……油断ならない娘じゃのぉ。
この名前、自分でもかっこいいと思うから、ハヤブサと呼んでほしいのじゃがなぁ……。


「おじさまはここらへんの人とは顔立ちが少し違いますけど、どこの国の人ですか?」
「日本というところから来たんじゃ」
「ニホン……聞いたことないですね。どこにあるんですか?」
「どこって……うーん、すごい遠いところとしか言えないのう」
「へー、では、ここまで旅をしてきたんですか?」
「まぁ、そうなるかのう……」
ふぅ。適当にごまかしながら会話をするのは面倒じゃなぁ。


わしからも何か質問するか。この世界について知らないことが多すぎるからのぉ。
「なぁ、わし、ここに来たばかりだから、この国のことについていろいろと教えてくれないか? ざっとでいいから」
「いいですよ」


それから、マーヤの解説が始まった。
「ここ、バルデン王国は交易の盛んな都市です。夏はそれほど熱くないけど、その代わり冬は結構寒いです。でも、比較的過ごしやすい気候の国だと思います。冒険者が多く集まる街なので、モンスターが襲ってきてもまず安心ですね。国民の大半はエレメア教という宗教に入っていて、私もその宗派なのですが……あの、おじさま、聞いてます?」
「ん? ああ、聞いとる聞いとる」


嘘じゃ。自分から訊いておいてなんだが、あんまり内容が耳に入っていない。
この年になると長い話を聞くのがしんどくてなぁ、自分が長い話をするのは好きなんじゃが。
「聞いているけど、できれば三行でこの国のことを説明してくれんか?」
「そんなの無理ですよぉ……あ! あそこが冒険者ギルドですよ」


歩きながら会話すること数十分、見覚えのあるところに出た。
中央に大きな噴水がある広場で、わしたちの正面――噴水を挟んで向こう側に冒険者ギルドがある。


「そういえば、おじさまは冒険者ギルドにはどういった目的で――」
「よぉ、マーヤ」
突然、マーヤの声を小太りの男が遮った。
噴水の辺りにいた三人組――小太りの男、背が高い細身の男、背の小さい男――がこちらに来る。


「いいかげん俺たちのパーティに入ってくれよぉ」
「回復魔法使える仲間がほしいんだ」
「男ばっかりでむさくるしいんだよねぇ」
小太りの男、背が高い細身の男、背の小さい男の順で、マーヤに声をかけた。
三人とも下卑た笑みを浮かべて、マーヤの胸ばかり見ている。


むむ、女性の胸を無遠慮にあんなじろじろと見て、なんてスケベなやつらじゃ。同じ男として許せんのぉ。
え、わしも人のこと言えないだろって?
あ、あれはノーカンじゃ、ノーカン!


わしは鋭くてかっこいい目で、やつらをギロリとにらむ。
「あの、何度も言ってますけど、私はあなたたちのパーティに入るつもりはありません。すでに仲間がいますし……」
「ミルキィのことか? あいつも一緒にうちに入ればいいだけの話だろぉ?」
少し眉根を寄せながら、小太りの男がいらだち混じりに言う。
「それでも……いやです。ミルキィもたぶん、あなたたちの仲間にはなりたがらないと思います」
「なんだと? 俺様がこんなに熱心に誘っているというのに、生意気な女だな……。生意気なのはその胸のでかさだけにしとけよぉ!」


小太りの男が、唐突に無骨な手でマーヤの胸をむぎゅっとつかんだ。
「い、いやぁ……なにするんですかぁ!?」
「うっほぉ! なんて触り心地のいいパイオツだぁ! やわらけぇぇぇ、手がおっぱいに沈み込んだぞぉ!? ふにゅふにゅしてて、た、たまんねぇぇー」
小太りの男はマーヤが嫌がっているのにも関わらず、むぎゅむぎゅと胸をもみしだく――


「おい、わしの女になにしてくれとんじゃ」
我慢の限界が来たわしは、小太りの男の手をつかんだ。
「ああん?」
小太りの男が目を細めてわしのことを見る。


……て、しまった! つい、かっとなってわしの女とか言ってしまったわい!
こんなこと言われて、マーヤは不快に思っているんじゃ……。
「お、おじさまぁ……」
感極まった顔でわしのことを見つめてくるマーヤ。
嬉しそうだった。
……なぜじゃ?


「さっきから変なジジイがいるとは思ってたけど、なんなんだこいつは?」
「おい、聞いたか? わしの女だってよぉ!? ひゃはははは、うけるぅぅー!」
「マーヤがこんなジジイの女のわけねぇだろぉ? ボケてんじゃねぇの? なぁ、マーヤ!」
小太りの男、細身の男、小さい男が小ばかにしたように笑う。
ぐぬぬ……あやつら、言わせておけば……


マーヤはむっと顔をしかめて、
「ボケてないです! このおじさまは、私の彼氏です!」
え?
「は?」
「はぁ?」
「え?」
小太り、細身、チビがあっけにとられた顔になる。
「はぁぁーーー!?」
四人の声がハモッた。


ちょちょちょ、何言ってるんじゃ、マーヤさん?
「うそだろぉ?」
間抜けな表情をしている小太りに向かってマーヤは、
「嘘じゃないです! 私たちはカップルです! ね! おじさま!」
「え、そうなの!?」
「おまえ、さっきわしの女とか言ってただろ!」
小柄の男から鋭いツッコミが入ってしまった。


「おい、おまえ、マジでマーヤの彼氏なのか?」
詰め寄ってきた細身の男に内心焦りながら、
「え、あ、はい、そうです」
「ほんとかよ!」
「と、とにかく、私はこのおじさまのものです! ほんとのほんとに!」
マーヤが話を遮るように、叫んだ。


三人組は顔を見合わせて、うなずき合う。
「わかった。そこまで言うなら……」
「ほっ。引き下がってくれますか……」
一息ついて、安堵した表情になるマーヤ。しかし、
「決闘だ! おい、ジジイ! マーヤをかけて俺たちと勝負だ!」
続く三人組の言葉は、マーヤを驚かせた。


「ええ!?」
目を大きく見開いているマーヤを尻目に、三人組は話を続ける。
「ジジイ! お前に拒否権は与えねぇぜ。もし逃げたら、マーヤがどうなるかわかってるんだろうなぁ? ぐひひ……」
三人組は、マーヤの体中をなめ回すようにじとじとと眺める。
マーヤはそんな三人の視線に怯えて、体をぶるると震わせた。


「おじさまぁ……」
涙目でわしを上目遣いで見てくるマーヤ。
ふぅ。しかたないのう……。
わしはマーヤの頭に、ぽんっ、と手を置いた。
「お、おじさま……?」
「安心しろ。あんなやつらに、おまえを好きにさせないから」


わしは三人組に近寄って声をかける。
「その勝負、引き受けよう。ルールは?」
「お、そうこなくっちゃな。ルールはなんでもありだ。武器を使っても、そこらへんに落ちてる石とかを使ってもオーケー。戦闘不能の状態にさせるか、相手に参ったと言わせたほうが勝ちだ」
小太りの男がよどみなく言う。


「うむ、それでよかろう」
「ほんとか? 言っとくが三対一だぞ? おまえは一人で三人を相手しなきゃいけないんだぞ?」
「べつにかまわんよ」
「知らねぇぞ……」
小太りは呆れた顔になる。ほかの二人の男はバカを見る目でわしのことを眺めていた。


「お、おじさま! 無茶ですよ! 三人を相手するだなんて!」
マーヤがとてとてと、わしの元に小走りで寄ってきた。
「大丈夫じゃ、安心しろ」
「そんな……強がらないでください。もういいです。十分ですから。私は、何をされても、いいですから……」
肩を震わせ、悔しそうに言うマーヤにの頭を軽く小突く。
「あいたっ」
「大丈夫だって言ってるじゃろ? ちっとはわしを信用しろ」
「で、でも、あの三人、パッと見は弱そうですけど、けっこう強いんですよ」
「何度も言わせるな。大丈夫じゃ。ほら、ここにいると危ないから、もっと離れろ」
マーヤの背中を押して、むりやり離れた位置に移動させる。


「おじさま……」
それでもなお、チワワみたいな目でわしを見つめるマーヤ。
ふぅ。こりゃあ、実際にわしの戦っているところを見てもらうしかないの……。
「まぁ、見てろ……」
それだけ言い残すと、肩をぐるぐると回して、あいつらの近くへと戻る。


「準備はいいか?」
小太りの男がニヒルな笑みを浮かべて言う。
「ああ」
「じゃあ、行くぜ!」
小太りは背中の鞘から剣を引き抜いた。
続いて細身の男は腰からスティレットを抜き出し、小柄の男はナイフを外套の内側から取り出す。
わしはというと、取り出す武器などない。丸腰じゃ。


「い、いけない。おじさま、何も武器を持っていないじゃないですか!」
マーヤが叫ぶ。三人組は狡猾に笑う。
「ひゃはは! 今更後悔しても遅いぜ!」
小太りの男が剣をわしに向かって振り下ろした。


――カン!
甲高い音が響いた。当然、肉を切られた音ではない。剣は地面に当たって、少し石畳を傷つけただけだ。
「あれ?」
小太りは素っ頓狂な声を上げる。


「そんな大振りじゃ、わしを切ることはできんぞ?」
「な!? なんで?」
隣にいるわしを、大きく見開いた目で見る小太り。
切られる前に、横に避けただけなんだがな。


「ほれ」
小太りのあごに右手をそえて、軽く力を入れ、後ろに押し倒す。
「ぐえ!?」
受け身も取らず、小太りはど派手に体を地面に叩きつけた。
まず一人目じゃな。
「う、うそ、あんなあっけなく……」
マーヤの驚いている声が聞こえる。


「な、なんだ今の!?」
「こ、このジジイ何者だ!?」
動揺する細身とチビ。
「どうした? かかってこんのか?」


「くっ、な、なめやがって」
「うおおおお!」
煽られた細身とチビは左右に分かれ、それぞれ半円を描くようにこちらに駆けてきた。
二人同時にわしに攻撃しようとする――


わしに向かってくるスティレットとナイフ。
その動きが止まっているように見えた。


「遅いのぉ」
スティレットを右手の人差し指と中指で挟み取り、 左手の人差し指と中指でナイフをつかむ。
「な!?」
「うそぉ!?」
細身、チビは口をだらしなく開けた。

「今度はこっちからじゃ」
チビの股間を思いっきり蹴った。
「ぐぎゃあ!」
これで二人目。


「残るはお前ひとりじゃな……」
「な、なんでこんなジジイなんかに……」
「年季が違うんじゃよ、年季が」
「く、くそっ!」


もはや悪あがきといっていい――細見がスティレットから手を放して、わしに殴りかかってきた。
わしはそれを最低限の動作でよけて、左手で相手の首をつかむ。
「ぐええ」
そして、そのまま片手だけで細見の男を持ち上げた。宙に浮いた男は、バタバタと足を動かしてもがく。


「く、苦し、放せ……」
「降参したら、放してやるぞ?」
ドスを利かせて言う。
「くそぉ、わ、わかった、お、俺たちの負けだ……」
意外とあっさり負けを認めた。


男の首から手を放す。
「あだっ!」
どさっと地面に尻もちをついて倒れた細身は、ケツを撫でながら立ち上がると、
「お、覚えとけよ! クソジジイ!」
テンプレ的負けセリフを言い放ち、仲間の二人を引きずって去っていった。
「ふぅ、こんなもんじゃな」
手をぱんぱんと払う。


三人組が消えると、この場一帯はしーんと静まり返った。
……ん、なんか妙に静かじゃな?
と思っていると、


「じ、ジジイTUEEEEEEEEEEEEE!!」
いつのまにか周りにいた観客たちが叫んだ。
「すっげぇ、あれが老人の動きかよ!」
「俺たちよりよっぽど若々しいぜ!」
「俺も年を取ったらあんなじいさんになりてぇぇ!」
冒険者風の男たちが矢継ぎ早に大声を上げる。


「い、いつのまにこんなギャラリーが?」
「おじさま、おじさまぁ!」
マーヤが走り寄り、ギャラリーたちに戸惑っているわしに抱き着いてきた。
お腹らへんに、ムニュムニュとしたマシュマロみたいな感触が伝わる。
ぬ、ぬほほぉ。たしかに柔らかいのぉ、たまらんのぉ……。


「すっごいかっこよかったです! お強いんですね!」
「ふぉっふぉっ、まぁな」
「ありがとうございます。ほんとに……おじさまがいなかったら、私、どうなっていたことか……」
「気にするな。男として当然のことをしたまでじゃ(キリッ」


「強いうえにお優しいんですね。おじさまなら……」
急に顔を下に向けて考え込むマーヤ。
ん? いったいどうしたんじゃ?


やがて、マーヤは決心したように顔を上げて、
「おじさま、私の……私のパーティに入ってください!」
「パーティ?」
「冒険者のパーティです! 今、前衛職の方が仲間にいなくて、困っているんです! おじさまにぜひ、力になってほしいのですが……」
真摯な目でわしを見つめるマーヤ。
少し考え込む。


元々冒険者にはなろうとしていた。だから、これは渡りに船じゃ。
この世界に来たばかりだから一人だと不安だし、仲間がいて困ることはない。
それに、こんな美少女と一緒にいれる。これほどおいしいことはないな。


考えていたのは、ほんの数秒だった。
「よし、わかった。仲間になろう」
「え、ほ、ほんとですか! や、やったぁ! おじさまがいてくれるなら、心強いです」
小躍りしてはしゃぐマーヤ。


「あ、でも、ミルキィがどう言うか……」
しかし、突然テンションがガクッと落ちて、マーヤは不安そうな表情になった。
「ミルキィ?」
「私の唯一の仲間なんですが……きっと反対するだろうなぁ」
「どういう子なんじゃ?」
「どういう子かぁ……優しい子ではあるんですが……うーん、冒険者ギルドにいるはずなので、実際に会って確かめたほうが早いですね。冒険者ギルドに行きましょう。ついてきてください」
マーヤは歩き出した。そんなマーヤの背中についていく。


ミルキィ……どんなやつなんじゃろう。
美少女だといいな。

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