最弱が世界を救う。

しにん。

《憤怒》13

傲慢と憤怒の罪スペル・イア


サタンは片足で炎に包まれもがき苦しむゼノを踏みつけながら、斧を天高く掲げる。
他の三人はなすすべなく、地面へ突っ伏していた。
それぞれ悔しみ、ただ見ていることしか出来なかった。
もはやサタンに勝てる者は、この世界中何処を探しても見つからないとまで各々絶望する。


「さらばだ、人間よ。さらばだ、作られた世界」


斧をゼノの首へ目標とし、思い切り振り下ろす。
全員が目を瞑り、ゼノの最後を見届ける者は居なかった。


「貴様は何処まで邪魔をするつもりだ!!」


「どこまでも、お前を倒すまでは邪魔させてもらうぜ」


サタンの斧は、ゼノの目の前で止められる。
人類最後の希望により。


「エクスさん!!」


「みんな待たせたな。もう大丈夫だ、サタンは俺に任せろ」


「あァ?俺に任せろだって?図に乗るなよ人間ッ!!」


力一杯振り回した、燃え盛る斧がエクスを襲う。
衝突時、辺り一帯が火の海に包まれるが数秒後には鎮火される。


「ゼノ、皆を守ってくれてありがとうな」


「私は誰ひとりとして守りきれてないさ……」


「いいや、現に誰も死んじゃいない。良くやってくれた、本当にお前は世界最強だ」


多少の火傷のあとが残るが、消しても消せなかった炎は自然と消えていく。
それによりゼノの苦しみは開放される。


「さて、小僧。まずは全員の安全の確保をした方が良さそうだ。それぞれ致命傷ではないが、傷は深いぞ」


レインの魔力をわずかにだが貰っているため、レインのみが使用を許された転移魔法を限定的ながらもエクスは使えるようになっていた。
アドバイスを貰いすぐに行動へ移す。
バラバラになっていた皆の元へ転移し、エクスは一箇所に届ける。


「ここまで影響が出るかは微妙だけど、念のために固有結界で皆を守ってくれるか?」


「どこまで持つかわかりませんが、皆さんをお守りします」


セレネの真っ直ぐな目に、エクスは微笑む。
すぐさま転移し、サタンの目の前へ。
二人の視線はぶつかり熱い火花を散らす。


「面構えが変わったな……貴様何をした」


「俺はもう一人のために戦う英雄じゃない。俺は人間全てを守る、人間の王だッ!!」


エクスの叫びとともにゾモロドネガルがあおく輝く。
凄まじい光に包まれた後、エクスの肩には王冠が顕現けんげんされていた。
金色に輝く王冠はまさに、王に相応しい一品だった。


「人間の王……まさか、ソロモンの後継者とでも言うのかクソガキが――!!」


血相を変え、猪の如く一直線に突っ込んできた。
単純な攻撃を避け、更には反撃さえ余裕でやってのける。
エクスの反応速度は人間の域を超えていた。


「ぐぬぬ……人間の王など、認めん――認めんぞおお!!」


「お前が認めまいが関係ない。俺はソロモンの後継者だ、俺の道を邪魔するな」


ゾモロドネガルを一振りすると、サタンの右腕が切り落とされる。
サタンの反応は一瞬遅く、気がついた時にはもう腕は無かった。
あまりのはやさに見ていた誰しもが希望に目を輝かせ戦いを見ていた。


「こうなれば、奥の手だッ!!」


レインの翼を自らの背中に顕現させ、力を手に入れる。
その姿を見て、エクスは哀れみの言葉をこぼす。


「バカだろ……何がお前をそこまで駆り立てたってんだ」


無理やり手に入れたため、その力は暴走する。
サタンは苦しみ、やがて暴れ出す。
空を飛び、彼方此方あちこち移動し力を狂ったように地面へ浴びせる。
至る所にクレーターが出来上がり、元々の地形さえも滅茶苦茶めちゃくちゃになっていた。


「このままじゃ破壊し尽くされるのが早いな……それに俺の魔力ももう底が見えてきたな。仕方ない、多少強引だが全魔力を一撃に込める。いいなお前ら」


「魔力は今お前のモノだ、好きに使うが良い」


「ワシも同意見じゃ。じゃが、その道は正しいんじゃな?」


「俺を信じろ、としか言えないかな。でも俺はやってみせるさ、ここで負けたらレインに顔向け出来ないからね」


それ以上、話すことは無かった。
それぞれがそれぞれを信頼し、期待する。


「全力で行く……もっと魔力を寄越せッ!!」


「「おうッ!!」」


更に魔力を貰い、エクスの持つゾモロドネガルが再度発光する。
あおい光はとても優しく世界を照らす。
やがて光が収まると、エクスは剣を構える。
走り出す直前に、発砲音が響く。
音がした方向を見ると、ゼルが何かを仕掛けていた。


「エクスさん、ヤツの動きはこれで止めたっす。やっちゃってください!!」


見てみると、サタンは動きを止めていた。
どういう事かと気になりよく見てみると、足と地面を凍らせ動けなくさせていた。
長距離の射撃の精度にも、技の精度にもエクスは信じていた。
もう、最弱と呼ばれた独りぼっちの少年ではない。
誰かを助け助けられる存在、それこそが人間の王としてのあるべき姿だと知ったから。


「お前はもう終わりだサタンッ!!」


「この……この俺様が負けるなんてこと有り得ない!!」


最後の悪足掻わるあがきなのか、走って向かって来るエクスに狙いを定め火炎放射のように次々と炎を伸ばしてきた。
襲いかかる炎をエクスはギリギリで避け、最短のルートを駆け抜ける。


「何故だ、何故俺様がちっぽけな人間ごときに――」


「ちっぽけだからこそ人間は強いんだ。俺ひとりで相手をしていたらお前が勝つさ。でもな、人間ってのは助け合った時に真の力を発揮できるってもんだ。お前の敗因は、そんな人間を弱いと思い込んだ傲慢さだ!!」


「黙れ黙れ黙れ黙れェ!!」


炎の勢いは増し、遂には視界全体を覆うほどまでに出力を上げてきた。
それを見た瞬間にエクスは次の手に打って出ていた。


「その手はもう読んでいる、くたばれェ!!」


背後へ転移したエクスを、サタンは力任せに斧を振り回す。
見ていた全員が予想外の事に、目が点になっていた。


「まだまだァ!!」


再度エクスの姿は見えなくなり、サタンは前を振り向く。
気づいていたが、体が反応出来なかった。
サタンはエクスの攻撃をただ見るだけで限界を迎えていた。


世界を照らす希望の光アンリミテッド・シャイニングッ!!」


光り輝くゾモロドネガルをサタンの心臓へ突き刺し、一気に押し込む。
そこへ魔力を流し、サタンの体の内部で爆発させる。
体の中から無数の光がこぼれ、やがてサタンの身体からだは完全に消滅する――


「勝ってみせたぜ、レイン。お前のかたきちゃんと取ったぜ……」


空へ掲げた手のひらをギュッと握りしめ、涙をこらえる。
今ここで泣いてしまうと、人間の王として失格だと思っているから。


「まさか本当に倒すとは……お嬢が気に入った意味がやっと分かった」


「まぁ、ワシの力を使ったんじゃし勝って当たり前じゃよ」


「二人共ありがとう。無事にレインのかたきが取れた。心の底から感謝する」


炎と水の翼を消し、ゾモロドネガルも光の粒子になり消える。
エクスの体は、必要以上のエネルギーを消費したため既にボロボロだった。
体力は底を尽き体の自由は無くなる。
そのまま、エクスの体はバランスを崩し倒れていく。


「おっと、大丈夫か?」


「なんとかって所かな。最後の手は読まれていると予想しておいて正解だった。読みあいで負けたら、もう勝つことは不可能だったかもね……」


「エクスさん本当にお疲れ様です。貴方が居なかったら私達は――いえ、人類という文明は滅んでいました。本当に、本当にありがとうございます」


「礼を言うのは俺じゃないさ、俺に力をくれた皆に言うべきだ。特に、レインとソロモンには」


お礼を述べてきたセレネに、そう言い放つ。
それでも心の中ではエクスに感謝していた。
一体どうやってこの結末を迎えるようにしたのか理解できないが、この結末を産んだのはエクスだから――

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