神眼使いの異世界生活
第58話 ポンコツ君
出発予定の昼頃ーーーーー
「アルテミス、準備できた?」
「もう少しぃぃー」
出発の準備が出来たかアルテミスに聞くと、なにか踏ん張るような声が帰ってきた。
「どうしたんだ?」
「カバンが閉じなくて・・・」
部屋の中に入ると、あと少しで閉じきらないボストンバックを無理矢理閉じようと上に乗って押しているアルテミスがいた。
「別に無理矢理詰め込まなくても・・・・・・空間収納に入れるから」
「流石に下着とか一緒にしたくないでしょ!このカバンには乙女の秘密が沢山入ってるの!」
「あ、そうですか」
そう言われ追い出されてしまった。
『マスターは女心が分からないのですね』
「男には分かりずらいのさ。」
それにしてもどうしたものか。俺は準備をもう終えてしまっている。
昨日のうちに【創造眼】で馬車の荷台は作っておいたし、念の為ポーションやらなんやらも作っておいた。
馬は今朝、捕まえて置いたから旅の足はもう準備万端だ。
食材も今朝市場に行って買い込んでおいた。
とりあえず一週間は余裕で生きていけるだろ。
「そういえばシュレイの所に行くか」
あいつはまだこの屋敷に来て間もないし、人間の生活にまだ慣れてないだろうから手伝ってやらないとな。
そう思ってシュレイに割り当てられた部屋に行ったのだが・・・・・・
「む?なんじゃソウマよ。」
「いや、準備手伝おうかなって思ったんだけど」
「それならもう終わっておるぞ。なぁ、ハクよ」
「キュッ!」
シュレイは何故か知らないがこの部屋にいるハクを撫でながらそういう。
「もう終わってるのか?荷物ないみたいだけど?」
「荷物など大してないのじゃ。服は我が魔力によって生み出されておるし、我は竜だからな。武器は使わぬ。食料もソウマが持ってくれるのであろう?」
「まあ、そうだけど・・・・・・」
「なら、我が持つものなどないのじゃ。ギルドカードなどは我のマジックポーチの中に入っておるしな」
「確かに特に荷物はないのか」
この屋敷に来て間も無いから所持品も少ないだろうし、シュレイの言う通り食料は俺が持ってるから持つ必要ないし。
「じゃあアルテミスの準備が終わったら出発するか」
「キュッ!」
「ハクもシュレイに構ってもらって楽しそうだな。」
「キュッ、キュ〜」
「ソウマは遊んでくれないから我が来てくれて嬉しいじゃとよ」
「ぐっ!な、なんてことだ。ハクがシュレイに取られた?!」
『仕方がありません。マスターは放置プレイしすぎです』
(放置プレイとか言うな)
まあ、確かに頭から抜けてたからなぁー。
まあ、忙しかったから仕方が無い。
『生き物を管理出来ない飼い主は生き物を飼う資格はありませんよ』
(うぐっ、ハクはペットじゃないからセーフ)
「じゃあ庭で少し遊ぶか?」
「きゅ?きゅうっ!」
遊びに誘うと嬉しそうにハクは嬉しそうに飛び付いてきた。
しかしその時ーーー
「準備できたっ!」
アルテミスがタイミング悪く入って来た。
しかもあのボストンバッグを閉じることが出来たらしい。
「あーーー、また今度なハク」
「きゅっぅぅ?!」
そんなバカなっ!?という感じでハクが放心状態になる。
「そんなに遊びたかったのか」
「まあ、まだ子供じゃからの」
「なんか、悪いことしちゃった?」
ハクの様子を見てアルテミスが何らかの責任を感じてしまったらしい。
「いや、大丈夫だ。じゃあ行くか」
アルテミスが準備出来たならもう出発するだけだ。
クラウスさんに挨拶をして分身体を残しておく。
結局、殆どの使用人は見送りに来ず、クラウスさんだけが見送ってくれた。
「じゃあ行ってきます。用は分身体を通して全部出来るんで」
「はい、それでは行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます!」
「行ってくるのじゃ」
「キュゥ〜〜」
予め用意しておいた馬車に乗り込む。御者は馬を直接リエルが操作してくれるので、前に出る必要は無い。
と言っても街中でそれをすれば不審に思われるので街中では俺が御者として前に出ている。
「まずギルドに行くぞー」
「昨日行ったんじゃないの?」
「いや、受付で依頼受けるの忘れてたから。」
シフォルに伝えたあとそのまま帰っちゃったからな。ちゃんと受付を通さないとダメだからな。
その後直ぐにギルドへ到着し、馬車置き場に馬車を置いて、ギルド内へ入る。
相変わらずわちゃわちゃとしていた。
その中を俺達はまっすぐ受付へと向かうーーーのだが・・・・・・・・・
「よぉ、兄ちゃん。大した強さじゃ無さそうなのにたいそう美人さんを連れてるじゃねぇか。一日くらいこの俺様に貸してくれよ」
一人の男が俺の前に立ちはだかった。
まさかこんな時期に来るとは。そういうのは登録初日に来るものだと思ってたぞ、やられキャラよ。
それにしてももう少し有名になってたと思ったが、自信過剰になっていたみたいだな。
・・・・・・まあ、遊んでやるか。
俺は敢えて無視して男にぶつかってみた。
「っ!てめぇ!この俺様を無視してぶつかってくるとはいい度胸じゃねぇか!!」
「あ、ああっ!す、すみません!!あまりに矮小な存在だったので存在していた事すら気が付きませんでした!!お怪我はありませんか?!」
「ぶっ!」
後ろでシュレイが吹き出して笑っているが気にしたら負けだ。自分だって言葉遣いと内容が一致していないのは重々承知しているからな。
『マスターの悪い癖です』
やかましいわ。
「てめぇ、馬鹿にしてんのか?!」
「いえいえ、そんなことは無いですよ。そうだ!ここで会ったのも何かの縁ですし、名前を聞いておいてあげますよ」
「おうおう!俺様はCランク冒険者の【剛腕】のコツポン様だ!」
コツポン・・・?コツ・・・・・・ポン。
ポン・・・コツ?
「ぶっ!ぷははははっ!」
「て、てめぇ何を笑ってやがる」
「ぷーくすくすくす!!」
「後ろの女も何を笑ってやがる?!」
いや、だって。ねぇ?
名前がポンコツくんですよ?
笑うなって方が無理でしょ。
「いや、君も大変だな。ポンコツ君」
「そうじゃの。頑張って生きるんじゃぞ、ポンコツ君」
俺とシュレイが応援してあげる。
ちなみにアルテミスは避けるように受付へと向かっていた。もうアリスさんと話してる。
「それじゃ、俺は受付行くから。じゃあな、ポンコツ君」
「うむ、楽しかったぞ、ポンコツ」
ポンコツ君の隣を通り過ぎて受付へと向かう。
その時ーーー
「てめぇ!怒ったかんな!ぜってぇ許さねぇかんな!!今すぐ殺してやるかんな!」
某美人女優のようなことを言いながら殴りかかってきた。
とりあえず後ろから迫る拳を避けて、足を蹴って床に倒す。そして肩を優しく踏みつける。
「あまり調子に乗るなよ」
その言葉と共に覇気を放つ。
俺が絶対王者に見せるくらいの覇気だ。
「は、はぃ・・・・・・」
ポンコツ君は覇気に当てられて何も言えなくなっていた。
「さて、アリスさん。」
「はい、なんでしょう?」
振り返って受付窓口にいるアリスさんに話し掛けると笑顔で返された。
「シフォルから依頼の件伝えられてない?」
「伝わってますね。ギルドカードを出していただけますか?」
「ほいほい」
アルテミスはもう出しているのでシュレイと俺がギルドカードを提出する。
そのカードを見てギルド内にいる人達が固まった。
「黒のギルドカード・・・・・・」
「ってことはまさか!」
「あれが異端者っ!」
「コツポンよく生きてたな・・・・・・」
などと聞こえてくる。意外と心地いいぞ?
『名前は覚えられまいませんがね』
(まあ、それは目を瞑ろう)
「はい、確認しました。それではポトフ平原の大量発生した地竜討伐依頼お願いしますね」
「おう、任せろ!」
こうして俺たち3人と一匹は大陸の南方を目指して旅に出るのであった。
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