あなたの身代わり捜します。

雨宮 心音

契約

「これから私どもの天田屋の説明をさせて頂きます。説明を聴いて頂いて、質問があれば何でも質問して下さって構いません。よろしいですか」

「あっはい」


天田 不死瑠が1枚の名刺をテーブルの上に置いて、何処からか出してきた白いスーツケースの中から書類を数枚出してくる。

「私ども天田屋は、あなたの不安や不幸の代わりになってくれる人を捜します。その代わりにあなたにも身代わりの代償を支払って頂きます。この契約には、お金は一切必要ありません。契約は一度だけ、契約成立後は変更は不可能となります。以上で説明は終わりですが、質問はありますか?」


天田 不死瑠の説明が短過ぎて、私はソファから落ちそうになってから体勢を立て直し、またソファに座り直して、側にあるハート型のクッションを抱きしめ、天田 不死瑠が言った説明を頭の中で、反芻してみて質問を口に出してみる。

「私の不安って何でも良いの?」

「不安や不幸と言っても、幅が広い物はご契約頂けません。つまり、1つの不安や不幸に対してのご契約となります。そして、身代わりの代償もあなたから1つ取り上げる事になります」

「その私からの代償は何になるの?」

「代償は、ご契約頂く不安や不幸の大きさによって、代償の大きさが決まります。しかし、その代償は先に教える事は出来ませんので、ご了承ください」


私は、天田 不死瑠の答えを聴いて、悩んでいることを口に出してみる。

「私は今、歌手を目指しているの。その成功の代償と言うのはできるの?」


私の問いかけに対して、天田 不死瑠が目を閉じて、右手の人差し指と中指を眉間に当てて、何かをかんがえているようだ。そうしたままで、少し間を空けて目を開いた。

「成功への代償とは、不安や不幸とは言えませんが、少し言葉を変えてみましょう。例えば、歌手への不安の身代わりや、歌手となってからの不幸への身代わりなどであれば、身代わりをご用意できます」

「つまり、まだ芸名もないけど、歌手になる事が出来るのね」

「はい、そこは天田 不死瑠にお任せ下さい。ただ今、ご契約頂ければ2.3日中にはご用意いたします」

「ちょっと待って天田さん。私は歌手になりたいけど、歌手になれるだけではダメなの、その後も売れ続けたいの、もし、それが叶うならば、どんな代償でも払うわ」

「かしこまりました。そちらも合わせて、私が保証いたしましょう」

「分かったわ、天田さんと契約するわ」

「ありがとうございます」


天田 不死瑠がテーブルに置いていた書類の中から1枚を取り出して、私の前に差し出した。

契約書とは書いてあるが、それはシンプルな物で、白い紙の上部に契約書と書かれていて、中程に一本線が横に引いてあり、下部にも一本線が横に引かれている。

「これが契約書?」


疑問が口から出てしまって、変な所が無いかと裏まで見てしまう。

「はい、こちらが契約書です。変な詐欺のような事はしませんのでご安心を、契約書を書いたら、次の日に1000万円の借金をしていたなんてありませんから。それと最後に、私どもとの契約は1回のみ、ご契約成立後の変更は不可となりますので、ご注意ください。よろしいですか?」

「分かったわ」

「では、一本目の線に佐々木 雪菜様の身代わりの名を書き入れて下さい、2本目の線には佐々木 雪菜様のご氏名を書き入れて下さい。ご指名の横に印をお願いします」


私は天田 不死瑠の言う通りにソファから身を乗り出して、テーブルに用意してある契約書にボールペンで書き入れて行く。

身代わりの名は、歌手人生の不幸への身代わりと書き入れた。

名前を書き入れて、棚から印鑑を取り出して印を押した。

その契約書を天田 不死瑠に渡した。

契約書を天田 不死瑠はまじまじと見て、笑顔を見せる。

「ご契約ありがとうございます。少し電話して来てもよろしいですか?」

「あっはい」


天田 不死瑠が部屋の外まで出て行って、直ぐに戻ってくる。

「佐々木雪菜様、もし明日オフであれば、こちらのスタジオに行って、ここのプロデューサーの指示に従って歌ってみていただけますか?」


天田 不死瑠から1枚の名刺サイズのショップカードのような物を私に差し出してくる。

「わかりました」

「ありがとうございます。では、私はこれで失礼いたします。2.3日中にまたお会い出来るとお会い出来ると思いますので」


そう言って、天田 不死瑠が部屋から消えるかのように、素早く出て行ってしまった。

動きが早すぎて、見送ることもできなかった、私は今になって契約してしまったことを考え始めていた。

最初は不気味な男だと思っていたのに、最後の方には好意まで抱いていたように感じている。

こんな契約で、私は本当に売れる歌手になれるのだろうか。


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