最弱が世界を救う。

しにん。

最後の試練。

天空を翔る二人は、何度もすれ違いざまに剣を交え熱い火花を散らしていた。


「空を飛ぶのは慣れてないようだけど、思っていた以上に楽しませてくれるね」


「当たり前だ、俺は全力で挑んでいるからな。どっかの手加減をしている奴とは違う」


「へぇ、私が手加減していると気づいてたんだ」


ニッと笑い剣を構える。
大きく広げられた翼は光を得て、綺麗に光る。
その姿はこの世のモノとは思えない程美しい。


「エクスくんが空中戦が多少は出来ると見込んで、私の出せる全力で行かせてもらうよ」


「来いッ!!」


剣を前へ突き出し、レインは真っ直ぐに突っ込んできた。
単調な攻撃に、軽く横へ移動しただけで避けることが可能だとエクスは思い込んでいた。
横を通過した瞬間、音速を超えていたためソニックブームが出現する。


「まさかこれを狙って――」


「早くどうにかしないと、切り刻まれるよ?」


レインの後を追いかけるようにソニックブームはエクスの正面までやって来ていた。
躊躇する時間を与えず、触れるだけでこの戦いに終止符を打つレベルの災難がエクスを襲う。


「やばいな、これは転移を――」


避けるため転移魔法を使用しようとした時、謎の不快感がエクスの体に異常をもたらす。
動くことすら出来なくなり、その場で立ち往生する他出来ること無くなっていた。


「避け……ないと」


ソニックブームは止まることをせず、そのままの勢いでエクスの目前まで迫っていた。
当たる、と覚悟した時目の前の光景が一気に変わる。


「どうしたの?あのままだと負けるどころか、命を落とす危険性だってあったと思うけど」


「レインか……助けてくれてありがとうな。何だか分からないんだが、転移魔法で避けて背後にまわろうとまで考えていたんだが、魔法を使うどころか動けなくなったんだ」


「魔法が使えないということは魔力切れ?エクスくんの魔力量なら大丈夫だと思うけど?」


通常魔法が使えないのは、単純な話魔力が無いため。
しかし、転移魔法は魔力消費は乱用できるほど低い。
到底エクスの魔力を全て使い切ったとは、誰しもが予想しなかった。
すると、二人の会話に龍達が割って入ってきた。


「お嬢、そいつは予想通り魔力切れだ」


「まぁ仕方ないじゃろうな。ワシらから貰った僅かな魔力で戦っていたんじゃし」


「それって――」


「隠していた訳じゃないが、まだケイルにかけられた呪いは解けていない」


真実を知った時、レインの顔から血色が消え青ざめていく。
魔力が無いということは戦う際、素手で戦っている様なものだ。
武器もなければ、盾もない。
魔力を作り出せないエクスは、他人から魔力を供給して難を逃れていた。
だが、他人の魔力を使う事のリスクは大きい。
適性がない限り、通常であれば死に至る。


「本当に……魔力を作り出せないの?」


「呪いを解けば作れるはず。今は作り出せないけど」


「じゃあ、エクスくんは魔力が全くないというハンデのまま戦っていたというの!?」


「そうなるよ。俺の魔力は無いからな。こいつらに貰ったわずかな量の魔力だけでどうにかなるって思ったんだけどな……トリアイナを作るどころか、ネプチューンすらも作る量の魔力も無かった」


「すまないお嬢。他人の魔力を貰った場合あまり長持ちはしないんだ。ストックをしようと何度かしてみたんだが、一日もせずに消えてしまうんだ」


「ごめん……ね……そんなことも知らずに私……私――」


「気にすることじゃないよ。これは俺が受けた決闘だ。攻めるべきは俺だけだ」


ゆっくりと目を瞑り、床に寝転ぶ。
龍達から貰った魔力も底を尽き、身動き一つ取れない。
寝転んでいると、急に頭を持ち上げられる。
そして、先程よりは多少高い位置に頭が固定される。


「――ん?」


「私には、呪いを解くみたいな芸当は無理だよ。でも、私には私にだけ出来る事だってある。例えば――今のエクスくんの心を癒してあげたりとか」


目を開き上を見ると、レインの顔が近くまで来ていた。
何をされているのか理解出来なかったが、徐々に状況が把握出来てきた。
どうやら、レインに膝枕をして貰っている様だ。


「人間の王になってよりしみじみと人間の強さを思い知らされるなぁ……」


「私は人間ってより天使だけどね」


「お前は天使でもあり悪魔でもあり人間でもある。違いないだろ?」


「えへへ、そうだね。確かに私はその三種族の力を持っている。それで、本当にソロモンから直々に人間の王という称号を、名誉を継承したの?」


「あぁ、サタンを倒す時にソロモンからな……ソロモンがいなかったらサタンになんて勝てなかったさ。アイツには本当に感謝してる」


「確かに、最初は嫌な奴――とか思ってたけど、なんだかんだ私たちを助けてくれたんだよね。どうしてかな……」


少しの変化だが、レインの声が小さくなった。
何事かと思い顔を見てみると、何故か上を見ていた。
どうしてか気になり話しかけてみることにした。


「どうしたの?」


「…………」


反応がない。
心配になりもう一度話しかけてみる。


「レイン……?」


急に顔を下に向けられ、何かが顔に飛んでくる。
触ってみると、指先が濡れている。
レインの顔は泣き崩れ酷い有様になっていた。


「ごめんね……大事な時に私が助けてあげられなくて……ごめんね……ごめんね……」


ポタポタと涙を零し、後悔していた。
誰も悪くないことにレインは自分を攻め続けていた。
あの時ああすればもっと未来を変えられた。
そんな後悔をしているうちに、レインは涙を流していた。


「ごめん……」


「レイン、それは俺が言う言葉だ。愛する人一人も守れない俺なんか、本当に人間の王失格だ」


「そんなことない!!エクスくんはきちんと人間を守った。私もエクスくんに守られた!!」


暗くなっていた顔は一気に変わり、悲しみの表情から慈愛へ。
頬を赤く染め、レインの顔は笑顔になっていた。


「やっぱり……レインは笑顔の方が好きだな。泣いてる顔なんてレインには似合わない。もっと強くなれよ」


「えっ……?」


エクスは起き上がり、優しくレインを抱き寄せる。
唐突のことに驚いて少しジタバタしていたが、すぐに静かになる。


「俺は人間の王になれたのは、人間の強さを知ったから。俺一人じゃ何も出来なかった。レイン――お前に会えたから俺の人生は、俺の世界は変わった。だから、そんなに後悔しないで。俺はレインの泣くところなんて見たくないんだ」


その言葉を聞き、レインは抱き締める力を強め子供のように我慢せず泣き崩れた。
その姿を見て、エクスはただただ優しく抱き締めレインの唇へ優しくキスをした――

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