最弱が世界を救う。

しにん。

七つの大罪と七つの大罪。

無我夢中で剣を振るいゼクスへ攻撃するが、当てるどころか相手のスピードに追いつけないでいた。
何度振るおうが全てかわされる。


「それが攻撃というのなら、我が息子にはガッカリだ。もっと楽しませてくれよ」


「何で……何で当たらないんだ!」


次第にエクスの魔力と体力は底を尽き、立っているだけで精一杯になっていた。
先程の戦闘の疲れは余程ひどく、龍達の魔力供給では回復が間に合わない。
魔法をほぼ使えず、己の体一つで戦うエクスを見てゼクスは口を開く。


「我が息子よ、お前はどれほどの真実を知っている?」


「レインを一度殺したのはお前ぐらいってことだ。お前が……お前がレインを《傲慢》の悪魔にさせたんだ!!」


「ほう、よく知っているな。確かにレインを殺せと命じたのは私だ。それがどうした?それだけの事でお前は今戦っているのか?」


「あぁ、そうだ!俺は……お前を許さないッ!!」


一歩を踏み出したエクスを、ゼクスは手をかざし動きを封じる。
エクスの体は押し潰されるように地面へ突っ伏す。


「な……にを……」


「お前の周りだけ重力を何倍にもしておいた、どうだ動けまい」


「くっ……」


必死に起き上がろうとするが、体は言うことを聞かず寝ているだけで何も出来なかった。
悔しみに唇を噛み締め、ゼクスを睨む。


「さて、これは何度目だ。いやいや、何度説明しても面白い瞬間だ……」


「何を言ってやがる――」


「エクス、君が私に戦いを挑んだのはこれで十回目だ。この言葉の意味がわかるか?」


「お前に戦いを挑んだのは今日が初めてだ、デタラメを言うんじゃ――」


「君のその言葉も十回目だ。あぁ、面白い面白い。それじゃこの世界について真実を教えてやるよ。この世界を作ったのはこの私、ゼクス――おっと失礼。全能神ゼウスだ」


「この世界を作った……だと?」


「この世界を作り、全ての物語を書いた。だから、お前達はこの世界の管理者である私によって動かされていたってことだ」


その言葉の真の意味がエクスには理解出来なかった。
だからこそ、ゼウスの恐ろしさに気づくのが遅れてしまった。


「この世界を作って、物語も全てお前が書いた……?」


「そうだとも。お前達が戦ったり生活したり結婚したり、全部私が書いたシナリオ通りだったってわけさ。なのに……なのになのに!!私のシナリオに一切縛られない、異物が混入してやがった。初めてだよそういうのは……今回のシナリオは、失敗作だ」


突っ伏しているエクスを踏みつけ、怒りをあらわにしていた。
何度も何度も踏み潰しエクスは手も足も出せなかった。


「私のシナリオ通りだと君は《傲慢》の悪魔に殺されていた。なのにシナリオが変わった。無理やり変えられた、何故だッ!!この全能神である私に牙を向いた愚か者は何処のどいつだ!!」


怒りの表情でエクスを見下ろし、更に追い討ちをかける。
重力を更に強め、エクスの周りの地面が広範囲にへこんでいきダメージを増やしていく。


「異物……とか……ゴチャゴチャ……うるせぇんだよ……!!」


「まだ吠えるか……私と戦うシナリオは書いていないにしてはしぶといじゃないか。だが、もう終わりのようだ。君の体は限界を迎えているようだがそれで私に勝てるとでも思っているのか?」


「当たり……前だッ!!俺は……くっ、諦め……ねぇ――!!」


「よろしい、ならばここで死ぬまでだ。また次のシナリオで会おう、我が息子よ――」


手を伸ばし、更に重力を強めようとするゼウス。
だが、途中でやめ後ろを振り返る。


「まさかとは思っていたがお前が来るとはな……我がシナリオの異物」


振り返った先には、レインと同じぐらいの背丈の少女が足を揃えたっていた。
綺麗な金髪は風になびかれ、高貴な雰囲気を漂わせている。


「マスター、遅くなりました。これより反撃を開始します」


「ムシュ……相手はこの世界の主、全能神だ。早く逃げろ!!」


「その命令には応えることはできません」


首を横に振り、姿を消す。
その瞬間にエクスの横に姿を現す。
エクスに手を差し伸ばし、ゼウスが操っていた重力を無効化する。


「ムシュ、お前は一体何者なんだ……?」


「私はとある神から役目を命じられ、今はマスターの守護をさせて頂いていました。貴方が私の名前をムネモシュネと名付ける事で私はマスターと契約していました」


「とある神……か。誰かは知らないけど、そいつのおかげで助けられたのか。この戦いが終わったら紹介してくれないか?」


「はい、マスター。なのでこの戦い勝ちましょう私達――みんなで」


二人の会話を聞いていたゼウスはこちらを睨んで来た。


「とある神だぁ?だいたい予想は出来ているぞ、そこの異物。どうせ私の格下の海王神ポセイドンってところか?」


「はい、その通りです」


「ポセイドンって……俺が使っていた槍の持ち主か……そんな神が俺の事を守るって、理由は何でだ?」


「この世界の主であるゼウスの異変にポセイドン様は気づきました。何度も同じ様に同じ人が死に、争いが多発したので。なので、神々は話し合いゼウスを止めることにしたのです。最高神とも呼べるゼウスを倒すため、次に高位な存在であるポセイドン様が指揮を取っています」


「ほう、あのポセイドンが私の暇つぶしに気づいたとは……あの万年二位が私を止めれると思っているのか!!」


怒りでついに動き始めたゼウス。
神の一撃は重く、ムシュの作った魔力の壁が無かったらここでお陀仏だぶつだった。
命の有難ありがたみに浸るのを辞め、ゼウスへと意識を向ける。
すると、ゼウスは頭を抱えため息をついていた。


「はぁ……お前らはめんどくさい相手だな……特に異物の貴様、まさかとは思うがポセイドンの力を少し貰っているな?」


「はい、その通りです」


「だから私の攻撃で壊れないわけか……仕方ない、試作品だがアレを使うしか無いのか」


両手のひらを合わせ、魔力を極限まで高めていく。
たったそれだけの事だがエクスたちが飛ばされそうになるほどの暴風が吹き荒れる。


「何が起こってる!?」


「恐らくは、何かを召喚するつもりです」


ムシュはすぐさま固有結界でエクスを守り、ゼウスの行動を見つめていた。


「七つの大罪よ、来たれ。悪魔召喚の時だ!!」


ゼウスの目の前に突然、土のようなモノで作られた人型の模型が七つ召喚される。
さらに、ゼウスが魔力を送り込むとそれぞれ形を変え、動き出す。


「……嘘だろ」


「存分に絶望してくれ、エクス。君が戦ってきた敵全てだ」


エクスは目の前の光景を見て、夢を見ていると錯覚した。
それぞれ、エクスと戦いエクスを苦しめてきた敵七人。
意識こそ無いが、見ているだけで圧倒される迫力にエクスは後ずさる。


「七大悪魔……全員だとッ!!」


「やれ、七つの大罪たちよ」


合図とともに、七人は一気に動き始める。
右から左から、上から下から、次々と攻撃がエクスの命を奪いに来る。
ムシュも抵抗はするが、二人抑えるだけで精一杯だった。


「マスター、後少し……後少しだけ耐えてください」


「言われ……なくても!!」


一対五の戦況でも屈せず、ギリギリの所で全てを避ける。
魔力と体力は底を尽きかけているが、人形たちの動きは単純で全てを避けることを前提で動くと不思議と攻撃は当たらない。
しかし、ムシュが抑えている二人だけが別格で、全力で戦っているが両者とも退かない。


「マスター、あと数秒です」


先程からムシュは何か時が満ちるのを待っているようだった。
戦いにも何処か集中力が無く、他の事へ意識を向けているようにも見えた。


「くっ……」


ついに敵の攻撃が当たり、痛みに身をかがめるとここぞとばかりに攻撃の手が伸びてきた。


「まだだァ!!」


体を無理やり起き上がらせ、命令する。
己の限界を超えろ、と。


「俺は……人間の王。皆を守らないと行けないんだッ!!」


エクスが叫ぶと、天空から光が大地を明るく照らす。
光の中から、七人の影が見えてきた。


「よく言った、エクスくん!!待たせたね!!」


二度と聞けない声が、エクスの心を踊らせる。


「ったく、俺様を使うとは一体どういうご身分のやつか見てみたいもんだな」


「皆さん、もっと仲良く行きましょ、仲良くね?」


「それよりも、俺と結婚は?」


「しません、私はもう結婚したんですー」


七人の影はエクスの目の前に立ち、先程まで戦っていた人形たちを軽く蹴散らす。
苦戦していたのが嘘のように一転する。


「貴様ら……何処まで私の邪魔をする!!」


「どこまでもッ!!話は全部聞いてるよ、私たちをよくもまぁ、悪いように扱ってくれたね全能神」


七人の真ん中に立つ影が一歩前へ出て、ゼウスを軽く挑発する。
その挑発に乗ったのか、ゼウスは口よりも先に手を出したきた。
エクスを抱え、少し遠くの場所へ移動する。
七人の影はそれぞれ立ち上がり、雄叫びを上げる。


「七つの大罪《暴食》、ベルゼブブ」


「同じく《嫉妬》、レヴィアタン」


「《強欲》マモン」


「めんどくさいな……言わないとダメなのか。《怠惰》ベルフェゴール……」


「《色欲》の悪魔、アスモデウス」


「七つの大罪《憤怒》のサタン様だ!!心に刻め!!」


「そして、七つの大罪《傲慢》の悪魔……ルシファー、またの名をレイン!!」


七大悪魔全てが味方となった。
エクスは心の底からこう思う。


「これほど心強い援軍はいないぜ……!!」


「マスター、間に合って何よりです」


ムシュが駆けつけ、総勢九人の戦士達が立ち上がった――

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